「自然資本」はLEAP手法、ウサギのようにleapしよう

記事のポイント


  1. 2023年は「自然資本」の情報開示が本格化、有効なのはLEAP手法だ
  2. LEAP手法は自然資本への影響を場所(Locate)ごとに測定する考え方
  3. 兎年でもある2023年、LEAP手法でウサギのようにLeap(飛躍)しよう

2022年は、岸田政権が「人への投資」を重点投資分野として掲げたこともあり、国内では「人的資本」に関心が集まりました。一方、グローバルでは新しい資本として「自然資本」への関心も急速に高まっています。2023年はその波が国内にも押し寄せ、企業はサステナブル経営の観点から対応を迫られそうです。(サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

2022年12月7日から19日まで、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)がカナダのモントリオールで開催されました。

ここでは、2030年までの新たな国際目標「昆明・モントリオール世界生物多様性枠組み」が採択されました。これは、2010年に愛知県名古屋市で開催されたCOP10で採択された「愛知目標」の後継となるものです。

これを踏まえ、環境省は次期「生物多様性国家戦略」の策定を進めています。企業にはビジネスでの自然資源利用における持続可能性の確保や社会変革の推進が求められる見込みです。

世界経済フォーラム(WEF)が、2022年1月に公表した「グローバルリスク報告書」では、生物多様性の損失が、今後10年の最も深刻なリスクの3番目(上位2つは気候変動対策の失敗、異常気象)となっています。

WEFは「自然の喪失で、世界のGDPの半分に相当する44兆ドルの経済価値が損失」され、「自然環境にプラス(ネイチャー・ポジティブ)の経済への転換で、2030年までに年間10兆ドル規模の事業機会と約4億人の雇用創出の可能性がある」としています。

企業は、水や土壌、鉱物、森林、大気などの地球上にある自然資源を活用してビジネスを営んでいます。これらの資源は「自然資本」と呼ばれています。

気候変動と並んで、生物多様性の損失がビジネスリスクに直結するとの認識が高まる中、企業には事業活動が自然資本にどれだけ依存しているかを定量的に把握・開示したり、その影響をできるだけ抑制することが求められています。

投資家や金融機関が、その情報を投融資判断に活用しようとする動きも強まっています。2022年10月、オランダの資産運用会社ロベコは自然資本を「現代における最大級の投資機会」と位置づけ、天然資源や生態系に配慮する企業に重点投資する「生物多様性株式投資戦略」を始めました(同社プレスリリース)。

TNFDフレームワークとLEAPアプローチ

2021年6月、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に続く国際イニシアチブとして、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が設立されました。

TNFDは、企業がバリューチェーン全体での自然資本に関連するリスクと機会を評価・報告するためのグローバルな開示フレームワークを策定しています。同フレームワークはTCFDフレームワーク同様、「ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標」の4本柱で構成されており、2023年9月に最終版が公開予定です。

自然資本では、事業活動が自然に影響を与える(または自然から影響を受ける)場所によって状況が大きく異なります。そのためロケーションベースの評価が重視されます。TNFDは、そのための手法としてLEAPアプローチを提唱しています。

LEAPアプローチは、①自然との接点を発見(Locate)、②依存関係と影響を診断(Evaluate)、③リスクと機会を評価(Assessment)、④対応準備(戦略とリソース配分)及び投資家への報告(Prepare)という4つのフェーズで構成されます。

キリンホールディングスは、スリランカの紅茶農園など自然への依存や影響が大きい優先地域でのリスクと機会評価を、世界で初めてLEAPアプローチに基づき試行しました。「キリングループ環境報告書2022」で公開しています。

今のところTNFDに基づく情報開示は任意です。ですが、将来の制度化・ルール化を徒らに待つのではなく、より多くの企業が、LEAPアプローチなどにより自社の自然関連リスクと機会の評価に自主的にトライすることが求められます。

その上で、ビジネスモデルや戦略及びガバナンスの変革、TNFDフレームワークに基づく開示など、経営への自然資本の統合(自然資本配慮型経営)に段階的に取り組み、持続的な企業価値向上に繋げることが重要です。

折しも今年は卯年です。多くの日本企業にとって本年がウサギのようにLEAP(跳躍)する年になることを願っています。

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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キーワード: #生物多様性

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