記事のポイント
- 政府が示したGX基本方針案に、国際環境NGOが「遅すぎる」と指摘
- GX化のカギとされるカーボンプライシングの本格導入は2030年を見込む
- 「2030年46%減」の政府目標を達成できるか危うい
岸田文雄首相は12月22日、GX(グリーン・トランスフォーメーション)化に向けた今後10年間のロードマップの原案を示した。エネルギー危機に対応しながら、化石燃料由来からクリーンエネルギーを軸にした産業構造への変革を目指す。ただ、GX化のカギとされるカーボンプライシングの本格導入は2030年過ぎを予定しており、「30年46%減」の政府目標を達成できるか危うい。国際NGO WWFジャパンは「遅すぎる」と指摘した。(オルタナS編集長=池田 真隆)
岸田首相が議長を務めるGX実行会議の第5回会合が12月22日に開かれ、岸田首相は「GX実現に向けた基本方針(案)」を示した。これは、今後10年間であらゆる産業をGX化していくためのロードマップだ。
エネルギー危機に対応しながら、クリーンエネルギーを軸にした産業構造に変革するための具体的な計画をまとめた。GX化に必要な投資額を約150兆円と見積り、官民で連携して投資を募る。
そのための呼び水となるのが、経産省が2023年度から発行する「GX経済移行債」だ。発行額は10年間で20兆円を予定している。財源は、「炭素に対する賦課金」(いわゆる炭素税)と「排出量取引」だ。
20兆円の使い分けとしては、「水素・アンモニアの需要拡大支援/新技術の研究開発」に約8兆円、「製造業の構造改革を実現する省エネ施策」などに約12兆円、「炭素固定技術」に約4兆円を投資する計画を立てた。
■水素・アンモニア技術は、「排出削減効果が低い」
この基本方針を「遅過ぎる」「拙速過ぎる」と厳しく批判したのは、国際NGOのWWFジャパンだ。
GX経済移行債の約半分を充てる「水素・アンモニアの技術開発」については、「排出削減効果が低い」として、2050年までにカーボンニュートラルを目指す「パリ協定」の時間軸に「整合しない」と主張する。
水素・アンモニア混焼・専焼技術の追求を転換し、石炭火力発電の廃止目標・計画を直ちに設定すべきだとした。GX投資は再エネ・省エネ既存技術の導入拡大の支援に使うべきだと強調した。
2026年度から本格導入を予定している「排出量取引」についても、企業の自主性に依存していることを問題視した。導入タイミングも「遅過ぎる」としながら、排出枠の上限が設けられていない制度のあり方について、「実効性にも疑問がある」と指摘した。
原案では、再エネを主力電源と位置付けるが、原子力をベースロード電源とも位置付けた。この方針に対しては、国民的な議論を欠いており、「拙速過ぎる」と言い切った。
革新炉開発・建設にも投資を予定しているが、「2030年46%減の目標に貢献せず、再エネへの投資原資を奪う可能性がある」とした。