北海道のNPO、正解なき「共育」子どもの自主性育む

記事のポイント


  1. 北海道の認定NPO法人ぷれいおん・とかちは子どもの自主性を伸ばすと評判
  2. 森や地域を舞台に「正解」をあえて決めない方針の「共育」を展開する
  3. 親子の価値観を変えて、心理的安全性を高める「コミュニティ」を目指す

グッドガバナンス認証団体をめぐる
 認定NPO法人子どもと文化のひろば ぷれいおん・とかち

「森の中で五感を解放すると子どもだけでなく、親も変わります」——こう話すのはNPO法人ぷれいおん・とかちの今村江穂・理事長だ。北海道帯広市で子どもの体験活動等に取り組み50年になるが、子どもの自主性を引き出すと評判だ。特徴は「正解」を持たないことにある。(聞き手・村上 佳央=日本非営利組織評価センター、池田 真隆=オルタナS編集長)

小学4年生から参加できる1泊の遊び合宿

――1973年に任意団体として設立しました。発足の経緯を教えてください。

発足した当時は一般家庭にテレビが普及し始めた頃でした。子どもたちがテレビや漫画に夢中になりつつある一方、外で子どもたちが「遊ぶ姿」を見る機会が減っていきました。こうしたことに危機感を抱いた大人たちが集まって立ち上げました。

1960-1970年代に全国的なおやこ劇場(こども劇場)のムーブメントがあり、その流れに合わせて、発足メンバーで資金を集めて「十勝おやこ劇場」を1972年10月に設立しました。

発足メンバーは教員や母親など子どもに身近な人たちが多かったです。子どもたちを取り巻く文化の状況に強い関心や洞察をもっていたようです。

2006年にNPO法人化しました。前身の団体で行ってきた文化芸術体験活動以外にも、遊びや多世代交流の機会を提供しています。

五感を使った室内遊びや、帯広の森を舞台にした森づくりや、多世代で楽しむコミュニティづくりにも取り組んでいます。小学生から高校生まで異学年でのキャンプやスキー合宿などのダイナミックな遊びの活動もあります。その他、子育て支援活動にも取り組んでいます。

「子育ては地域のみんなで」という考え方を大切に活動しています。子育ては親だけではできません。昨今の社会は、人に頼らない、自己責任を重視する傾向にあります。けれど、人に頼らないで生きることはできません。

助けてもらうところは、遠慮なく助けてもらうべきです。地域の中で「頼り、頼られ」の関係性をつくることが大事です。こうした考えを子どもだけでなく、親にも伝えたいのです。

「ワンオペ育児」という言葉に象徴されるように、子育て中の母親・父親の孤立や育児負担は、社会問題化しています。子育ては決してパーソナルな問題ではなく、社会全体で責任を持って取り組む必要があります。

「多世代交流」で共助づくり

――人と人とのつながりが希薄化する中で共助の関係性をどうつくりますか。

任意団体から活動を50年続けてきました。現在正会員は154世帯で500人弱です。強みは会員が多世代であるということです。乳幼児を持つ親から70代まで幅広いです。

例えば、「赤ちゃんの日」というイベントを定期的に開催しています。このイベントは、1歳までのお子さんがいる親子さん、もしくはこれから出産のプレママ・パパを対象にしています。

先輩ママ・パパが赤ちゃんの抱っこや寝かせ方などについて対面でアドバイスします。アットホームなスタイルなので、悩みをその場で相談できることも評判です。助産師さんも毎月参加し、母乳などについて専門的な見地からアドバイスしています。

寺子屋先生の赤ちゃんと子どもたち

――近年、「居場所を持てない」と感じる子どもが増えています。その要因はどこにあるとお考えでしょうか。

一時代前は、子育ては「地域のみんな」でするものという価値観がありました。そうした価値観の中で、遊び場や学び場ができていました。

でも、少子化や核家族化が進むと誰かに頼ることは迷惑をかけていることだと考えるようになってしまいました。自己責任が追及されだしたのです。

そうして、周囲とのつながりが疎遠になっていきました。親は自分たちで何とかしないといけないと思うようになります。こうした考え方は子どもの成長にも影響します。

子どもも人に頼ろうとしないで自分で何とかしようと考えます。居場所を持てない背景にはこうした傾向があると思います。

それに親が子どもに過剰に期待するあまり、子どもがありのままの自分をさらけだすことができないこともあります。

私たちは、子どものありのままの姿を応援したいと思って活動しています。そう考える大人を増やしていきたい。

こう考える大人が増えることで、子どもにとって安心できる居場所ができます。居場所ができると挑戦して、達成感や自信を得られる場に変わります。

森で遊ぶと親も「育つ」

――そのような居場所をどう作っていますか。

大人が用意し過ぎるといけません。子どもが「遊ばされている」環境は意味がないのです。例えば、帯広の森の中で遊ぶ活動がありますが、大人が遊び方を無理に制限しません。子ども自身の好奇心に任せています。森に入ると四季折々の風景と出合えます。五感を使うには最適な場所です。

自然の中で夢中になれることを見つける、それが遊びにつながるという考えで運営しています。

親世代は「正解」を求められる教育を受けてきました。だから、「答え」のない環境で育つことには苦手意識を持ち、子どもに「正解」を要求してしまいます。

子どもだけでなく、親も育つことが大切です。森の活動では、子どもの変化も見られますが、「自分も変わらないといけない」と思う親の姿も見られます。

――心理的安全性をつくっているのですね。

親子関係だけでは子育ての「心理的安全性」をつくることは難しいと思います。親子だけなく、様々な人と交流することで、子ども自身や親も気付いていない自分の良さに気付けます。そうすることで、子どもにとって居心地の良い場所ができていきます。

今村江穂・理事長

北海道初のグッドガバナンス認証

――正会員やボランティアが主体となって活動しています。正会員・ボランティアのモチベーションの維持や、コミュニティの管理はどのようにしていますか。

役割としてやらされるのではなく、会員の皆さんがやりたいことが実現できる場にしたいと考えています。

あらゆる世代の方が活動に関わっているので、活動の種類も豊富ですが、一方で課題は会員のニーズが多様化していることです。

かつておやこ劇場時代は、舞台鑑賞が好きな人を対象に活動内容を考えればよかったのですが、そういった文化的活動に魅力を感じる人だけなく、今では子育て仲間や安心できる居場所を求める人が増えています。

様々な人に関わっていただけるようになったことで、多様なニーズに応えることが求められています。

――北海道では初となるグッドガバナンス認証を取りました。取得しようと考えた理由や取得したことの反響はどうでしょうか。

取ろうと考えたきっかけは、ファンドレイザーの方に勧められたからです。NPOとして活動していく中で、信頼されることは非常に重要です。

そこで、信頼性が担保されるグッドガバナンス認証を取得しようと決めました。

反響としては、助成金を申請する際にはブランド力に助けられています。この認証を取っていることで、一次審査を通ることが増えました。<PR>

「グッドガバナンス認証」とは

公益財団法人日本非営利組織評価センター(JCNE)が、第三者機関の立場からNPOなど非営利組織の信頼性を形に表した組織を評価し、認証している。「自立」と「自律」の力を備え「グッドなガバナンス」を維持しているNPO を認証し、信頼性を担保することで、NPO が幅広い支援を継続的に獲得できるよう手助けをする仕組みだ。詳しくはこちらへ

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #NPO

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