海上の「奴隷労働」防げ:「責任ある漁船基準」が始動へ

記事のポイント


  1. 「責任ある漁船基準」がサプライチェーンのベンチマークとして承認を受けた
  2. これにより、海上での「奴隷労働」が厳しく制限されることになりそうだ
  3. 日本政府はこれまで海上の奴隷労働は手つかずで、行政措置が求められる

船員の人権保護に強く焦点を当てた認証規格である「責任ある漁船基準」が11月16日、持続的なサプライチェーンイニシアティブ「SSCI」のベンチマーク承認規格になった。近年では、海上における「奴隷労働」の実態が明らかになり、漁業というサプライチェーンにおける人権保護の対応が急がれる。日本政府は行政措置を取っていない。(オルタナ編集部)

世界水産物連盟(GSA)は責任ある水産物の発展のために活動する国際NGO団体だ。これまで養殖における第三者認証を運営しており、社会的責任のある養殖サプライチェーンの構築に力を入れている。

今回SSCIに承認された「責任ある漁船基準(RFVS)」は世界水産物連盟が2021年に開始したBSP(ベスト・シーフード・プラクティス)認証の一部であり、漁船上での乗組員の安全と福祉に特化したものだ。

具体的には、船員が適切な訓練を受けて安全な環境で働き、給与や食事、休憩時間が保障されていることなどが評価対象となる。名称は「責任ある漁船基準」だが、対象は漁業だけでなく、海運も含む。

「責任ある漁船基準」の一部は下記の通り。

・乗組員は、食事、宿泊、個人用保護具、懲戒処分、怪我や病気に起因する医療費など、いかなる理由であれ、法定要件(税金など)を除いて、報酬から控除されることはないものとする。

・各乗組員は、入船・退船の雇用上の権利を十分に認識し、自由に判断していること。

・漁船が一回の漁業または支援航行で72時間を超えて海上にいる場合、各乗組員は自分の寝床/寝台を持つものとする。

サステナブル・サプライ・チェーン・イニシアティブ(SSCI)は「検証者を検証する」、第三者の監査と認証を行う。「責任ある漁船基準」はSSCI認証によって持続可能性規格にさらなる信頼性を獲得し、また海上オペレーション範囲においてそれを達成した世界初の規格となった。

船舶における現代奴隷の実態

近年、海上の人権をめぐるニュースが後を絶たない。

2021年に報じられた、「中国の漁船でインドネシア人船員ら10人死亡」のニュースは海上における「奴隷労働」の実態を露わにしたものだった。

2019年から2020年にかけて、中国の水産会社「大連遠洋」が運営するマグロ漁船で、10代~20代のインドネシア人の乗組員ら10人が死亡した。この問題の大きな原因は、遠洋漁業における「洋上転載」であった。

燃料コストを抑えるため、中国の「大連遠洋」の漁船は1、2年間以上港に寄らず、マグロ業を続けていたという。これにより、船員が病気になってもなかなか港に寄ってもらえず海上で死亡する事例が続出した。

労働環境も劣悪なものが多いという。1日の平均労働時間は16~18時間と長いにも関わらず、十分な食事は与えられず、飲料水は船で蒸留した蒸留水であったという。また、インターネットへの接続が出来ず、家族への連絡も取れない環境だった。

この問題は、インドネシアの派遣会社3社の社員5人に「違法募集」や「人身売買」の罪で有罪判決を出すことで終止符を打った。

後れをとる日本の「労働人権」政策

中国の漁船での人権侵害は日本も大きく関わる。この問題となった中国漁船「大東遠洋」の取引先である東洋冷蔵は三菱商事グループが95%出資している子会社であったからだ。この問題に対し、三菱商事グループは人権侵害を防ぐ対策を取っていたと主張した。

米国は2021年5月、強制労働を理由に大連遠洋が漁獲したマグロの輸入を禁止したにも関わらず、日本は米国のような行政措置を取っていない。また、船舶乗り組み員の保護を目的とした、日本独自の「船員法」ではサプライチェーンの人権保護は難しかった。

国際労働機関ILOは2007年に漁業労働条約(第188号)を発行している。第188号では、船上や陸上における医療や労働安全衛生、休息期間、書面による労働契約、他の労働者と同水準の社会保障による保護など、漁船上の労働に関する主要事項についての拘束力ある要件を定めている。この条約に批准しているのは、フランス、アルゼンチンを含む10か国であり、日本は批准していない。

日本は、世界有数のマグロ消費大国であり、このような問題に最前線で取り組む責任がある。消費者がどのようなマグロを自身が食べているのか分からないことも問題だ。

このような状況の中、国際NGO世界水産物連盟の「責任ある漁船基準」保証が明確になり、漁船上での乗組員の安全と福祉の対応へ前進したことは大きな一歩といえる。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #ビジネスと人権

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