木は燃やさずに住宅などにして炭素を蓄えよう

■小林光のエコめがね(23)■

記事のポイント


  1. 超党派の国会議員を主なメンバーとする国際会議地球環境行動会議が10月末に開かれた
  2. 独気候学者のシェルンフーバー氏は、炭素貯蔵庫としての木材の可能性を強調した
  3. 天皇陛下は一人ひとりの行動の重要性を話した

地球環境行動会議(GEA)は、超党派の国会議員を主なメンバーとし、環境に熱心な経営者や学者などが実行委員会を作って開催する国際会議だ。その源は、1992年にリオで行われた、今やレジェンドの「地球サミット」を目前に、東京で開かれた「地球環境賢人会議」にある。地球サミットでの合意形成が一番難航すると目された地球環境資金の世界的な動員に関する方針を下書きすべく開催された。

木造住宅は炭素の貯蔵庫にもなる

その後、この賢人会議の議長であった竹下登元総理をパーマネントな議長に、GEAが発足した。爾来、ハイレベル、そして専門家、とレベルはいろいろであるが、我が国の政権交代やコロナ禍にもかかわらず、連綿と会議を積み重ねてきた。

ハイレベルの国際会議の時は、皇太子時代の陛下、妃殿下時代の皇后陛下が欠かさず出席されていて、今回も両陛下揃ってご出席になった。それだけ、右顧左眄のない大道を行く発信の機会となっている。

この長命な会議の30周年の機会が、10月末の会合だった。地球環境賢人会議の時の環境庁担当官の一人であった私にとっても感慨深いものがあった。

特に両陛下は単にお言葉を賜ってくださるのではなく、基調講演にも他の参加者とともに耳を傾けて下さり、これが会議自体の成功や発信力に大きく寄与している。

今回も2人の基調講演者の意見に熱心に聞き入っていらっしゃった。そして、私も神妙にご一緒に聞かさせていただいたが、我が意を得たりという意見の開陳があったので、読者諸賢とも共有したい。

それは、ポツダム気候影響研究所の名誉所長のハンス・J・シェルンフーバー氏の卓見である。

氏は、「地球とその生態系が営々として炭素を地中に貯め込み化石燃料を作ったのと同じようなことを今度は人間がしよう」と述べ、「森林にCO2を吸わせ、その木材を燃料にするよりは、材木などとして人間界に固定しよう」と訴えた。

そして、そうした慧眼を、第二次世界大戦を前にして実行に移した人物としてアインシュタインを紹介した。

アインシュタインは、石づくりや鉄骨造りがもてはやされたその頃に、わざわざ完全木造の別荘をポツダム郊外に建て、ベルリンを避けて夏を過ごしたそうである。

シェルンフーバー氏は、その夏のヴィラの写真を示して説明したが、私にとって、さらに共感を呼んだのが、そのヴィラが大きな展望デッキを持っていたことだ。木造でデッキ付き。私の金山デッキと同じような発想だった。

ちなみに、私はそこで、八ヶ岳を見ているが、アインシュタインは、自分がよくヨットをする湖を観ていたそうだ。広く遠くまで見渡すことが達観を呼び込むことは言うまでもない。思い切って建てて正解だったと思いを強くしたが、しかし、展望し、想いを馳せないといけないとの啓示を受けた気分でもあった。

ところで、天皇陛下のお言葉である。陛下は、地球環境が人間のせいでさいなまれている状況を長く紹介した上で、今や、私たち一人ひとりが行動することが問われている、とした。

陛下の用いられるお言葉の限界に近い、強いメッセージを発していらっしゃった。奇しくも、アインシュタインも、地球を壊すのは、狂人ではなく、狂人の行いを見ても見ぬふりをする一般の人々だ、と言った、とシェルンフーバー氏は基調講演を結んだ。

バイオマス燃料も良いが、木は、木材としてこそもっと使おう。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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キーワード: #脱炭素

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