ポール・ポールマン氏「野心的目標が最高の企業文化に」

記事のポイント


  1. 元ユニリーバCEOのポール・ポールマン氏が書面インタビューに応じた
  2. コロナなどでSDGsの進捗は遅れるが、野心的目標を下げてはいけないと強調
  3. より高い目標を掲げる企業こそ「最高の企業文化」を生み出すと話した

元ユニリーバCEOで国連グローバル・コンパクト副議長のポール・ポールマン氏がオルタナ編集部のインタビューに書面で応じた。SDGsの目標年まで10年を切ったが、新型コロナやウクライナ戦争の影響で取り組みは遅れている。ポールマン氏は、「野心的な目標を下げてはいけない。より高い目標を掲げる企業こそ最高の企業文化を生み出す」と強調した。(オルタナS編集長=池田 真隆、北村 佳代子)

ポール・ポールマン:
国連グローバル・コンパクト・ボード副議長、ユニリーバのCEO (2009-2019) として、同社のサステナブル経営をけん引した。現在は世界中の様々な組織やイニシアティブで活動し、地球や経済社会の再生に取り組む。サステナビリティの専門家であるアンドリュー・ウィンストン氏と共同で著書『Net Positive』を出版、世界の問題を生み出すのではなく、解決することで成功する企業を構築する方法を説明した。

SDGsは人類の「青写真」

――国連グローバル・コンパクトには、世界160カ国以上2万超の組織が参画しています。国連グローバル・コンパクトへの期待と課題を教えて下さい。

国連グローバル・コンパクトは、企業が、国連の提唱するSDGsを実践することで、より高い収益性と強靭性(レジリエンス)を得られるよう支援するものだ。SDGsの17目標は、より強く、より強靭で、より包摂性のある世界経済を創造する。そして誰一人として取り残されることがないように設計されている。

私は幸運にも、当時のコフィー・アナン国連事務総長の招きで、SDGsを最初に設計したハイレベル・パネルに参加することができた。SDGsは人類の「青写真」だ。同時に、今世紀の「ビジネスプラン」でもある。

もし実行されれば、2030年までに年間12兆ドル(約1800兆円)の市場、3億8千万人の新規雇用が創出できるだろう。

日本では500社の企業が国連グローバル・コンパクトに加盟している。もっと加盟企業が増えてほしい。会員になれば、世界中の企業と効果的なネットワークを形成でき、実用的なベストプラクティスについても共有できる。

多くのCEOがよりサステナブルで、責任ある倫理的な経営を行いたいと考えている。一方で、そのためのツールが足りず、競合上不利になることを恐れてもいる。国連グローバル・コンパクトは、その両方に対処する上でも役立つものだ。

――国連グローバル・コンパクトの副議長としての役割は何ですか。

私の尊敬するアントニオ・グテレス国連事務総長に代わって国連グローバル・コンパクトの議長を務めるという強大な特権がある。国連グローバル・コンパクトは、地球規模の大きな課題解決に向けて、企業による貢献を加速させる素晴らしいプラットフォームだ。

気候変動と不平等という2つの課題ほど緊急性の高いものはない。民間企業だけではSDGsを達成することはできない。化石燃料を存続させる不当な補助金の廃止や、地球温暖化抑制に向けたより野心的な目標への合意などは政府に委ねられているからだ。

しかし、こうした変化を推進する上で必要な力や創意溢れるアイデアを、必要なスピード感かつ規模感でもたらせるのは、民間セクターしかない。

この変革期を進んでいくには、全業界の企業が一緒になって動く必要がある。だからこそ、国連グローバル・コンパクトをはじめとする各種のコラボレーションが非常に重要なのだ。  

「ネット・ポジティブは今世紀最大の事業機会」

――ポールマンさんは、「ネット・ポジティブ」のコンセプトのもと、すべてのステークホルダーの「ウェル・ビーイング」を促進しようとしています。

私の使命はユニリーバにいたときから変わっていない。すなわち、問題を生み出すのではなく、世界の課題を解決することで利益を上げる企業をつくることだ。

今の私が以前と何が違うかといえば、その「規模」だ。1つの企業を経営する立場から、業界を超えた連合や、企業や政府、市民社会とのパートナーシップの構築を支援することが私の役割になった。こうした役割を果たせる立場にあることをとても幸運だと思っている。

例えば、ファッション業界では、70社以上の企業が「ファッション協定」の下、生物多様性や脱炭素などの課題に取り組んでいる。ウクライナ侵攻によって、より持続可能な世界の食料システムの重要性が浮き彫りになった。フードバリューチェーン全体での協力体制も構築している。

一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンは11月21日、都内で年次シンポジウムを開き、ポールマン氏をゲストに招いた

「ネット・ポジティブ」というのは、私がサステナビリティの専門家アンドリュー・ウィンストン氏と共同執筆した書籍の名前だ。「地球環境を積極的に再生・修復する企業」「社会を癒し強化しようとする企業」「壊れたシステムを見直すために他者と協働する企業」を指す。

このような取り組みを通じて、企業は自らの存在意義とレジリエンスを高め、事業を運営することを社会から許されるのだ。

今世紀においては、ネット・ポジティブであることがおそらく最大の事業機会だと(著書の中で)指摘した。率直に言って代替案はない。

ビジネス変革拒むと170兆ドルの経済損失

――ユニリーバは、サステナビリティを標榜するブランドとして、他社に比べ売り上げの拡大にも成功しました。サステナビリティをブランド戦略に組み込むうえで、何が最も重要ですか。

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M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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