アダストリア、素材そのものをサステナブルに

記事のポイント


  1. アダストリアは環境負荷の少ないサステナブルな素材へ切り替えを進める
  2. 30年までに全商品のうち半分以上をサステナブルな原料・加工に切り替える
  3. 衣類は生産過程で発生するGHGが大半、サステナ素材が削減の鍵だ

グループで30を超えるブランドを展開する大手カジュアルチェーンのアダストリアは衣類の素材そのものをサステナブルに切り替える。2030年までに全商品のうち半分以上の商品を、環境・社会に配慮したサステナブルな原料・加工へと切り替える目標を掲げた。サステナビリティ担当役員である福田泰己取締役にその戦略を聞いた。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)

福田泰己・アダストリア取締役
1978年生まれ。2004年に米オハイオ州のフィンドレー大学経営学修士過程修了後、2005年ポイント(現アダストリア)入社。店長、エリアマネジャーで「小売りの現場」を経験し、経営企画部門でM&Aに参画。海外事業統括、マーケティング・EC事業責任者を経て2017年より取締役に就任。現在、ガバナンス・サステナビリティを担当する。

――企業理念は「なくてはならぬ人となれ なくてはならぬ企業であれ」です。「なくてはならぬ」という言葉にはどのような思いが込められていますか。

アダストリアの前身は1953年創業の「福田屋洋服店」ですが、その前にも祖父が会社を経営していました。しかし、戦時中だったこともあり、倒産しました。

祖父は債権者に迷惑をかけてしまったと頭を下げてお詫びしました。そして、1953年に福田屋洋服店を立ち上げるのですが、その際にも、お金を出して頂いたのです。

そうした方に報いようと考えた結果、「なくてはならぬ」という理念が生まれました。文字通り、世の中から求められないと会社はなくなってしまうという意味です。

今では株主などのシェアホルダーだけでなく、取引先、消費者、地域、環境などマルチステークホルダーにとって「なくてはならぬ」存在になることを指針に経営しています。

こうした考えが行動指針として社内に浸透しているので、サステナビリティを社内で推進する際に反対意見は出ませんでした。

――サステナビリティの考えに賛同しても、コスト面などから実際に行動できないこともあります。どのようにして社内にサステナビリティの考え方を浸透させていますか。

現在、国内外で約1400店舗運営しています。これだけの規模になると、メールでのコミュニケーションがベースになりますが、それだと不十分です。考え方を冊子にまとめても上手く浸透しませんでした。

経営者が自分の言葉で直接語り掛けること以上に有効な施策はありませんでした。経営層が各地域に出向く「タウンミーティング」では、社員たちと直に話すことで、企業理念やミッションについてみんなで考える機会を設けています。

社員の平均年齢が30代前半なので、ミレニアル世代です。環境意識は高く、気候変動やファッションロスに対する会社の考え方に関する質問は多いです。

カーボンニュートラルの目標年は2050年で、残り30年あります。ですが、私は2050年に向けた長期的な課題ではなく、「喫緊の課題」であることを強調します。

地球温暖化による豪雨や台風の増加、四季がなくなることによる商品動向の変化はマーチャンダイジングに大きな影響を及ぼすからです。異常気象で社員が出勤できず営業に支障をきたすこともあるでしょう。こうした状況が続けばお店は閉店してしまうかもしれません。

マーケットそのものがなくなる可能性もあるので、企業間の垣根を越えて最優先で取り組む課題だと捉えています。

今後、社会から「選ばれる」ファッションブランドになるためには、ファッションがもたらす「ワクワク感」を持っているかどうかだと思います。

このワクワク感を構成するのは、デザイン、品質、価格だけではなくなりました。商品 の裏側が重要です。きちんと社会や環境に配慮した設計になっていることが求められます。

アダストリアでは環境、人、地域の3点をサステナビリティの重点領域としています。

「環境」は脱炭素とサステナブルなものづくりやファッションロス、「人」はウェルビーイング実現や女性活躍推進をはじめとするダイバーシティ経営の推進、「地域」は出店地域の活性化と生産拠点の持続的な成長です。

――アパレル企業の人権課題の一つが、新疆綿の調達です。どのように考えていますか。

当社では公平で倫理的な取引を目指すグループ調達方針を設けています。この方針のもと、人権の尊重や労働環境の整備、環境への配慮や腐敗防止を明記したグループ調達ガイドラインを定め、これに則った調達を行なっています。

――2050年カーボンニュートラルを目標に掲げています。

アダストリアでは今年初めてスコープ1~3までの温室効果ガス(GHG)の排出量を算出しました。事業活動における排出量を可視化することでスタートラインにようやく立てたと考えています。

排出量(※)は年間で516,000t-CO₂、その内スコープ3のカテゴリー1(原材料の調達)が8割を占めます。※集計範囲:国内グループ会社(Adastria eat Creationsとゼットンを除く)

ファッションにおける脱炭素化の最大の課題は、「素材」です。素材から発生するCO2が大半なので、素材そのものをサステナブルなものに変えていくことが重要です。

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..