「センス・オブ・プレイス」を感じる愛媛県西条市

記事のポイント


  1. 「センス・オブ・プレイス」を感じさせるまちづくりが本格化している
  2. 愛媛県西条市は、「住みたい田舎ベストランキング」で3年連続1位に
  3. Love Saijoというシティプロモーションは今後の進化が期待できる

日本にもすばらしいまちが多く、「センス・オブ・プレイス」を感じさせるまちづくりが各地で本格化しつつある。そのような「協創の鼓動」は特にSDGs未来都市で強く感じる。2021年SDGs未来都市になった愛媛県西条市は、「住みたい田舎ベストランキング」で3年連続1位に輝いた。(千葉商科大学基盤教育機構・教授/ESG/SDGsコンサルタント=笹谷 秀光)

西条市の水の多い風景

個性ある「まち」づくりが求められている

自治体のまちづくりは、ハード面とソフト面から行われる幅広い社会的投資活動である。まちづくりでは、OECD(経済協力開発機構)が示す「センス・オブ・プレイス」という考え方が興味深い。

これは訳すと、「その場所を特別と感じさせる何か」という意味だ。要すれば「まちの個性」のことだ。

筆者は数多くの欧州都市を訪問したが、歴史、伝統、文化、自然が育むまちの雰囲気の違いから、鮮明に印象に残るまちが実に多い。

今や日本でも、「センス・オブ・プレイス」を感じさせるまちづくりが各地で本格化しつつある。

「住みたい田舎ベストランキング」で1位の愛媛県西条市

宝島社が発行する『田舎暮らしの本』(2022年2月号)の「2022年版 住みたい田舎ベストランキング」において、若者世代・単身者部門で、2020~2022年の3年連続で1位を獲得した市がある。愛媛県の西条市だ。

このランキングは、宝島社が、月刊誌『田舎暮らしの本』で2013年2月号から毎年実施しているもので、2022年に10回目を迎えた。

移住定住の促進に積極的な市町村を対象に、移住支援策、医療、子育て、自然環境、就労支援、移住者数などを含む276項目のアンケートを実施した。751の自治体からの回答をもとに、田舎暮らしの魅力を数値化し、ランキング形式で紹介している。

2022年は、人口別に5グループ(1万人未満のまち、1万人以上3万人未満のまち、3万人以上5万人未満のまち、5万人以上20万人未満のまち、20万人以上のまち)に分けて、それぞれ「若者世代・単身者「子育て世代」「シニア世代」の3部門でのランキングと全国12エリア別のランキングを発表した。

西条市は、5万人以上20万人未満のまちの中で、「若者世代・単身者」部門で3年連続1位になった。なお、2022年では「子育て世代」「シニア世代」の部門でも愛媛県今治市に続いて第2位である。

西条市の特色

西条市は、愛媛県東予地方にある。人口は107,052人、世帯数50,763(令和3年)の自治体である。上記のランキングの分析では次の3点が特色とされている。

①「起業型地域おこし協力隊」など、若者のチャレンジ(起業)を応援

②西日本最高峰石鎚山や加茂川の清流、瀬戸内海などアウトドアスポットの宝庫。公共スポーツ施設も充実

③天然水が豊富。市内の一部地域では、上水道ではなく「うちぬきと呼ばれる湧水を利用

市のホームページによれば、2022年度の移住者の約8割を若者・子育て世代が占めている。コロナ禍においてもインターネットを十分に活用したオンライン相談や、若い起業家の支援にも注力し、若い世代の活力がさらに若者を呼ぶという好循環を生んでいる、と自己評価している。

「うちぬき」が醸し出す「センス・オブ・プレイス」

西条市のシンボルである「うちぬき」をめぐってみた。これは環境省の名水百選にも選ばれている、地下水の自噴井である。市内の随所に天然水の湧き水があり、水の都を感じる。

この中でも特に海沿いにあった「弘法水」と名付けられた湧き水がユニークだ。「弘法水」というのは、日本各地にあり、弘法大師が発見した水とされる。西条の「弘法水」は本陣川の河口で海に近いところにあった。小屋で囲われているが、確かに水がふつふつと湧き出ている。

弘法水

目に留まったのは、弘法水の「世話人」の碑である。地域の人々の名前が刻まれていた。地域の「協創」により保全されている象徴である。

シティプロモーション「LOVE SAIJO」

西条市は2021年にSDGs未来都市に選定され、未来都市の提案の中にはもちろん、環境面で、豊富な地下水資源や石鎚山系独自の固有種などの貴重な資源(財産)にめぐまれていることを挙げている。

社会面では、市民の都市への愛着度が高くホスピタリティに満ち溢れ近年では移住者の聖地として注目を集めていることを記載した。

そして、経済面では、一次産業から三次産業までバランスよく集積し四国屈指の産業都市として発展していることを打ち出した。

このように、経済・社会・環境の三位一体というSDGsの理念の体現を目指す。これに加え、西条市は2021年度「自治体SDGsモデル事業」にも選定された。事業のタイトルは次の通りだ。

LOVE SAIJOポイントを介して「ヒト」と「活動」が好循環する持続可能なまち西条創生事業、「西条市SDGs×西条市DX」の推進による地方創生の実現

地域ポイント制度を通じて市民参加型のSDGs活動を促進する仕組みである。この「LOVE SAIJO」がシティプロモーションのキーワードでもある。

特設ホームページによれば、「LOVE SAIJO まちへの愛が未来をつくる」。これは、市民や西条ゆかりの方々と話し合い、めざすまちの姿を表したキャッチフレーズ・ブランドメッセージだ。

この言葉には、「まちを知り、好きになることが新しいあなたと未来の西条市をつくる」 「住む人も、訪れる人も、まちを想う人も。 西条への『好き』が何かをはじめるきっかけになりますように」というメッセージを込めている。

まさに「センス・オブ・プレイス」を磨くためのメッセージだ。

このシティプロモーションのキーパーソンが、移住促進課でも活躍してきた、経営戦略部シティプロモーション推進課副部長兼課長の柏木潤弥氏だ。

柏木潤弥氏(左)と筆者

「市内外からのアプローチを断らない」をモットーにしているだけあって、気さくにお話ししていただき、早速筆者もシンボルフラッグで参加した。

シティプロモーション推進課の隣にはSDGs課もあり、今後のSDGsで目を離せない市であると感じた。

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笹谷 秀光(CSR/SDGsコンサルタント)

東京大学法学部卒。1977年農林省入省。2005年環境省大臣官房審議官、2006年農林水産省大臣官房審議官、2007年関東森林管理局長を経て、2008年退官。同年~2019年4月伊藤園で、取締役、常務執行役員等を歴任。2020年4月より現職。著書『CSR新時代の競争戦略』日本評論社・2013年)、『協創力が稼ぐ時代』(ウィズワークス社・2015年)。『 経営に生かすSDGs講座』(環境新聞社・2018年)、『Q&A SDGs経営』(日本経済新聞出版社・2019年)。 笹谷秀光公式サイトー発信型三方よし 執筆記事一覧 

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キーワード: #SDGs

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