サステナビリティ部員塾18期下期第3回レポート

株式会社オルタナは2022年12月14日に「サステナビリティ部員塾」18期下期第3回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。

①「脱炭素」と企業戦略

時間: 10:30~11:45
講師: 松原 弘直氏(環境エネルギー政策研究所(ISEP) 主席研究員)

再生可能エネルギーの専門家である松原氏が、「自然エネルギー100%への展望」と題して講義をした。エネルギー危機によって太陽光や風力などの再エネ価格に加え、蓄電池の価格も低下してきており、さらに再エネ化を進めることで世界の目標(2050年カーボンニュートラル)は実現できると解説。自然エネルギーを導入することで、GHG排出量の抑制に加え、導入が進むことでコストが低下して経済性が向上するほか、エネルギー安全保障や、分散型のレジリエントなエネルギーシステムの構築にも寄与するなど多くのメリットがあると説明した。

1GW(=1000MW=百万kW)は原子力発電1基分に相当するが、世界は現状、太陽光と風力だけで200GWの供給量に達している。グローバルな視点から日本を見ると、太陽光発電の供給は、中国、米国に続く第3位で、人口1人当たり600W(太陽光パネル2枚分)の太陽光を持っている一方で、風力の導入が進んでおらず太陽光の比率が高いことが特徴だと解説。風力は、中国、米国、ドイツの順で導入が進む中、日本は、ほぼ同じ国土面積のドイツが65GWであるのに対し5GW弱となっていると説明した。

講義は、充実した資料とともに世界・日本の再エネ進捗状況を多角的に俯瞰した。講義後は、日本で2021年に太陽光の年間導入量が減少に転じたことの背景や、企業が再エネを調達するときの戦略の立て方など、参加者からの質問が相次いだ。太陽光については、FIT制度からFIP(フィードイン・プレミアム)制度への移行やPPA(電力販売契約)へと切り替えていく移行期にあるため、減少に転じたのは一時的なものだとの松原氏の見解が示された。ほかにも東京都が進める「カーボンハーフ2030」の意義や、地熱や洋上風力・陸上風力の見通しなどについても質問が及んだ。

事例紹介:フェアトレード・ラベル・ジャパン

時間: 11:45~12:00

講師: 潮崎 真惟子氏(認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン 事務局長)

認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパンは、ドイツを本拠としたグローバル組織の日本における運営団体で、世界各国で連携しながらフェアトレードを推進している。開発途上国70カ国以上が参加し、140か国以上でフェアトレード商品が取引されている。フェアトレードと聞くとコーヒーをイメージする人も多いが、商品はバナナやごま、サッカーボールなど多岐にわたり、日本では200社以上の事業者がフェアトレード認証に参加している。

フェアトレードは、人権や環境に配慮した生産物をフェアトレード価格で取引し、プレミアム(奨励金)を、生産者組合が使途を考え、貧困・教育・医療等に活用するもので、SDGsの17の目標すべての達成に貢献する。また国際フェアトレード認証制度によって、SDGsウォッシュの排除にも寄与している。

日本では「ビジネスと人権」に関して9月に「人権尊重に関するガイドライン」が発表されたが、代表的な取り組みの一つがフェアトレードだ。世界の子供の10人に1人が児童労働者という危機的状況の中、日本では、「現代奴隷」が関与した産品をG20諸国中2番目に多く輸入(2018年)しているなど、間接的な児童労働/強制労働への関与が見られる。

フェアトレードは世界の市場規模が1兆円あるが、日本では昨年急拡大したもののその規模はドイツの1/18で、一人当たり購入額はスイスの1/108と依然遅れている。イオンでは2030年までにPBのコーヒー・カカオを100%フェアトレードにすることを目指すなど、小売業者の参画は心強いが、業種問わず取り組めるので、フェアトレード産品を扱っていない企業もまずは社内コーヒー等から導入を検討してほしいと呼びかけた。

野心的な長期目標をどう設定するか

時間: 13:00~14:15

講師: 後藤 敏彦氏(NPO法人日本サステナビリティ投資フォーラム 理事・最高顧問)

「1972年に国連人間環境会議(ストックホルム会議)があり、地球環境に取り組み始めて50年が経つが、残念ながら地球環境は悪化している」。後藤敏彦・NPO法人日本サステナビリティ投資フォーラム理事・最高顧問は、こう話し、講演を始めた。

「地球環境資源は有限である。SDGs(持続可能な開発目標)は『我々の世界を変革する』ことを掲げている。つまり、『持続不可能』な文明を持続可能な道筋に変えるということ。いままでの延長線上にあるのではない、ということをよく理解する必要がある」と強調する。

野心的な長期目標のつくり方として、今後は、会社の中長期のありたい姿(目的地)として「企業の発展戦略」を描き、SDGs戦略、TCFDシナリオプランニング・分析の一体化させることが必須になってくるという。

シナリオ分析の前に、自社のビジネスモデルがサステナブルかどうかの検討が必要で、サステナブル(持続可能)であれば、それを強化し、アン・サステナブル(持続不可能)であれば新たなビジネスモデルの検討が必要だとする。

「ありたい姿は、目的地であって、架空の夢物語ではない。その時点で想定される制約条件をクリアすることが必要だ」とし、2050年の制約条件として下記の例を挙げた。

・大部分の業種でCO2排出が不可
・人口は1億人以下、高齢化率45%
・鉄を除きメジャーメタルはほぼ枯渇
・クローズド・ユース以外での石油由来のプラスチックは使用不可

「日本企業は細かな基準や規則にしばられている。例えば、『同業よりも劣った公開はしない』など、情報公開に関する基本方針はつくるべきだが、中身はある程度『適当』で良い。大方針をつくって、あとは適当にやる。規則に従うのではなく、自分たちで考えて柔軟に対応していくことが重要だ」と、参加企業を激励した。

③WS(野心的な長期目標をどう設定するか)

時間: 14:30~15:45

講師: 森 摂(株式会社オルタナ 代表取締役 オルタナ編集長)

ワークショップでは、受講生がグループごとに分かれて、自社の脱炭素目標について現状や課題を話し合った。全体セッションでは各グループから「中間目標を終えてからの長期目標の策定の仕方」や「長期目標の基準年の設定方法」についての質問が出された。これらの質問に対して、第二講で講師を務めた後藤敏彦氏が回答し、「バックキャスティングでのローマップの策定」や「2050年がスタンダードだが、『野心的目標』なら少し前に設定することも良い」とアドバイスした。

④企業事例:SOMPOホールディングスのサステナブル経営戦略

時間: 16:00~17:15

講師: 平野 友輔氏(SOMPOホールディングス株式会社 サステナブル経営推進部 部長)

SOMPOグループは国内損保を起点に、海外保険、国内生保、介護・シニア、デジタルと5つの事業を展開する。経常収益は4兆1674億円(2021年度)、29カ国・地域に拠点を持ち、社員数は約7万4000人を誇る。

SOMPOグループではMYパーパスを考える上で、自分自身の人生・キャリアを「WANT(内発的動機)」「MUST(社会的責務)」「CAN(保有能力)」の3つの観点で振り返り、それらの重なりを見つけMYパーパスを考える方法を勧める。画像は同社サイトから

「安心・安全・健康」領域で、社会的価値を創出してきた。創業時は、住宅数の増加に伴い「火災保険」、そして自動車の普及とともに「自動車保険」を発売した。今では気候変動に対応した「農業保険」、高齢化に対応した「健康応援機能付き保険」などをつくった。

このように変化する社会課題への解を提供することで成長してきた。CSR・サステナビリティへの取り組みも早かった。1992年に国内金融機関では初となる環境課題への専門部署「地球環境室」を立ち上げた。

その後、環境からCSRに軸足を移し、2004年に「CSRコミュニケーションレポート」を発行した。その後、CDPや国連グローバル・コンパクト、PRIなど国際イニシアティブに積極的に参画し、事業を通じて社会課題の解決に取り組んだ。近年では、マテリアリティ(重点課題)を踏まえたパーパスを策定し、サステナブル経営に進化させた。

同社のパーパスは、「『安心・安全・健康のテーマパーク』により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」だ。このパーパスをもとに、重視する社会課題を2つ特定した。

それは、「ニューノーマル」と「少子高齢化」だ。ニューノーマルは気候変動、パンデミック、デジタル社会などを指す、この2つの社会課題に対して、「130年の歴史を通じた信頼と実績」「多様な人材」「高い課題解決力」を通して、価値創造ストーリーを描いた。

そして、その実現に向けた事業戦略をベースに、向き合う社会課題とESG・SDGsの関係性を一覧化した。SDGsの169ターゲットと紐づけし、優先的に取り組む課題を特定した。こうしてできたのが、7つのマテリアリティだ。

だが、平野氏はこれらの情報を体系化しただけでは、社員は腹落ちしないと強調する。そこで、同社が行ったのが「マイパーパス」の策定だ。社員一人ひとりが過去を振り返り、自分はなぜ働くのかを深堀するワークショップを実施した。

講義では、マイパーパスを起点に自社のパーパスを腹落ちさせるための施策についてノウハウを明かした。

susbuin

サステナ経営塾

株式会社オルタナは2011年にサステナビリティ・CSRを学ぶ「CSR部員塾」を発足しました。その後、「サステナビリティ部員塾」に改称し、2023年度から「サステナ経営塾」として新たにスタートします。2011年以来、これまで延べ約600社800人の方に受講していただきました。上期はサステナビリティ/ESG初任者向けに基本的な知識を伝授します。下期はサステナビリティ/ESG実務担当者として必要な実践的知識やノウハウを伝授します。サステナ経営塾公式HPはこちら

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