鉄道各社2050年実質ゼロへ施策、国交省も「鉄道脱炭素」へ指針

記事のポイント


  1. 鉄道各社は2050年カーボンゼロへ水素電車や再エネなどの活用へ本腰
  2. JR東は2月に水素車両「HYBARI」公開、2030年実用化に向け課題を解消へ
  3. 国土交通省は8月に「鉄道脱炭素」へ中間とりまとめ、事例の共有も進める

鉄道各社が2050年カーボンゼロへ向けて、水素電車の開発や自然エネ活用に本格的に取り組む。鉄道は環境負荷の低い乗り物という印象があるが、CO₂排出量の9割が電力由来で、その多くを火力に依存する。国土交通省も8月、鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会の中間とりまとめを公表。省エネや再生可能エネルギーなどの活用を進めるとともに、「鉄道による脱炭素」も推進する。同省は取り組みのロードマップを今年度末までに公表する予定だ。(オルタナ編集部・萩原 哲郎)

水素ハイブリッド電車「HYBARI」(JR東日本提供)

■東急は100%再生可能由来の電力に切り替え

東急電鉄は今年4月、鉄道運行に使用する電力を100%再生可能由来に切り替えた。オルタナの取材に対して同社の渡邊功社長(当時)は「気候変動防止に向けて社会全体が脱炭素を目指す中、鉄道こそが率先して再エネ導入を進めるべきと考えている」と話した。(オルタナオンライン2022年5月30日掲載)

鉄道は他の交通インフラと比較すると、環境負荷の低い乗り物だ。輸送量当たりのCO₂排出量は自家用車の8分の1にすぎない。しかし、CO₂排出の9割超が電車走行や鉄道施設に利用する電力に由来し、調達電力のうち75%は火力となっている。

国交省が今回公表した中間とりまとめでは、「鉄道による脱炭素」を強調する。鉄道会社は鉄道輸送だけでなく、バスやタクシーといった他の交通インフラ、また街づくりを担うケースも多い。鉄道と関連事業が連携することで、面での脱炭素を推進する。

■JR東は「東北地域をカーボン実質ゼロに」、水素ハイブリッド電車も開発

東日本旅客鉄道(JR東日本)も先駆的な取り組みを進める。今年7月にグループとしての「エネルギービジョン2027~つなぐ~」を公表し、これからの脱炭素の取り組みや方向性を示した。

同社の環境に対する取り組みは1992年の「エコロジー推進活動の基本理念・基本方針」、96年の行動指針の制定から始まっており、30年来の取り組みだ。

同ビジョンでは「エネルギー3E+C」を示す。エネルギーの「つくる」「送る・ためる」「使う」で3つのE(環境性、経済性、安定性)の向上と、C(地域社会)の発展につなげることで、ESG(環境・社会・企業統治)経営の実践を目指す。

CO₂排出量削減目標では2013年を基準年に、2030年カーボンハーフ、2050年実質ゼロを目指す。

施策のひとつとして注目を集めるのが、水素ハイブリッド電車「HYBARI」だ。今年2月に初めて公開した。グループ経営戦略本部経営企画部門ESG・政策調査ユニットの矢野順一マネージャーは「水素は究極のクリーエネルギーだ」と話す。

一方で課題として、「航続距離やコスト、また高圧ガス保安法などの法規制、水素サプライチェーンの確立」を挙げる。2030年の実用化へ向けて、「ひとつひとつ課題をクリアにしていきたい」と意気込みを示す。

エネルギー企画部の安藤政人戦略ユニットリーダーは「2030年のカーボンハーフに向けて、JR東日本管内の東北エリアのCO₂排出実質ゼロを目指す」という。「東北復興の象徴にもしていきたい」とも語る。

すでに取り組む脱炭素施策の拡大も重要だ。エネルギービジョンには、20の拡大中の取り組みを記載する。安藤氏は「再生可能エネルギー電源の開発推進や、電車や駅の一層の省エネ、様々な環境保全技術を駅に導入する『エコステ』などは力を入れたい取り組みだ」とする。

同社では今年から設備投資に際して、CO₂削減効果を金額換算し従来の投資判断基準に加味する「社内炭素価格」を採用した。矢野氏は「スモールスタートで運用していて、今後効果を測定し、拡大について検討していきたい」とした。

■国交省「鉄道脱炭素」指針示す

国交省が8月に公表した「『鉄道脱炭素』に向けた中間とりまとめ」で述べている具体的な施策は、「2H3T」だ。エネルギーを「減らす」、再エネなどを「作る」「運ぶ」「貯める」「使う」の5つの取り組み例を示した。省エネや再エネ発電、また「運ぶ」には水素輸送や蓄電池による電気輸送などを提示する。

鉄道局技術企画課の福真治課長補佐は「2H3Tの取り組みのCO₂削減効果や事業性を調査することで取り組みの方向性を示すとともに、補助金などにより事業者の取り組みを支援していきたい」と話す。

9月には取り組み事例を共有するプラットフォームを新設した。鉄道事業者や建設会社、エネルギー関係事業者、自治体などが参画する。

今年、鉄道開業から150年の節目を迎えた。「脱炭素」を軸に官民挙げて新しい鉄道のあり方を模索している。

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萩原 哲郎(オルタナ編集部)

2014年から不動産業界専門新聞の記者職に従事。2022年オルタナ編集部に。

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