帝国ホテル東京料理長が率いる「食」を通じた課題解決

記事のポイント


  1. 帝国ホテルは11月30日、「食のサステナビリティフォーラム2022」開催
  2. 食ロス削減やサーキュラーエコノミーの視点で食材やレシピの見直しを加速
  3. 廃棄予定食品を用いた商品開発で食品ロスの削減を行う

帝国ホテルは11月30日、第14代帝国ホテル東京料理長・杉本雄氏による「食のサステナビリティフォーラム2022」を開催した。帝国ホテルは、杉本料理長のリーダーシップの下、「おいしく社会を変える」プロジェクトを発足し、食品ロスの削減や、サーキュラーエコノミーの視点で食材やレシピを見直す取り組みを加速する。新設した料理長直轄のFB(フード&ビバレッジ)商品開発室は、食品を廃棄しない取り組みとして、野菜などの皮を活用したサステナブルソルトや、耳まで白いサンドイッチパンをすでに開発した。杉本料理長は、食を通じて社会課題を解決するには、これまでの「当たり前」を再考することが大事だという。(北村佳代子)

第14代帝国ホテル東京料理長・杉本雄氏

「日本の迎賓館」として開業した帝国ホテルは、初代会長・渋沢栄一の「社会の要請に応え、貢献する」という信念を受け継ぎ、「ラグジュアリーとサステナビリティの両立」を掲げる。2036年までの中長期経営計画においても、すべての企業活動でSDGsへの貢献度を最大限向上させていくことを、基本戦略の柱の一つとしている。

「ラグジュアリーとサステナビリティは一見、相反するように思われるかもしれない」。杉本料理長は、そう前置きし、「しかし、ラグジュアリーという非日常を追求する中で、サステナビリティという道徳的な取り組みが新たな価値となって、ラグジュアリーの価値をより深めていく」と説明した。

帝国ホテルは「おいしく社会を変える」をテーマに、過去1年間、①新たな視点での食材選定、②食を通じた次世代の育成、③「当たり前」を再考、④すべての人が「ラグジュアリー」を享受できる多様性の実現、の4つの取り組みを進めてきた。

例えば新たな食材の選定には、子牛を生み育てるために飼育されてきた経産牛を再肥育して食肉に生まれ変わらせたほか、買い手がつかず市場に出回りにくい未利用魚の活用も進めた。

食品ロスの削減に向けた取り組みも加速している。9月にホテルショップ「ガルガンチュワ」で販売を開始した「サステナブルソルト」は、じゃがいもやグレープフルーツの皮を活用したフレーバーソルトだ。食品を廃棄するのではなくアップサイクルして新たな商品として生まれ変わらせた。

「帝国ホテルでは、ポテトサラダの提供のために毎日何十キロものじゃがいもを茹でる。これまで茹でたあとの皮は全部廃棄されていた。これを何とか食材として使いきれないか。そういう思いから開発した商品なので、これだけで商売をしたくないと思い、売上の一部を環境保護団体に寄付する形とした」(杉本料理長)。

ほかにも、サンドイッチの提供時に切り落としていた食パンの耳に着目し、耳まで白いサンドイッチ用食パンを開発した。パンの耳のリサイクル方法を考えるのではなく、そもそも廃棄が出ない食パンを開発しようという発想の転換から生まれた。

「ビジネス中心の発想だと、商品の形としてはきれいさや美しさが優先される。そこに道徳的な思考を加えると、商品はどうなるか。それを突き詰めて考えた結果、廃棄の出ないパンを作ろう、そもそもレシピづくりから変えよう、という思いで、パン耳を切り落とさなくてよいサンドイッチパンの開発に至った」(杉本料理長)。

帝国ホテル東京では、2023年度中に提供するすべてのサンドイッチからパンの耳の廃棄をなくすことを目指し、製造設備の更新を順次進めていく。杉本料理長の、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)を意識したレシピ開発はまだ続く。

今、料理長が注目している食材は、赤いトマトの生産過程で発生し、廃棄される青いトマトだ。通常、トマトを栽培時には、収量増加と品質の向上に向けて、適切なタイミングで摘果を行う。摘果された青いトマトを、「トマトとしてではなく、野菜として向き合うことで、価値を与えられないか」と杉本料理長は考える。

「生産者の方々が、われわれに見せてくれるのは、生産者がいちばん売りたいものだ。けれどもこれからは、必ずしもわれわれには見えていない部分にも目を向け、そこに技術を吹き込むことで、新たな価値を創り上げていきたい」(杉本料理長)。

ほかにも、信州大学とのパートナーシップの下、アルゲンフリー、グルテンフリーで、GABAやポリフェノールが豊富なスーパーフード「ソルガム」きびの活用も検討している。耕作放棄地が増加する中で、比較的手間がかからず省力栽培が可能なソルガムは、農業の抱える課題解決につながることを期待する。

「われわれ一人では何もできない。有識者や専門家、生産者とともに考えていきたい。華やかできらびやかでラグジュアリーなフランス料理をご提供し、お客様に喜んでいただくことはわれわれにとっての王道。そのうえで、食べ物を通して社会課題を解決することに、料理長として積極的に挑戦していきたい」(杉本料理長)。

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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