COP27でようやく注目された食と気候変動の深刻さ

記事のポイント


  1. ロシアのウクライナ侵攻により、食料価格の高騰と食料不足が顕著になっている
  2. 世界保健機関(WHO)による気候変動対策と食にまつわる新しいイニシアティブが発足
  3. 気候変動に対応した農業イノベーションは、投資に対し10倍のリターンがある

人類は食と気候変動の深刻さを改めて考えるべく局面を迎えている。エジプトで20日に閉幕したCOP 27(第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議)では、初めて「食」にまつわるパビリオンが登場し、気候変動と合わせて、食糧問題への注目が集まった。深刻化する気候変動に加え、ロシアのウクライナ侵攻により、食料価格の高騰と食料不足が顕著になっている。気候変動に対応した農業イノベーションは、投資に対し10倍のリターンがあると言われており、具体策の実行が急がれる。(在外ジャーナリスト協会:寺町幸枝)

8日、イタリア政府環境・エネルギー安全保障省のパビリオンで登壇したサラ・ロヴェルシさん(左) (写真:Future Food Institute)

COP27で「適応と農業」が議題に

今回のCOP27の6日目に「適応と農業」が議題に上がり、食にまつわる問題と気候変動に関する議論が開始された。食料不足への不安の高まりに対し、世界の小規模な農村にサステナブルな農業を導入することが、食料確保につながるだけでなく、経済効果も高いことや、食生活やフードシステム(食料供給システム)の変革の重要性が示された。

経済情報を提供するブルームバーグは、COP27をきっかけに、「農業食糧システムは気候変動への適応を切実に必要としている。この分野で、気候変動に関係する資金を投入することが期待される」と報道。経済面で現在、気候変動資金のたった3%にしか満たない農業分野への投資が、一気に広がるとの見方を示した。

さらに、COP27期間中に世界保健機関(WHO)による気候変動対策と食にまつわる新しいイニシアティブ「Initiative of Climate Action and Nutrition (気候対策行動と栄養に関するイニシアティブ/通称I-CAN)」が発足。国連食糧農業機関(FAO)ら、いくつかの国連機関を中心に、「持続可能で、気候変動に強い健康的な食生活へのシフト」を促す具体的なアクションを提示していくという。

気候変動対策での農業の技術革新は高いリターンを期待できる

国連の気候・環境担当マネージング・ディレクターのライアン・ホバートさんは、COP27を目前に、「食料と農業のイノベーションに注意を払わなければ、食料安全保障、栄養、気候の目標を達成することはできない」と発言している。気候変動対策に焦点を当てた農業イノベーションが、投資に対して10倍のリターンが期待できることが最近の研究から分かったことも挙げた。

気候変動は「食物の収穫量と損出」に大きな影響を与え、作物の栄養価はもちろん、「食品価格」と「カロリー摂取量」にも波及する。一方で、食料システムそのものが、温室効果ガスの放出や土地の劣化を招き、気候変動を引き起こすこともわかってきた。

今年6月のロイターの記事によれば、14兆ドル(約1963兆円)を運用する投資家グループが、気候に悪影響を与える温室効果ガス排出量の高い農業部門を、持続可能なものにするための「世界的なロードマップ」の必要性を国連に対して要請したという。

持続可能な食のエコシステム作りを

こうした流れの中で、「持続可能な食の世界」を構築するための教育コンテンツや、キャンプ式の教育プログラムをFAOに提供しているのが、イタリア発のNGO「フューチャーフード・インスティチュート」だ。

代表のサラ・ロヴェルシさんは11月8日、COP27のイタリア政府環境・エネルギー安全保障省のパビリオンで、地中海食に着想を得た、食糧面で持続可能な未来の都市をテーマにしたイベントに登壇した。

ロヴェルシさんらは、イタリアやギリシャ、スペインといった地中海沿岸の国々で伝統的に食べられてきた「地中海食(Mediterranean Foods)」を中心に、「持続可能な食のエコシステム」作りが、サステナブルで強固な社会構築につながると訴える。

地中海食はオリーブオイルをふんだんに使い、野菜や果物を豊富に摂り、ナッツや豆、未精製の穀物を中心にした主食で構成された食のスタイルだ。肉より魚を多く使う料理が中心で、地中海食で用いられる食材には、生活習慣病のリスクを減らし、長寿を招くと言われている。

伊ポリカ市が示す官民一丸となって作る未来の街

実際、ユネスコ無形資産に指定されている一方で、過疎化と高齢化が深刻な問題になりつつあるイタリアのポリカ市では、気候変動に耐えうる食のエコシステムとして、包括的な生態系再構築のための枠組み作りに取り組んでいるという。その「Pollica2050(ポリカ2050)」という戦略的ビジョンは、市と民間企業を繋いだ大きなうねりになりつつある。

ロヴェルシさんらは、地中海食という伝統に目を向ける一方で、農業生産や食料開発の面では、最新のテクノロジーを積極的に導入する。こうした動きは2014年のフューチャーフードの活動開始以来、パンデミックの中でも着実に効果を上げ、来年にはEU圏内にそのノウハウが共有されていく見込みだという。

teramachi

寺町 幸枝(在外ジャーナリスト協会理事)

ファッション誌のライターとしてキャリアをスタートし、米国在住10年の間に、funtrap名義でファッションビジネスを展開。同時にビジネスやサステナブルブランドなどの取材を重ね、現在は東京を拠点に、ビジネスとカルチャー全般の取材執筆活動を行う。出稿先は、Yahoo!ニュース、オルタナ 、47ニュース、SUUMO Journal他。共同通信特約記者。在外ジャーナリスト協会(Global Press)理事。執筆記事一覧

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キーワード: #脱炭素

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