COP27の基礎資料 「IPCC報告書」を わかりやすく解説(2)

記事のポイント


  1. IPCC報告書はパリ協定「1.5℃目標」など、気候変動に関する国際的合意の根拠に
  2. COP27もIPCCの科学的知見をもとに議論が進むはずだが、報告書の内容は難解
  3. 気候変動が地球環境に与える影響など、ポイントをわかりやすく解説する

脱炭素の議論で必ず耳にするのが、IPCC報告書だ。パリ協定の「1.5℃目標」など国際的合意の根拠は、この報告書が元になるケースが多い。11月6日に始まった「COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)」も、IPCCの科学的知見をもとに議論が進むはずだ。しかし報告書は難解で、読むにも一苦労だ。そこで前半に続いて、最新版となる第6次評価報告書の「第1作業部会報告書」についてできるだけ分かりやすく説明してみる。(オルタナ客員論説委員・財部明郎)

シナリオを用いて気候変動の影響を予測

■B章:5つのシナリオで将来の気候を予想

前回記事で紹介した第1作業部会報告書のA章は、地球温暖化の現状と原因について述べた。B章は、地球温暖化が進むと気候がどう変化していくのかについて記述している。

報告書では温室効果ガス(GHG)の排出量別に、表―1に示す5つのシナリオを想定し、気候モデルを用いて将来の気候をシミュレートしている。シナリオ別のCO2排出量は図―5のようになる(メタンのような他のGHGについても同様に想定されているが、ここでは省略)。

表―1 気候モデルのシナリオ

図―5 各シナリオにおけるCO2の排出量推移予測

人間が排出するCO2は、2015年現在で年間40Gtだが、排出量が「非常に少ない」シナリオでは2055年頃にゼロ。「少ない」シナリオで2075年頃ゼロとなる。

「中程度」のシナリオでは今後、若干増えるが、2055年頃から減少に転じる。「多い」シナリオではこれからも増え続け、2090年頃に2015年の倍に、「非常に多い」シナリオでは2050年頃に倍、2075年頃には3倍となる想定だ。

■どのシナリオでも「1.5℃上昇」は避けられない
各シナリオにもとづく地球の平均気温のシミュレーション結果を示したのが、表―2だ。シミュレーションは幅を持って示しているが、ここに掲げた数値はその中で最も可能性が高い値を示している。


表―2 シナリオ分析による将来の地球平均気温の上昇(1850~1900年の平均気温との比較)

19世紀後半(1850~1900年)の平均気温と比べた将来の気温は、どのシナリオでも短期的には1.5℃程度上昇する。2050年頃には、GHG排出量が「非常に少ない」シナリオで1.6℃、「中程度」で2.0℃、「非常に多い」では2.4℃上昇すると予想されている。

そして、今世紀末(2081~2100年)になると「非常に少ない」シナリオの気温上昇は1.4℃に緩和されるが、「中程度」では2.7℃、「非常に多い」では4.4℃上昇する。

気温変化は地球全体で均一でなく、海洋に比べると陸地の方が1.4~1.7倍温暖化しやすい。北極と南極は熱帯地域よりも早く温暖化し、特に北極の温暖化速度は地球平均の2倍以上になる。

図―6 地域による気温の変化

■1.5℃に抑えても豪雨や台風は増加 

地球温暖化が0.5℃進行するごとに、極端な高温(熱波)、大雨、一部地域では干ばつの強度と頻度が明らかに増加する。

どのシナリオでも2040年頃までに1.5℃の温暖化は避けられず、それによって観測史上例を見ない水準で異常気象が発生すると予想されている。以下にシミュレーションによって予想された現象の一部を紹介する。

大雨は温暖化が1℃進行するごとに約7%強まり、豪雨は多くの地域でより強く、より頻繁に発生するようになる。強い熱帯低気圧(台風)の発生数とピーク時の風速も増加する。


降水量への影響は高緯度帯と太平洋赤道域、モンスーン地域の一部では増加するが、亜熱帯の一部と熱帯の一部地域では減少する。雪の多い地域では、春の融雪の開始が早くなるが、これによって雪解けによる川の流量のピークが早まり、夏季から春季に移行する。

エルニーニョや南方振動による降雨の変動は、21世紀後半までに増幅する。モンスーンによる降水量は、中期から長期にかけて南アジア、東南アジア、東アジアとサヘル極西部から離れた西アフリカにおいて増加すると予測している。

■北極の氷がすべて融ける季節も

温暖化が進むにつれて永久凍土が融け、積雪面積も季節によって消失する。北極では、2050 年までにまったく氷のない状態が出現する。グリーンランドと南極の氷床は、21世紀を通して減少し続けると予想される。

山岳地帯や極域の氷河は、今後数十年または数百年にわたって融解し続ける。永久凍土が融ければ、そこから炭素(メタンなど)が放出される。

21 世紀の残りの期間中の海水温の上昇は、最もGHG排出量の少ないシナリオで、1971~2018年の間の変化に比べて2~4倍、「最も多い」では4~8倍となる。海水温の上昇によって海の深層部分が酸性化し、貧酸素化し、数百年から数千年間は元に戻らない。

世界の平均海面水位は21世紀の間、上昇し続けるのがほぼ確実だ。2100 年時点の平均海面水位の上昇はシナリオによって異なるが、1995~2014 年の平均と比べて以下のとおりである。

・GHG排出量が非常に少ない  0.28~0.55 m
・少ない      0.32~0.62 m
・中程度      0.44~0.76 m
・非常に多い    0.63~1.01 m

GHG排出量が非常に多いシナリオでは、海面水位が最大で1m程度上昇すると予想されているが、南極やグリーンランドの氷床が予想を超えて融解する可能性もありうる。この場合、可能性は低いが海面上昇は2100 年までに2m、2150 年までに5mに達する恐れも否定できないとされている。


図―7 世界平均海面水位の変化

■C章: 温暖化は人間にとってどんなリスクがあるのか

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takarabeakira

財部 明郎(オルタナ客員論説委員/技術士)

オルタナ客員論説委員。ブロガー(「世界は化学であふれている」公開中)。1953年福岡県生れ。78年九州大学大学院工学研究科応用化学専攻修了。同年三菱石油(現ENEOS)入社。以降、本社、製油所、研究所、グループ内技術調査会社等を経て2019年退職。技術士(化学部門)、中小企業診断士。ブログでは、エネルギー、自動車、プラスチック、食品などを対象に、化学や技術の目から見たコラムを執筆中、石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中

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キーワード: #脱炭素

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