サステナビリティ部員塾18期下期第1回レポート

株式会社オルタナは2022年10月19日に「サステナビリティ部員塾」18期下期第1回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。

サステナビリティ経営の重要ポイント

時間: 10:00~11:45
講師: 大喜多 一範氏(株式会社Future Vision 代表取締役 株式会社オルタナ オルタナ総研フェロー)

大喜多 一範氏(株式会社Future Vision 代表取締役)

サステナビリティ経営の重要ポイントを「SDGsの概要と目的」「サステナビリティ経営の全体像」「サステナビリティと事業経営」「企業情報開示のあり方」「サステナビリティ経営の目的」の5つの視点から解説した。

CSR、ESG、SDGsの定義を明確にし、SDGs17のゴールは、「目標」というよりむしろ、2030年の「あるべき姿」と捉えるべきと語った。洗濯機や冷蔵庫などの製品を例示しながら、目指す視点をどこに置くかで作るモノが変わり、アウトサイド・インの視点がイノベーションにつながると紹介した。

ESGについては、例えばコロナ禍では、従業員の健康が事業に与える影響が大きく(フィナンシャルマテリアル)なる。「S」の項目でも企業の健康への取り組みがトップラインで扱われるようになっており、ESGの構成要素は社会状況に合わせて常に変化すると指摘した。

大喜多氏は30年以上YKKで海外事業や商品設計に携わり、植物由来やハンズフリーのファスナーでグッドデザイン賞の受賞歴を持つ。

「サステナビリティと事業経営」の説明では、Tシャツを例に、材料、生産の労働環境、梱包、廃棄後など、調達・生産・物流・販売のバリューチェーン全体でサステナビリティの影響領域を把握し、対応することが重要と述べた。

これを図示したスライドがわかりやすく、理解が深まったという参加者からの感想もあった。その他、TCFD対応で優先的に開示が求められる項目についても解説した。

ミニプレゼンテーション 認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい

時間: 11:45~12:00
講師: 大西 連氏(自立生活サポートセンター・もやい 理事長)

大西 連氏(自立生活サポートセンター・もやい 理事長)

国内の貧困・格差の問題に取り組む認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいは、「貧困問題を社会的に解決する」というミッションのもと、生活困窮者への相談支援や、ホームレス状態の人のアパート入居支援などに取り組んでいる。

コロナ禍では毎週土曜日に東京都庁下で、生活困窮者約4.2万人に食料を配布してきた。受け取りに来る方の数は、コロナ前の120人前後から、先週には570人と大きく増えた。

大西氏は「東京で一人暮らしをするには1カ月にいくらくらいかかる?」と投げかけた。

非正規の月収は、東京都の最低賃金(1,072円)をベースに計算すると18万8,672円。正規の月収(全国平均)も、高卒約18万円、大卒約21万円、これらはあくまで額面だ。実際の手取りは4~6万円と、かなり生活が苦しいことは容易に想像できる。

「貧困」と聞くと、失業や住まいがないというイメージが強い。しかし、生活保護の利用ができる「要保護の層」や、要保護と労働市場を行き来している「生活困難層」に加え、働いているのに恒常的に低所得で生活の不安を抱える「生活不安層」が女性や若年層を中心に一定数いるのが日本社会の特徴だ。

生活を支えるための最低限の収入を示す貧困ラインは日本の場合、単身世帯で年収約127万円、二人世帯で約179万円、三人世帯で約220万円、四人世帯で約253万円という。政策や制度ではカバーできい低所得や年金生活者に、ちょっとしたサポートがあることが、多くの人々の不安解消につながると締めくくった。

②ESG情報発信とIR戦略

時間: 13:00~14:15
講師: 荒井 勝氏(日本サステナブル投資フォーラム会長)

荒井 勝氏(日本サステナブル投資フォーラム会長)

ESG投資は、年金基金・金融機関・個人などの投資家が、その社会的役割を考えて、投資先のESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みを評価して反映する投資を意味する。1920年代は「社会的責任投資」、1990年代から「サステナブル投資」、2006年ころからは、「ESG投資」とも呼ばれるようになり、専門的投資からメインストリームに変わってきた。

Global Sustainable Investment Reviewによると、世界のサステナブル投資総額は3654兆円(2020年末)に上った。日本のサステナブル投資残高も514兆円に急増している(出典:日本サステナブル投資フォーラム)。

講師の荒井勝・日本サステナブル投資フォーラム会長は「2006年にPRI(国連責任投資原則)が発足し、2007―2008年にリーマンショックが起きた。日本ではESG投資に資金がまわってこなかったが、逆に欧米では長期投資の重要性が高まり、ESG投資が延びた」と背景を語る。

その後、2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名すると、日本でもESG投資への関心が急速に高まった。同時期にコーポレートガバナンス・コード、日本版スチュワードシップ・コードが策定し、ESG投資が拡大した。

「私たちは地球の限界に突き当たっている。日本人と同じ生活を世界中の人がすると、地球が2.8個必要になる。サステナブルとは、将来世代の必要性を満たすことを犠牲にせず、現在世代の必要性を満たすこと。『世代間正義』という概念もあるが、ESG投資には長期的な視点が必要だ」(荒井会長)

情報開示の枠組みとしては、IIRC(国際統合報告評議会)とSASB(米国サステナビリティ会計基準審議会)が合併してVRF(価値報告財団)を設立したり、IFRS財団がサステナビリティ会計基準を開発したりするなど、基準を統一化しようとする動きがある。

荒井会長は「ESG投資は2021年に大変革期を迎えた。ESG情報開示のグローバル・ベースラインの確立に向かっている。今後は法的に開示請求される時代になっていくだろうし、後戻りすることはない」と強調した。

③サステナビリティの社内浸透

時間: 14:30~15:45
講師: 太田 康子氏(リコージャパン 経営企画センター コーポレートコミュニケーション部 SDGs推進グループ マネジャー)

太田康子氏(リコージャパン)

リコーは1990年代からサーキュラーエコノミーを社内浸透させ、2002年に日本企業で2番目に国連グローバル・コンパクトに署名、07年に日本企業で最初に「RE100」に署名、パリ協定が締結された15年のCOP21ではオフィシャルスポンサーを務めるなど、早くからサステナビリティに関する取り組みに力を入れてきた。現在は経営方針に「事業とSDGsの同軸化」を掲げている。

その国内販売会社であるリコージャパンが力を入れているのがCSRレポートの勉強会で、太田氏が講師として2年かけて全国48の支社を回った。

「レポートを発行しっぱなしにするのではなく、その内容を社員一人ひとりが腹落ちして実践することが大切」と太田氏は指摘する。実際に、さまざまな形で効果が表れているという。

育児の悩みが原因で退社を考えていた男性社員は、社内の男性育休制度を紹介したレポートのコラムを読み「こんなこともできるのか」と、退社を思いとどまった。

ある営業社員はレポートをもとに社会課題の解決を切り口に提案を行うようになり、顧客との関係を深めることができた。これまでは受付の手前までしか入れなかったのが、奥の応接室に入れてもらい役員クラスと対話できるようになり、契約に結びついた。

社内浸透のために、毎年必ず「SDGs強化月間」を設け、全国の支社・部門でSDGsキーパーソン(22年8月現在約520名)を募るといった取り組みも欠かさない。

社内浸透が進んだ結果、リコージャパン全体としてSDGsに取り組むことに加えて「自分たち独自のサステナビリティ目標を立てたい」と声を上げる支社・部門も出ている。

④企業事例:積水ハウスのESG経営推進について

時間:16:00~17:15
講師:小谷美樹氏(積水ハウス株式会社技術管理本部エグゼクティブ・スペシャリスト)

小谷美樹氏(積水ハウス)

積水ハウスは1960年に設立した。グループは不動産をはじめ、リフォームや建設などの会社がそろう。社員はグループ連結で2万8000人以上が在籍する。売上高は2兆5895億円となり、住まいに特化したビジネスを展開する。

2020年の中期経営計画のなかで30年ビジョンを策定した。会社設立当初は戦後の住宅不足のなかで安全・安心な住宅の提供、1990年以降では快適性の追求が行われ、2020年からは「人生100年時代の幸せ」を据える。

重点に置くのがESG経営の推進だ。2020年6月から推進体制を組む。推進する要素として「全従業員参画」「先進的な取り組み」「社外評価向上」の3つを重視する。

「全従業員参画」では全従業員がESGを認知・理解・共感して行動につなげることを目標とする。具体的には社員同士でコミュニケ―ションをとるESG対話や地域貢献の情報発信を行うつながりカフェ、幸せ度調査などに取り組む。

また共感し行動を起こすプログラムとして、従業員と会社の共同寄付制度「積水ハウスマッチングプログラム」や、イノベーション意識を誘発する表彰制度「SHIP」がある。

susbuin

サステナ経営塾

株式会社オルタナは2011年にサステナビリティ・CSRを学ぶ「CSR部員塾」を発足しました。その後、「サステナビリティ部員塾」に改称し、2023年度から「サステナ経営塾」として新たにスタートします。2011年以来、これまで延べ約600社800人の方に受講していただきました。上期はサステナビリティ/ESG初任者向けに基本的な知識を伝授します。下期はサステナビリティ/ESG実務担当者として必要な実践的知識やノウハウを伝授します。サステナ経営塾公式HPはこちら

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