サステナビリティ部員塾18期下期第4回レポート

株式会社オルタナは2023年1月18日に「サステナビリティ部員塾」18期下期第4回をオンラインで開催しました。当日の模様は下記の通りです。

①企業とNGO/NPOのエンゲージメントとは何か

時間: 10:30~11:45
講師: 東梅 貞義氏(公益財団法人世界自然保護基金ジャパン<WWFジャパン>事務局長)

「人と自然が調和して生きられる未来を築く」をミッションに掲げる世界自然保護基金(WWF)は、英「サステナビリティリーダー国際調査」において、気候変動や生物多様性の損失といった緊急度の高いグローバルテーマに対して、最も貢献度が高く、リーダーシップを発揮しているNGOと評価されている。

長期視点でのグローバルリスクのトップ5を、気候変動への適応や生物多様性の損失等の環境関連が占める今、企業がカーボンニュートラル経営ならびにネイチャーポジティブ(生物多様性を減少から回復に転じさせる)経営に取り組むことは、グローバルな長期リスクに対する備えとして重要だと、東梅氏は説いた。

東梅氏は、企業がカーボンニュートラル経営やネイチャーポジティブ経営を実現するには、①コミット(SBTiやSBTNに沿った自社の目標設定)、②ディスクロージャー(TCFDやTNFDに沿った情報開示)、③政策アドボカシーを行うといった、共通の道筋があると説明した。

①や②の取り組みは進んでいても政策アドボカシーについてはハードルが高いと感じる日本企業が多い中、ルールフォロワーになるのではなく、積極的にルールメイキングにかかわることが、理解を深めると同時に公正なルール作りの機会にもなるとの考えを共有した。

今年9月にTNFDの最終版がリリースされることもあり、講義後は、ネイチャーポジティブについての質問が複数寄せられた。東梅氏からは、2030年までに30%の自然を回復させる「30 by 30」を実現するためには、まず、「これ以上、(生物多様性を)減らさないこと」が優先すべきという考え方を共有し、そのためにも自然への「依存」「影響」を把握することがスタートだと述べた。そして具体的に自動車産業であれば、タイヤに使われる天然ゴムを例に、生産地でのネガティブな影響をどう再生するかを考えることも、ネイチャーポジティブに向けた取り組みになると述べた。

事例紹介:FSCジャパン

時間: 11:45~12:00

講師: 河野 絵美佳氏(FSCジャパン マーケティング&広報担当)

FSC(森林管理協議会)は、森林の適切な利用と保全を目的に森林認証を運営している国際的な非営利団体だ。

世界の森林は、農地や牧草地への転換などを主要因に、2.2秒にサッカー場1面分のスピードで減少しており、そうした森林破壊は、森林に生息する野生生物だけでなく、日々の生活を森林に依存する先住民族を含めた3.5億人の人権侵害にもつながっていると、現在の森林の抱える問題を説明した。

FSCは、森林管理(FM)と加工・流通過程(COC)の2つの視点で、環境破壊や人権侵害などで不適格なものがないかをチェックしており、このサプライチェーンがつながって初めて、企業は商品にFSCの認証ラベルを付けることができる。実際に現地に赴いてチェックをする項目は、10の原則の下に200超の点検項目があるという。

日本は、森林資源の国産自給率が41%で、残り6割を海外からの輸入木材に依存している。日本の製材消費量は世界5位、紙消費量については世界3位となっており、世界の森林の状況は、われわれ日本人にとっても重大な責任があると河野氏は強調した。

企業事例:味の素のサステナビリティ戦略

時間: 13:00~14:15

講師: 高取 幸子氏(味の素株式会社 サステナビリティ推進部 部長)

味の素グループは、「アミノ酸のはたらき」で、世界中の人々の食と健康の課題解決を目指す。2030年のアウトカムとして、「10億人の健康寿命を延伸」「環境負荷を50%削減する」を掲げる。

高取氏は、「健全な地球環境があってこそ健康寿命の延伸という目標が実現できる。事業活動は多くの自然資源に依存しており、気候変動対応や食資源の持続可能性、生物多様性の保全など、バリューチェーン全体で環境負荷を提言する必要がある」と話す。

「健康寿命の延伸」のための取り組みの一つが、「おいしい減塩」の提案だ。日本人は、WHOが推奨する基準の2倍程度の塩分を摂取している。

高取氏は、「減塩するとおいしく感じないという声もある。トレードオフになりがちな側面があるが、当社は『妥協なき栄養』にこだわり、10億人においしく栄養バランスの良い食事の提供を目指す」と力を込める。

実際、うま味に代替することで、食塩摂取量を1.3~2.2グラム(12~21%)減らすことができるという。

海外の事例としては、ベトナムで「学校給食プロジェクト」を4000校以上で実施するなど、事業を展開する国・地域で、さまざまな取り組みを進める。

「環境負荷50%削減」の具体的な目標としては、2050年までに「カーボンニュートラル」「再エネ電力100%」「プラスチック廃棄物ゼロ化(グループ内)」「フードロス50%削減」といった野心的な目標を掲げる。

フードロスに関しては、生産者での廃棄から消費者の廃棄に至るまでサプライチェーン全体でのフードロス半減を目指す。日本のフードロスの約半分は家庭から発生していることに着目し、「捨てたもんじゃない」を合言葉に、余りがちな食材や余った料理を活用したレシピを紹介するなど、消費者とのコミュニケーションにも力を入れる。

高取氏は「こうしたサステナビリティの実現、一企業、一国だけでは成し遂げられない。いかに全体のシステムにしていくかが重要だ」と語った。

WS(自社における人権問題の洗い出し)

時間: 14:30~15:45

講師: 森 摂(株式会社オルタナ 代表取締役 オルタナ編集長)

ワークショップでは、受講生がグループごとに分かれて、パイロット企業の人権方針を題材に「良いと思うところ」や「改善点」などについて話し合った。

全体セッションでは「これから人権方針を策定するが、どうしたらいいか」などの質問が出された。講師の森摂からは「実際に取り組む際にはサプライヤー、従業員、株主などマルチステークホルダープロセスの実践が大切だ」と答えた。

また「方針をどうつくるべきか」という質問には「自社のステークホルダーは誰なのか、そしてそのなかで一番弱いところはどこなのかを探ってみては」とアドバイスした。

企業事例:イオンのサステナビリティ戦略

時間: 16:00~17:15

講師: 鈴木 隆博氏(イオン株式会社 環境・社会貢献部 部長)

小売大手のイオンは、同社は国内外で約2万店舗を運営し、連結売上高は約8兆7195億円(2022年2月末)、グループ全体の従業員数は約56万人に及ぶ。

サステナビリティ基本理念に「平和の追求」を掲げる。この理念をもとに、「持続可能な社会の実現」と「グループの成長」の二兎を追う。

具体的には、「環境」と「社会」の両軸で多彩な活動を展開する。環境に関しては、1990年にイオン環境財団を設立、その後、植樹活動やMSC、ASC認証商品の販売などを行う。2020年には、レジ袋の無料配布を辞めたり、再エネ100%の店舗をつくったりした。

社会に関しては、1990年に「イオン1%クラブ」を立ち上げた。アジアでの学校建設や子ども食堂の支援など社会貢献活動を行う。

今、サステナ戦略で注力するのは「脱炭素化」だ。同社は昨年から、クラウドサービスを利用して、温室効果ガス(GHG)の算定に取り組む。グループ全社で、リアルタイムで一次データを取っている。

テナントごとにリアルタイムでGHG排出量が可視化できるようになった。今後は、データの利活用が課題だ。

鈴木部長は、「減らすことを最終目標にするのではなく、地球の回復に貢献することを目指す」と強調した。

講義では、店舗を軸に顧客を巻き込んで地域コミュニティーをつくる取り組みや従業員へのサステナ意識の啓発方法などを説明した。

susbuin

サステナ経営塾

株式会社オルタナは2011年にサステナビリティ・CSRを学ぶ「CSR部員塾」を発足しました。その後、「サステナビリティ部員塾」に改称し、2023年度から「サステナ経営塾」として新たにスタートします。2011年以来、これまで延べ約600社800人の方に受講していただきました。上期はサステナビリティ/ESG初任者向けに基本的な知識を伝授します。下期はサステナビリティ/ESG実務担当者として必要な実践的知識やノウハウを伝授します。サステナ経営塾公式HPはこちら

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