記事のポイント
- 国際障がい者権利委員会は日本政府の障がい者施策に関して勧告を出した
- 意思に関係なく介入・干渉する「パターナリスティック・アプローチ」が散見
- 個人の尊厳や法の前の平等などに照らし合わせて法律や施策の見直しが必要
国連障がい者権利委員会は2022年9月、日本政府に対して、障がい者施策に関する勧告を出しました。もともと、日本では取り組みの原理が障がい者の人権を意識した立法・政策ではなく、『パターナリスティック・アプローチ』で政策を進めているとの指摘があります。（CSRストラテジスト・松田 雅一）
パターナリスティックとは、「パターナリズム」（父権主義）に由来し、強い立場にある者が弱い立場にある者の利益のために、本人の意思にかかわらず介入・干渉・支援するものです。
この問題にかかわらず、日本の社会全般に起こっている軋轢（あつれき）とも言える事象の背景には、パターナリズムが潜在していることを認識し、日本社会の持続可能性を考えるうえで留意すべきことを考察します。
日本の最高法規である日本国憲法では、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義の三つを基本原理とし、全ての国民は個人として尊重（同13条）され、法の下に平等で差別されない（同14条）と規定しています。
しかし実際には、日本社会の法律・施策・仕組み・考え方が憲法の主旨を見失い、逸脱して、社会の軋轢となって表出していることがあります。
先の障がい者施策においては、障がいを個性・違いと捉えられるのが良いはずです。この前提に立てば、先の国連勧告の主旨から言っても、精神障害者の強制入院や、「分離を前提とした特別支援教育」は改善の余地があります。
勧告に対して、罰則規定がないからとネガティブに短絡的に反応するのではなく、丁寧に読み込んでその勧告の意味するところを深く理解し、今後日本としてこの施策にどう取り組むべきかを熟考し、仕切り直す必要があります。
ところで、日本では無意識のうちに同じように『パターナリスティック・アプローチ』でフィルター（区分・規制）にかけた上で政策を進めていることが、このほかにも散見されます。
例えば
- 小学校の運動会で事前に走る速さを測定しておいて、速さの近しい生徒同士を走らせるような事象
- 医学系の大学入試試験で、女性の合格率が高く、男女比がアンバランスになるのを避けるため合格点に男女差をつけて操作した事象
特に②は、もともとは女性比率を増やさないつもりが、一生を左右する場面で公正さを欠くばかりか、重大な男女差別・人権侵害を犯していたものです。
一見すると関係の無い個々の事象のようにも思えますが、憲法で保障された個人の尊厳や法の下の平等を前に、まずは画一性のフィルターに通してしまう行為は、閉じた社会の公平らしさを保とうとするために個人の公平性や公正さを見失っているのではないでしょうか。
個人の尊厳や法の下の平等は、憲法で保障された国民が幸せに生きるための権利であることを知りつつも、いろいろな社会の制約の中で、パターナリズムに陥った法律や施策が存在しているのが日本の現状です。
SDGsの課題項目に当てはめると、
目標5： ジェンダーの平等を実現する
目標10： 人や国の不平等をなくす
目標16： 平和と公正をすべての人に実現
ーーの3目標が、持続可能な社会のあり方であるならば、憲法が規定する基本原理に対し、その法律や施策の枠組み全体を照らし合わせて（個人としての尊厳、法の下の平等がその法律や施策を通じて常に確保されているのか）点検し見直す必要があります。
この点検・見直しについて、最後に選択的夫婦別姓の最高裁判断に触れます。ご承知のように、民法第750条の「夫婦の氏」（夫婦同姓）に関する最高裁の判断は、二度『違憲ではない』とされました。
選択的夫婦別姓制度の導入は国民的議論のもと立法府で解決すべき、社会のコンセンサスを形成したうえで立法府が判断すべきとの見解です。
民法の中の夫婦同姓制度にのみフォーカスして、国民のコンセンサスを形成することが、果たして正しいアプローチと言えるのか、課題は別のところにある気もします。
松田雅一(まつだ・まさかず)
静岡大学法学科卒業、東レエンジニアリング株式会社入社、海外関係会社（韓国）社長を4年間歴任後、同社役員を9年間担当。2020年3月第1回ＣＳＲ検定1級合格（CSRストラテジスト）
