記事のポイント
- NPOの調査でLGBTQユースの「生きづらさ」の実態が明らかになった
- 10代の14%が自殺未遂を経験し、9割超が保護者との関係性に困難あり
- 家庭、学校、職場などでの「包摂的な支援」の重要性が増している
セクシュアル・マイノリティーの支援活動を行う認定NPO法人ReBit(リビット)は10月20日、LGBTQなどのセクシュアル・マイノリティーの若者を対象に実施したインターネット調査の結果を発表した。10代のLGBTQの48%が自殺を考えたことがあり、直近1年間で自殺未遂をした人は14%に及んだ。9割超が教職員や保護者に安心して相談できないと回答し、喫緊の課題が明らかになった。調査で明らかになった7つの課題を紹介する。(オルタナS編集長=池田 真隆)
リビットは12~34歳のLGBTQなどセクシュアル・マイノリティーを対象に「LGBTQ子ども・若者調査2022」を実施した。9月4日から9月30日までインターネットで回答を募り、2623人の回答結果を分析した。
調査結果からリビットはLGBTQユースの支援策を下記の通り提言した。
(1)自殺、メンタルヘルス、孤独・孤立対策における包摂的な支援
(2)LGBTQにとっても安全な学校環境づくりと情報提供
(3)ユースと保護者双方への支援体制づくり
(4)就職・転職時や職場でのハラスメントをなくすための、企業や就労支援機関での取り組み推進
今回の調査から明らかになった7つの課題を紹介する。
1:LGBTQユースは、自殺におけるハイリスク層
10代LGBTQは過去1年に、48.1%が自殺念慮、14.0%が自殺未遂、38.1%が自傷行為を経験したと回答した。日本財団の『日本財団第 4 回自殺意識調査(2021)』と比較し、10代LGBTQの自殺念慮は3.8倍高く、自殺未遂経験は4.1倍高い状況にあることが分かった。
2:LGBTQユースは、精神疾患におけるハイリスク層
10代LGBTQの52.3%が、過去1年で心身不調や摂食障害を経験したと回答した。10代LGBTQは、メンタルヘルスを測る尺度で、気分障害・不安障害に相当する心理的苦痛を感じていると想定される「10点以上」が、56.1%と半数以上だった。
厚生労働省の『国民生活基礎調査(2019)』と比較し、7.2倍高い状況で、LGBTQユースは、精神障害におけるハイリスク層に当たることが分かった。
3:LGBTQユースは孤独・孤立におけるハイリスク層
孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した10代LGBTQは29.4%、20代LGBTQは27.2%、30代LGBTQは25.8%だった。
内閣府の『孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(2022)』と比べると、孤独感が「しばしばある・常にある」の回答が、10代LGBTQは8.6倍高かった。LGBTQユースは孤独・孤立におけるハイリスク層であり、孤独・孤立施策のなかに位置付けた支援が求められる。
4:LGBTQユースの89.1%が保護者との関係で困難を経験
LGBTQユースの91.6%が、保護者にセクシュアリティーに関して安心して話せない状況にあることが分かった。
LGBTQユースの89.1%が保護者との関係で困難を経験したと回答した。具体的な困難状況は、「保護者からLGBTQでないことを前提とした言動があった」(66.0%)、「保護者に自分のセクシュアリティーを隠さないといけなかった」(49.7%)、「保護者がLGBTQに否定的な言動をした」(47.2%)、「保護者へセクシュアリティがバレてしまうことを不安に感じた」(46.5%)だった。
保護者に相談できないだけでなく、保護者との関係性自体が、困難や悩みにつながっていることが分かった。
5:LGBTQ学生の70.7%が、この1年に学校で困難を経験
過去1年の学校での経験として、LGBTQ学生の40.2%が授業でLGBTQについて学び、30.9%が教科書や副読本にLGBTQが載っていたと回答した。学校で、性の多様性について学ぶ機会が増えている一方で、LGBTQ学生の70.7%が、過去1年に学校で困難やハラスメントを経験したと答えた。
具体的な困難状況の上位3回答は、「男女別整列や名前の「さん・くん」分けなど、不要に男女分けをされた」(39.0%)、「生徒が、LGBTQに関してネタや笑いものにしていた」(35.4%)、「生徒が、性別を理由に理想的な行動を指示していた」(28.7%)などだった。
このような困難がある状況にもかかわらず、LGBTQ学生の93.6%は、教職員にセクシュアリティーに関して安心して相談できない状況にある。
LGBTQ学生の33.6%は、教職員が要因となっている困難を経験していた。「先生が、性別を理由に理想的な行動を指示していた」(27.7%)、「先生が、LGBTQに関してネタや笑いものにしていた」(12.8%)などが挙げられ、教職員の理解促進が求められる。
この1年で10代LGBTQの52.4%が「学校に行きたくない」と感じ、不登校を経験したLGBTQ中学生は22.1%、高校生は14.9%だった。文部科学省の『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(2020年)』と比較すると、不登校率はLGBTQ中学生で5.4倍高く、LGBTQ高校生では10.6倍高かった。
6:就職の採用選考時に、トランスジェンダーの75.6%が困難やハラスメントを経験
この1年で就職・転職を経験したLGB等の35.7%、Tの75.6%が採用選考時に困難やハラスメントを経験していた。LGB等の具体的な困難状況は「選考時にカミングアウトをすべきか、どの範囲ですべきか分からず困った」(16.1%)、「人事や面接官から、LGBTQでないことを前提とした質問や発言を受けた」(13.3%)、「選考時に、セクシュアリティを伝えられなかった・隠さなくてはならず困った」(10.3%)が上位だった。
トランスジェンダーの具体的な困難状況は「エントリーシートや履歴書に性別記載が必須で困った」(41.2%)、「選考時に、セクシュアリティを伝えられなかった・隠さなくてはならず困った」(35.3%)、「選考時にカミングアウトをすべきか、どの範囲ですべきか分からず困った」(33.0%)、「性自認と異なるスーツ・服装、髪型、化粧をしなくてはならず困った」(27.3%)、「性自認とは異なる性別として、就職活動をしなければならず困った」(26.8%)などだった。
25歳〜34歳のLGBTQのうち、この1年で10.5%が長期欠勤や休職を経験し、13.0%が仕事を辞めた。自由記述にも就労時の困難やハラスメントの経験が多く寄せられ、就活時だけでなく働き始めてからも継続的支援が必要な状況が明らかになった。
7:セクシュアリティーを認知したとき、69.9%が不安や戸惑いを感じていた
セクシュアリティーを認知したとき、LGBTQユースの69.9%が不安や恐れを感じたと答えた。「自分は変なのではないかと思った」(37.7%)、「人に言ってはいけないと思った」(35.0%)、「家族に知られたら悲しませるのでは、怒られるのではと思った」(34.5%)、「大人になれるのか、幸せに生きていけるのか、不安だった」(25.2%)などだ。
セクシュアリティーを認知した時点を振り返って、LGBTQユースの54.9%が相談したかった/情報がほしかったと回答した。「セクシュアリティやLGBTQについて、もっと知りたいと思った」(43.0%)、「LGBTQの同世代の人たちと知りあいたいと思った」(30.5%)、「誰かに相談したいと思った」(20.3%)、「LGBTQの大人たちと知りあいたいと思った」(17.3%)などが多かった。
LGBTQユースが自身のセクシュアリティーを初めて認知した平均年齢は14.3歳、初めてカミングアウトをした平均年齢は18.5歳で、認知から4.2年間は誰にもセクシュアリティーを伝えたり相談したりできないでいたことが分かった。
セクシュアリティについて必要な情報を得たかった平均年齢は12.5歳、実際に情報を得た平均年齢は18.2歳で、5.7年の差があった。
■自殺・メンタルヘルス・孤独・孤立などの施策・計画にLGBTQ支援を
この調査結果を受けて、リビットが行った4つの提言は下記の通り。
1:自殺、メンタルヘルス、孤独孤立に関するハイリスク層、支援体制の構築は急務
・行政の自殺、精神疾患、孤独・孤立に関連する条例や計画・施策にLGBTQを包摂し、取り組みを継続的に進めること
・各地でLGBTQユースの困難に対応できる包摂的な支援体制の構築を
2:性の多様性に関する学びの提供とハラスメントがない学校環境づくりを
・学校で、性の多様性について学ぶ機会の提供、支援体制の構築を
3:本人と保護者双方への支援体制の構築を
・地域や子育て支援のなかで保護者がLGBTQについて学ぶ機会の提供を
4:企業や就労支援機関の改善を
・就労支援機関などでのLGBTQを包摂した支援体制構築を
リビットの薬師実芳代表理事は、「この十数年で、LGBTQという言葉の認知は向上し、学校教科書の一部に掲載されるなど、様々な変化があった」と話す。一方で、本調査を通じ、LGBTQユースを取り巻く環境には未だに多くの課題があり、今も多くの困難を抱えている状況が浮き彫りになった。
「政府や自治体が、自殺やメンタルヘルス、孤独・孤立などの施策・計画にLGBTQへの支援を位置づけ、学校、家庭、職場それぞれの課題解決に取り組むことで、LGBTQもありのままで大人になれる社会になることを願う」と答えた。