■フロン管理の現場から―RaMS導入事例紹介(5)
「20世紀最大の発明の一つ」とも言われたフロン(CFC:クロロフルオロカーボン)は、それまで有毒な冷媒を使っていた冷凍空調機に大きな進歩をもたらした。ところが、そのフロン類がオゾン層を破壊するメカニズムが発見され、世界で規制が進む。日本でも2020年4月施行の改正フロン排出抑制法で、罰則が大幅に強化された。企業はどのようにフロン類を管理していけば良いのか。積極的に課題解決に取り組む企業を紹介する。(聞き手・香川希理=弁護士、記事・萩原 哲郎=オルタナ編集部)
第5回 デンカ株式会社
環境保安部 三宮 幸雄氏
聞き手:香川 希理 弁護士(香川総合法律事務所代表、企業法務とフロン排出抑制法が専門)
総合化学メーカーのデンカは1915年に創業した。カーバイド(炭素と陽性元素の化合物)からの誘導品として肥料である石灰窒素の製造・販売を目的に「北海カーバイド工場」を継承し、三井系有力者の出資で設立した。2015年に現社名に改称した。国内外に多数の拠点を有し、従業員数は連結で6358人に上る。
現在は、電子・先端プロダクツ、ライフイノベーション、エラストマー・インフラソリューション、ポリマーソリューション、新事業開発部門の5つの事業部門を展開する。生産する製品は乾電池基材やゴム補強材などとして使用されるアセチレンブラックやワクチンや各種ウイルスの抗原検査キット、セメント、食品包装材料など、多岐にわたる。
第一種特定製品総所有台数は6191台で、内訳は空調用3868台、冷凍用・プロセス冷却用2323台(2022年9月15日現在)。(連載・PR)
安価な導入コストと業務負荷低減が魅力に
――貴社は2020年11月、2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すと発表されました。幅広い製品を手掛けていますが、脱炭素やフロン削減に対しての取り組みについて教えてください。
当社は、2018年度にスタートした5カ年経営計画「Denka Value-Up」のなかで、「2050年カーボンニュートラル」、その中間点である「2030年カーボンハーフ(50%削減)」を掲げ、ロードマップを策定して、再生可能エネルギー利用拡大、CCUSの開発実装、省エネや生産プロセス改善などに取り組んでいます。
例えば、水と反応させるとアセチレンガスが発生し、そのガスが溶接・切断ガスや有機合成製品の原料などに使われるカーバイドは、1915年の会社創業当時から続く事業ですが、電気炉設備を使用して、石灰石から製造します。電気使用量が大きいので、新潟県の青海工場では、山に設置した水路の高低差を利用した水力発電を活用しています。その最大出力は一般家庭の15万世帯の消費電力に相当する、14万キロワットに上ります。
フロン対策に関しては、可能なところから手掛けています。2015年4月にフロン排出抑制法が施行し、四半期ごとに全事業所の担当者と連絡を取り合い、算定漏えい量をフロン種ごとに集計、経営層や事業所の保安管理部門に報告するなど排出抑制へ取り組みを進めてきました。
ノンフロンやカーボンニュートラルへの投資は、これまでの「一般投資」から「戦略投資」に引き上げます。戦略投資はこれまでよりも積極的に投資を行っていくことで、経営計画の数値目標実現と企業の持続的な成長を目指すものです。
――水力発電は今でこそ再生可能エネルギーのひとつとして注目を集めています。それを御社では温室効果ガス削減などがテーマになる以前から取り組まれていたのですね。
大正4年(1915年)の会社設立当時は、現在のような電力供給網が整備されておらず、工場を動かす電力を、自社で水力発電所を建設して調達する必要がありました。工場の生産拡大とともに、自社で建設する水力発電所の数も増えていきました。優れたクリーンエネルギーを創出する17カ所の水力発電所は、当社の重要な財産であり、今後も可能な限り増発電に取り組みます。
また、ケミカルリサイクルへの取り組みも力を入れていく方針です。
直近では、今春からプラスチック新法が施行されました。当社の持ち分法子会社の東洋スチレンでは、ポリスチレン樹脂をモノマーまでケミカルリサイクルするプラントを千葉工場に建設中です。来年度(2023年度)下期に稼働する予定です。
――環境が今後、御社のますますの強みになりそうですね。そのなかで「RaMS」(冷媒管理システム)を導入したきっかけについて教えてください。
2019年6月に改正フロン排出抑制法が公布されました。以前から、RaMSについて環境省などの広報で存じていました。日本冷媒・環境保全機構(JRECO)が主催する改正法の説明会に出席して、RaMSの説明を聞きました。改正法下、極力フロン算定漏洩量1,000トン‐CO2は避けたい中、安価なコストで事業所の負担軽減にもつながるものと思い、JRECOの担当者も交えながら事業所と調整を行って、2020年4月に全社(本社、7工場、1研究所)導入となりました。
経営層や現場の改正法への理解も進む
――導入のメリットを教えてください。
メリットは4つあります。
1つ目は業務負担の低減です。従来、管理状況を本社が現場担当者に確認し、担当者もそれぞれの現場で確認しなければなりませんでした。全ての機器がシステム上で紐付けされてシステムネットワークに入ってくるようになり、本社と現場担当者の手間が省ける仕組みが出来上がりました。
2つ目はフロン排出抑制法の趣旨が現場に浸透することにも寄与しました。製造現場ごとに機器管理者を明確にしたことで、法の理念や趣旨を現場へ浸透させる効果があったと思います。
3つ目は、第一種特定製品の機器情報の共有が迅速化したことです。私が所属する本社環境保安部を統括管理部署に登録することで、いつでも社内の情報を入手できるようになりました。RaMSから機器の補修状況や更新などに関する情報を事前に確認し、現場と適格なやり取りができるようになりました。四半期ごとの経営層への報告にも役立っています。
最後の4つ目は経営層やコーポ―レート部門のフロン排出抑制法の解釈や理解の深まりです。2019年9月からRaMSの全社導入に向けて経営層への説明や当社ESG情報サイトにフロンの管理状況の公表を行ってきました。RaMSを中心に、社内にフロン排出抑制法が浸透したと思います。
当社では、毎年3月にRC委員会で経営層や事業所長、コーポレート部門の責任者がフロンを含むグループ全体の環境パフォーマンスデータをレビューするのですが、その場でもRaMSが役立っています。一部の事業所の敷地内では当社社員が製造を請け負う関係会社があり、関係会社が所有する冷凍機器などもRaMSに登録し、関係会社のフロンの管理状況も同時にRC委員会で情報共有が可能となりました。
――RaMS導入前はどのように管理していましたか。
改正前のフロン排出抑制法では1,000トン-CO2の漏えいで報告する必要が生じました。それぞれの事業所から報告を聞き、紙やエクセルで集計するなど、業務は煩雑でした。漏洩機器の特定も大変だったのですが、RaMSを導入してからは機器1台毎のデータが特定でき、そういった煩雑さは無くなりました。
――「フロン排出抑制法」順守状況などを調査した第1回JRECOフロン格付けでは、東証一部上場1350社のなかで、最上位のAランク企業に選出されました。このAランクには16社しか選ばれていません。今後、モントリオール議定書・キガリ改正による生産調整で、先進国では2024年には基準年2011-2013年から40%のフロンの供給削減が求められています。貴社ではどのような対策をしていますか。
対象となるR22とR123の冷媒を使用する機器については、2019年度に保有する機器を調査し、2020年度から順次、設備投資計画に織り込んで更新を積極的に進めています。代替冷媒やノンフロン化が難しい機器についても、引き続き調査・検討を進めていきます。
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JRECO(一般財団法人日本冷媒・環境保全機構)とは
一般財団法人日本冷媒・環境保全機構は、冷凍空調機器からの冷媒フロン類(CFC、HCFC、HFC)の大気放出抑制、使用の合理化及び管理の適正化に係わる事業の推進を、関係事業者との連携及び行政当局との協調のもとで実施している。
事業の一環として2015年に施行されたフロン排出抑制法の遵守ツール「RaMS」をクラウドで提供する。「RaMS」には主務大臣から認可された「情報処理センター」機能を含み、書面によらない一元管理とデータ解析によるDX推進が可能だ。
RaMS(冷媒管理システム)とは
RaMSは第一種特定製品(業務用冷凍空調機器)とその冷媒の管理ができるクラウドシステム。経済産業省と環境省から認可された情報処理センター機能を包含し、法により管理が義務付けられている全書面を電子的に改正法に準拠した形で管理でき、フロン排出抑制法を遵守することが可能になる。
機器の所有者にとって、法遵守のための機器の総棚卸しは煩雑で負担が大きな作業だが、RaMSを活用することで少ないリソースで管理できる。経営に活かせるデータの解析や温対法算出も可能だ。
代替フロンやRaMSについて詳しく知りたい方はこちら→ yamamoto(a)jreco.or.jp
(a)を@に変更してお送りください。