イタリア出身の日立サステナ責任者が掲げるDEI戦略とは

記事のポイント


  1. 日立製作所の ロレーナ・デッラジョヴァンナ・チーフ・サステナビリティ・オフィサー
  2. 従来の「D&I」に公正性を意味する「E」を加えた「DEI」と成長戦略との統合を進める
  3. DEI戦略のほか、脱炭素化や社内炭素価格の効果などについても語った

■ロレーナ・デッラジョヴァンナ(日立製作所チーフ・サステナビリティ・オフィサー)インタビュー

日立製作所のダイバーシティ推進を担うイタリア出身のロレーナ・デッラジョヴァンナ・チーフ・サステナビリティ・オフィサー。2020年4月に担当役員に就任して以来、従来のD&I(多様性と包摂)に公正性を意味する「E」を加えた「DEI」と成長戦略との統合を進める。「サステナビリティは成長のドライバーになる」と話す同氏に、その真意を聞いた。(聞き手・森 摂=オルタナ編集長、吉田 広子=オルタナ副編集長)

自身の経験から異なる文化に触れることが大切だと語る(撮影・高橋慎一)

ロレーナ・デッラジョヴァンナ
日立製作所チーフ・サステナビリティ・オフィサー兼チーフ・ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン・オフィサー(CDEIO)兼グローバル環境統括本部長。イタリア・ミラノ生まれ。1988年日立ヨーロッパ入社。2007年に南ヨーロッパ地域の財務担当役員、2010年に日立ヨーロッパ本社のある英国でヨーロッパ域内シェアードサービスビジネスディレクター、2015年にイタリアでカントリー・マネジャーとなった。2020年4月にダイバーシティ&インクルージョンの担当役員に就任し、2021年4月から環境も担当。2022年4月から現職。

――イタリアと英国でキャリアを積まれ、2020年11月に日立製作所本社がある東京に来られました。印象はいかがですか。

東京は巨大でありながら、秩序があり、清潔で、穏やかで、静かで、とても好きな街です。これまでもビジネスで何度か日本に来たことはありましたが、今回はパンデミック下での来日でした。

リモートワークがメインでしたので、オフィスや職場外でのリアルな交流がなく、当初はコミュニケーションが難しい面もありました。

私はイタリア生まれですが、仕事で英国にも住んでいました。違う場所で暮らし、異なる文化や考え方に触れることで、たくさんの素晴らしい学びを得ました。心を開くことの大切さも知りました。

日立でも才能ある人たちが国や地域を超えて、共に働くということが、互いに良い影響を与え合うと考えています。「バイアス(偏見)」を取り払うことにも役立ちます。日本でも、多様性のあるチームで、学び合うことができてうれしいです。

――10月に、ロレーナさんの肩書きがCDIOからCDEIOに変わりました。「ダイバーシティ(D:多様性)」「インクルージョン(I:包摂)」に「エクイティ(E:公正性)」が加わりましたが、その狙いを教えてください。

「公正性」に重点を置き、コミットメントを強化するためです。「公正性」とは、すべての従業員が公平に扱われることを意味しています。

日立は、世界70カ国以上に約37万人の従業員がいて、とても多様です。一人ひとりが異なる能力や経験、アイデア、価値を持っています。そして、この多様性を生かす最も良い方法は、すべての人に発言権を与え、誰もが声を上げる機会を持ち、キャリアの選択肢を持つということです。

私はDEIを含むサステナビリティ全般に責任がありますが、人事部門とも連携しながら、「公正性」の観点で、採用やリテンション(人材の維持・確保)、昇進、企業文化など、すべての方針やプロセスを確認していきたいと考えています。

CEOもコミットしたうえで、タスクフォースを立ち上げ、すべてのビジネスユニット、すべての地域で「公正性」が実装されているか、確認していきます。

異なる意見が大きな成果生み出す

――私の仮説ですが、「多様性があるほど生産性が高まる」と考えています。

同感です。同じような考えを持つ人たちが集まれば、結論は早く出ます。迅速な意思決定を素晴らしいととらえる人もいるでしょう。しかし、そこに「議論」はありません。

異なる意見を持つ多様なチームは、結論を出すのに長い時間がかかります。しかし、その結果、同質性の高いチームよりも、はるかに多くの人々のニーズを満たす、大きな成果を挙げるのです。

日立は、社会に貢献するために、世界中で技術やソリューションを提供しています。DEIは、イノベーションを創出し、ビジネスの成長を支えます。優秀な人材を引き付けることにもつながります。ですから、すべてのビジネスユニットの成長戦略にDEIを統合しました。

とはいえ、やはり国ごとに宗教や言語、習慣、ビジネスが異なりますから、困難もあります。そのため、組織はグローバルでありながら、「ローカル」で行動することを心掛けています。グローバルなフレームワークのもと、すべてのビジネスユニットに地域リーダーを置き、地域のニーズに応えるようにしています。

■「無意識の偏見」が革新を阻害する

「無意識の偏見」を持っていないか、毎日自問自答を続けているという

――DEIを実践するため、社内教育をどのように進めていますか。

バイアスがあると、建設的な議論ができず、コミュニケーションやイノベーションを阻害します。バイアスを取り除き、心を開いて他者に共感し、多様性を受け入れ、包摂的な行動を取ることが重要です。

そのため、日立では、バイアスや文化、リーダーシップ開発、女性活躍などに関するさまざまな社内研修を行っています。

――どの国でも、どのオフィスでも、差別や偏見をなくすのは難しいことですね。

「心理的安全性」が保たれた環境にするために、何らかの差別や不快さを感じている場合、誰でも手を挙げて意見ができるような仕組みが必要です。

日立では、50以上の言語に対応し、24時間365日稼働するグローバルコンプライアンスホットラインを持っています。これは匿名性です。オンラインのシステムを通じて、担当部門に意見を言うことができます。

――ロレーナさんは、「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」を自覚することの重要性についても話されています。それはなぜでしょうか。

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yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #ビジネスと人権

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