仏で給食の2割に有機食材、日本でもオーガニック給食広がる

記事のポイント


  1. 2022年秋に「全国オーガニック給食フォーラム」が開かれた
  2. 太田・千葉県いすみ市長をはじめ全国の自治体から20人以上の首長らが参加
  3. フランスや韓国など各国の先進事例が共有された

2022年の秋、「次世代を持続可能性に富んだオーガニック食材で育てることが、私たち現代の大人たちに課せられた使命」という実行委員長のメッセージを皮切りに「全国オーガニック給食フォーラム」が開催された。実行委員長である太田・千葉県いすみ市長をはじめ全国の自治体から20人以上の首長と、全国のJAから10人以上の組合長、そして「こどもの健康と未来」をより良いものにしたいと願う4000人を超える大人たちが参加した。実践者の思いはもとより、後に続く自治体や市民活動の後押しをするべく、具体的な事例や示唆に溢れた内容であった。(照井敬子)

食中毒問題を機に韓国で有機が拡大

フランスでは、「農業従事者、生産者の適正な収入保障、健康で持続可能な食生活の推進、食糧廃棄の減少」を目標として2018年に可決されたエガリム法※1により、給食食材の50%以上を高品質(そのうち20%を有機食材)とすることが定められている。

食材調達やコストなどの課題があり現状は有機食材の導入率10%にとどまるが、先進自治体が立ち上げたアンプルスビオ会が「事例やデータの収集」「自治体・関係者の交流」「旬の食材や地場産物の活用を通じた給食費維持」など課題に取り組み、目標達成に向け着実に進めている。

ヨーロッパだからできること、と思われる方のために隣国韓国の「親環境無償給食」を紹介する。

韓国で有機給食が広がった背景には、①委託業者による過度な利益追求の結果多発した食中毒問題②世界貿易機関による市場開放に苦しむ農業者の存在、があった。

我が子の健康と安全を願う親と、生きる道を模索する農業者が手を組み、給食に地場農作物を積極的に導入する運動が始まった。

2002年に発足した「学校給食全国ネットワーク」が学校給食改正法を目指す中で2006年に起きた大規模な食中毒が決定打となり、学校給食は直営を基本とする方針とともに優秀農産物の使用が義務化された。WTO協定下での優秀農産物とは、必然的に環境負荷が少ない農産物(親環境農産物※2)でなければならなかった。

導入当初は「低農薬」を基準とし徐々にハードルを上げ、2016年には「無農薬」と「有機農」のみが認証されることとなった。現在は、全国の幼稚園、小中学校において、提供する農産物の8割程度を無農薬または有機農で提供できている。しかも、「義務教育は無償」とする憲法に則り給食も無償である。

農水省、文科省による支援

フランス・韓国では、市民運動に呼応するように法整備が進み大きな成果へつながっている。日本においても、地域産業の育成や地方創生を目指す自治体と、給食に安全な食材を求める親が共鳴しオーガニック給食を導入する例が増えている。

この流れは、農水省が策定した「みどりの食料システム戦略※3」とも合致する部分が多く、農水省(問合せ先:農水省農産局農業環境対策課)は「オーガニックビレッジ予算」として自治体における生産から流通・消費までの仕組み構築に対して支援を開始した。

具体項目は次の3点である。①人材育成や需要喚起等と通じた現場の取り組み推進。②グリーンな栽培体系への転換サポート。③有機農産物の販路拡大、新規需要開拓の推進。文科省は、学校に対する支援として「コーディネーター配置」「協議会開催」「調理備品の購入」等に係る経費を補助するとしている。

1年単位の予算配分をスタンダートとする省庁において、オーガニックビレッジ予算は最大3年の継続を前提としているという。需要の掘り起こし、供給の確保、予算の捻出などの共通課題に対して、予算・ナレッジ等の補助を最大限活用し、安全な食材の地場生産を加速させたいという意気込みを感じる。

フォーラムの注目ポイント&アーカイブ案内

フォーラムの後半は、有機農業や食育をけん引する実践者によるリレートークが行われた。ノンフィクション作家・島村菜津氏の熱いファシリテートの効果もあり、スピーカーがそれぞれの立場で原体験や思いを語ってくれた。

いすみ市職員の鮫田晋さんは、いすみ市の自然環境に惚れ込み移住。いすみ市による環境重視の農業、持続可能なまちづくりがスタートすると、必然的に有機農業を推進することに。当時わずか0.6%の有機農業を進める障壁や1人の有機農家のチャレンジを語った。

JA常陸組合長・秋山豊さんは、TPP参加など農業を取り巻く環境変化に対して生き残るすべを模索していたこと、そのタイミングでの県知事による有機農業推進方針などを背景に、「有機こそが農業が生き残る道」と確信したことを語った。

秋山さんの話からは、多くの貿易協定が産業をシュリンクさせる危険性をはらんでいることがリアルに伝わり、かつ、その中でも生き残るために戦う覚悟が伝わった。ぜひ、アーカイブ配信で生の声を聞いて欲しい。

■「全国オーガニック給食フォーラム」アーカイブ配信チケット申込(1月31日まで視聴可)
https://organicschoollunchforum-1026.peatix.com/
■「全国オーガニック給食フォーラム資料集(500円)」販売オンラインショップ
https://npomedaka.thebase.in/items/68193066

※1 エガリム法
化学肥料・農薬の大量使用への反対運動により1960年代前半には有機農業への関心が高まり、1980年代には有機認証の策定などにより消費が感化され、2001年には有機農業庁の設立とともに有機農地を全農地の20%という高い目標を掲げ普及促進をしてきた。一方でフランス社会は生活習慣病の増加、食品ロス、農家の貧困などおおくの課題を抱えていた。エガリム法は、このような背景のもと、「農業従事者、生産者の適正な収入保障、健康で持続可能な食生活の推進、食糧廃棄の減少」を目標に制定された。

※2 親環境農水産物
農林畜産食品部または海洋水産部所管「親環境農漁業育成及び有機食品等の管理・支援に関する法律」に基づき、指定認証機関から認証を受けた農産物で、土壌や海洋の生物多様性の増進、生態系の保全を行うために化学農資材を使用しない、または使用を最小化した健康な環境で生産された農水産物。(全国オーガニック給食フォーラム資料集より抜粋)

※3 みどりの食料システム戦略
飼料、肥料の価格高騰、気候変動、サステナビリティを背景に2022年に農水省が策定。有機農業の取り組み拡大(現状0.6%に対し目標25%)に対して、みどりの食料システム法制定による後押し、有機農業推進を目的とした予算補助を行う。戦略にはゲノム編集、培養肉などの安全性が確立されていないテクノロジー活用も併記されている。

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照井 敬子

薬樹株式会社SDGs推進担当マネジャー・NPO法人Liko-net代表理事 医療という人の命に関わる仕事だからこそ、持続可能な仕組みを大切にしたいとの考えのもとSDGs推進を担う。また、NPO法人としてサステナブルをテーマに生活者に向けた啓発イベントを行う。

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キーワード: #生物多様性

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