1時間に東京ドーム約118個分の森林が消失、商社の対策は

記事のポイント


  1. 1時間に東京ドーム約118個分の森林が世界で消失し、危機的な状況にある
  2. 2022年末には生物多様性に関する新たな国際枠組みが採択された
  3. 国際環境NGOが影響力の大きい総合商社の森林保全の取り組みを評価した

2022年12月に開かれた国連生物多様性条約第15回締約国会議(CBT-COP15)で、新たな国際ルール「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」が誕生した。背景には、深刻な森林破壊の問題がある。WWF(世界自然保護基金)ジャパン(東京・港)は、調達に影響力がある日本の総合商社に焦点を当て、森林保全の取り組み状況を評価した。その結果、森林破壊ゼロに向けた方針は策定されているものの、マイルストーンの設定やサプライヤーのコミットメントに課題があることが分かった。(オルタナ副編集長=吉田広子)

「世界森林資源評価2020」(国際連合食糧農業機関:FAO)によると、世界の森林面積は1990年から2020年の30年間で、1億7800万ヘクタール(日本の国土面積の約5倍)減少した。2010年から2020年までの森林面積の純減速度は年平均474万ヘクタールに上り、鈍化傾向にあるものの、1時間に東京ドーム約118個分もの森林が消失していることになる。

森林は炭素の吸収源でありながら、排出源でもあるため、森林の消失は、温室効果ガス排出量の増加にもつながる。野生生物の絶滅危機や人権にも影響を与える。つまり、「カーボンニュートラル」と「ネイチャーポジティブ(生態系を回復させること)」を同軸で考える必要があるのだ。

森林破壊の多くは、牛肉、大豆、パーム油、木材、カカオ、コーヒー、ゴムの 7 つの主要なコモディティに起因しているという。

こうした深刻な状況を受けて、国連で「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」が採択された。2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30目標」をはじめ、23項目の個別目標が定められている。

WWFジャパンは、サプライチェーンの上流に位置し、森林コモディティの流通で大きな役割を占める商社業界に着目した。公開情報を基に、それぞれの取り組みの評価を行い、報告書「ネイチャーポジティブ実践に向けた手引き『森林破壊・土地転換ゼロ』を事例に」にまとめた。

報告書のなかで、フラン・レイモンド プライス氏(WWF グローバル・フォレスト・プラクティス・リード)は、「WWF の分析によると、(世界全体で)公約に対する進捗状況を報告している企業は 41~46% に過ぎず、目標に対する進捗状況の平均は 55% に過ぎないことが分かった。パリ協定を達成し、自然破壊を食い止めるためには、民間企業によるアクションの加速が重要だ」と強調している。

日本の総合商社7社の取り組み状況は

WWFジャパンが調査対象としたのは、伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事の7社だ。「木材」「紙パルプ」「パーム油」の3コモディティに関して、(1)調達方針の内容(2)方針の運用(3)情報開示――を評価した。

その結果、「方針策定」に関する評価は高い一方で、「実施・運用」は低め、「報告・開示」は最も低い評価となった。

具体的には、7社ともにサステナビリティに関する全体方針があるが、ほとんどの企業は目標年の妥当性が欠けていたり、方針に整合するマイルストーンを設定できていなかったりした。

「サプライヤーの森林破壊ゼロに関するコミットメントを確認しているかどうか」に関しては、住友商事の「木材」分野で「一部できている」だけで、そのほかの企業は確認できていないことが分かった。すべての企業で、苦情処理メカニズムも適切に運用できていない。

WWFジャパンの東梅貞義事務局長は、報告書のなかで「方針を策定していても実際の取り組みが不足している、または内容の開示を行っていない企業も多く、順調に進んでいるとは言い難い状況が続いていると言わざるを得ない。森林減少に対するESG情報開示の国際的な要求と標準化が進行しつつあることに、日本企業は注目する必要がある」と述べている。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #生物多様性

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