世界で台頭する「培養肉・代替肉ベンチャー」の新潮流

記事のポイント


  1. 動物を殺さない「培養肉・代替肉」の開発が世界中で展開され出した
  2. デンマークは植物由来の食品を推進するために245億円以上の投資を決めた
  3. 背景にはアニマルウェルフェアに関心を持つ人が増えていることがある

動物を殺さない「代替肉」「培養肉」への投資が急増している。今後9年間で245億円以上の投資を発表したデンマークを皮切りに、カナダ、オーストラリア、オランダ、EU、シンガポール、イスラエル、米国と続く。世界で台頭する「培養肉・代替肉ベンチャー」の新潮流を紹介する。(NPO法人アニマルライツセンター代表理事=岡田 千尋)

世界で台頭する「培養肉・代替肉ベンチャー」の新潮流

エジプトで開かれたCOP27で培養肉が招待客向けに提供された。これは2020年からシンガポールで展開する培養肉メーカー「Eat Just」のものだ。

米国では11月、培養肉ベンチャー「UPSIDE Foods」が米国食品医薬品局 (FDA) から、チキンの培養肉について安全性を認められた。米国農務省 (USDA)からも承認を得るという。そのUSDA自身も、2021年には別の培養肉技術に5年間で1000万ドルの投資を始めたところだ。

培養肉の開発はいまや世界中で行われている。日本は少し出遅れているように見えるものの、政府からの補助額が少ない中にあっても頑張っている印象だ。

多額の投資を獲得する代替肉

前述の培養肉を含めて、動物を殺さない代替肉への投資が急増している。最大の投資をしているのはデンマークだ。植物由来の食品を推進するために9年間で245億円以上の投資を行うことを発表している。

投資額上位の国は、カナダ、オーストラリア、オランダ、EU、シンガポール、イスラエル、米国と続く。

代替肉、培養肉の投資と開発は今後も継続し続けるはずだ。その背景には、アニマルウェルフェアがある。世界中の多くの人々がアニマルウェルフェアに関心を持つようになったことに加え、今の工場畜産を続けていくことは「地球を食い尽くすことと同じ」という考えをもつようになったからだ。

多くの培養肉ベンチャーが、「鶏肉」の代替から始めていることは、動物にとっても人々にとっても朗報だろう。724億羽の肉用鶏と78億羽の採卵鶏が、畜産の中でも、もっとも工業化され厳しい飼育をされている。さらにその餌を作るために広大な森林を劣化させていっている。

代替肉、培養肉への転換は、人々が大きく生活を変えることなく、他のどの方法よりも大きく持続可能性に寄与できる解決策なのだ。

だが、もう少し急いで食の転換をしなくては、間に合わないかもしれない。

南米ではアマゾンやセラード、グランチャコ、パラなどに大規模プランテーションが続々と出来上がっている。そこで作られているものが、世界中の工場畜産の中に閉じ込められている鶏や豚の餌だ。

アマゾンでも、その他の南米の地域でも、森林が失われ大規模プランテーションが増えるに連れて、降水量が減少している。今年もアルゼンチンの大豆ととうもろこしの栽培エリアで干ばつが起きた。パラナ川(ブラジル、パラグアイ、アルゼンチンにかけて流れる川)の支流も枯渇してきた。

明確に解決策が示されている「食」の分野だが、実際には取り組みは進んでいない。日本において肉の消費量、特に鶏肉・豚肉の消費量は過去60年間、上がり続けている。

1960年、日本では牛肉はもちろん、鶏肉も食べていなかったに等しい。1年間1人当たりの鶏肉消費量は1960年には0.8kgに過ぎなかったが、2020年には17倍の13.9kgに増大した。

豚肉も11.7倍、牛肉は5.9倍だ。牛肉だけはここ数年は増加率が下がっているものの、減少に転じているとは言い難い状況にある。

アニマルウェルフェアの向上がなかなか進まない日本であるが、動物性タンパク質からの脱却は本来他国よりも早く進んでも良いバックグラウンドを持っている。明治以前は陸生動物を殺して食べるという習慣も文化も日本にはなかったのだから。

chihirookada

岡田 千尋(NPO法人アニマルライツセンター代表理事/オルタナ客員論説委員)

NPO法人アニマルライツセンター代表理事・日本エシカル推進協議会理事。2001年からアニマルライツセンターで調査、戦略立案などを担い、2003年から代表理事を務める。主に畜産動物のアニマルウェルフェア向上や動物性の食品や動物性の衣類素材の削減、ヴィーガンやエシカル消費の普及に取り組んでいる。【連載】アニマルウェルフェアのリスクとチャンス

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