人口最少の町で「人と地球の健康」を考える――桐村里紗さん

記事のポイント


  1. 人と地球の健康はつながっていると考える「プラネタリーヘルス」
  2. 人口最小県の人口最少の町、鳥取県江府町で社会実装しようとしている
  3. 自らの健康と地球・社会の健康を守る必要がある

■サラヤ×桐村里紗さん(内科医)

人と地球の健康はつながっている――。こうした「プラネタリーヘルス」の考え方を人口最少の町、鳥取県江府町で社会実装しようとしている内科医がいる。tenrai(テンライ)代表取締役を務め、「地域創生医」として活動する桐村里紗さんだ。「地球の限界を迎えるいま、人間が再生する主体となって、自らの健康と地球・社会の健康を守る必要がある」と力を込める。

桐村里紗(きりむら・りさ)
医師/tenrai株式会社代表取締役/東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員。臨床現場で、最新の分子栄養療法や腸内フローラなどを基にした予防医療、生活習慣病から終末期医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。「プラネタリーヘルス」など、ヘルスケアを通した社会課題解決を目指し、さまざまなメディアで発信などを行っている。著書に『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)ほか。

――2022年11月に鳥取県江府町と連携協定を結び、新たな取り組みを始められたそうですね。

鳥取県江府町は、人口最少県の人口最小の町です。人の健康と地球の健康を一体として考える「プラネタリーヘルス」を社会実装したまちづくりを行い、ここから世界に発信していきたいと考えています。

「プラネタリーヘルス」を推進する研究や技術を応用したローカルモデルをつくりながら、江府町を核に自治体を超えたエリア全体を体験学習フィールドにする「大山プラネタリーキャンパス」構想を描いています。まずは「プラネタリーヘルス」推進拠点が2023年春にオープンする予定です。

「プラネタリーヘルス」を社会実装する「鳥取江府モデル」のイメージ図

■病気の「治療」から「予防医療」へ

――医師でありながら、地域創生に取り組まれるのは珍しいですね。きっかけについて教えてください。

私は内科医になって18年が経ちます。もともと医師を志したのは、母親の影響でした。認定はされなかったのですが、薬害で病気になり、医者にも見放されて寝込む日々を送っていました。母はとても明るい人だったのですが、病気に人生の楽しみを奪われてしまいました。病気になると、家族にも影響があります。 

そこで、「病気を予防したい」と思い、医学部に進学しました。しかし、1998年当時の医学部には「予防医療」という考え方はありませんでした。

病院でも、統合的で包括的な治療ではなく、薬剤を中心とした局所的な治療が行われます。毎日、患者と接するなかで、現代の病気は、社会のなかで量産されているということに気付きました。人間は生きているだけで病気に罹り、同時に地球を破壊しています。人間の健康は、地球や社会とつながっていることを実感したのです。

そうして、まずは人々の意識変容が大事だと思い、本を出版したり、テレビに出たり、「情報を処方する」という意味でヘルスケア情報を届ける活動を始めました。

――そうして「プラネタリーヘルス」に行き付くわけですね。

「プラネタリーヘルス」は、2015年に医学雑誌「ランセット」に掲載された概念です。人の健康と地球・社会の健康の関係性をとらえ直し、全体を最適化する包括的なヘルスケアを意味します。人も地球のエコシステムのなかに内包されているという考え方です。人の健康も地球・社会の健康もそれぞれ影響し合っています。

この概念はSDGsにも通じます。環境学者ヨハン・ロックストローム氏が提唱した「SDGsウェディングケーキモデル」は、「環境・生物圏」「社会圏」「経済圏」の3階層でSDGsの目標を分類しています。一番下に環境・生物圏があり、そのうえに社会圏、一番上に経済圏があります。つまり、健全な地球環境や生物の基盤があることで、社会や経済という人や人の文明の健康が成り立っているのです。

人間は唯一、環境を変えることができる生き物です。ですから、人が意識を持って再生する主体になり、人類の健康のみならず、地球・社会の健康に貢献していく必要があります。これがSDGsの17個目の目標「パートナーシップで目標を達成しよう」のために必要な考え方で、これによって人と地球の健康「プラネタリーヘルス」が実現します。

そうした概念を江府町を核にエリア全体で社会実装し、「鳥取江府モデル」として世界に発信していきます。

再生的な暮らし、江府町から世界へ

奥大山の源流域に雪駄で登る(右)山肌そのものから水がわき出す

――東京と鳥取で二拠点生活を送っているそうですが、いかがですか。

2021年の冬に、奥大山の源流域でフィールドワークを実施しました。雪駄を履いて1時間半ほど山を分け入ると、山肌そのものから水がわく神聖な水源にたどり着きます。それを飲んだとき、自然と自分がつながった感覚を覚えました。ここには、感受性を取り戻し、リジェネラティブ(再生的)に生きるための示唆があります。

江府町の自然は本当に美しい。まさに自然資本です。こうした価値の見える化が必要です。

2023年春にオープンするプラネタリーヘルス推進拠点は活用されなくなった町の遊休施設です。2ヘクタールの荒れ果てた公園に使われなくなった水源がある場所で、水源を再生してビオトープを復活させたり、水や有機物を利用した再生可能エネルギーの実証実験をしたり、シネコカルチャー(Synecoculture/協生農法※)を体験したりできる場にする予定です。

※「Synecoculture」はソニーグループの商標、「協生農法」は桜自然塾の登録商標です

――シネコカルチャーとは。

農業は環境破壊の元凶になってしまっていますが、この方法は、多種多様な植物や野菜を混生密生させて育てることで、自然の回復力以上に生態系を拡張する画期的な農法です。肥料や農薬を使わず、土も耕しません。ジャングルのように、植物や昆虫、鳥など生物多様性が豊かな状態になり、土壌の微生物活性も回復します。

こうした土壌と人間の腸内環境は、とてもよく似ていて、つながっています。微生物多様性が高ければ、有機物は「発酵」し生態系は豊かになります。しかし、微生物活動が低下しバランスを崩せば「腐敗」してしまいます。腸内環境の乱れは、心身の不調を引き起こします。

土壌の微生物は食べ物とともに腸内に取り込まれ腸内細菌の土づくりをサポートしますから、土壌微生物が豊かな土で育てられた多様な農産物を食べることは、健康な腸内環境につながります。

――どのように土壌の健康と腸内環境を維持できるのでしょうか。

鳥取県甲府町で「プラネタリーヘルス」の社会実装に取り組む桐村里紗さん

科学的根拠に基づいた「プラネタリーヘルスダイエット」という食事法があります。これは、やせるためのダイエットではなく、人間の健康と地球環境を考えた食生活ガイドラインです。

具体的な1日の食品摂取目安量としては、半分が野菜や果物、約3割が未精製の穀物、約2割が植物性タンパク質です。環境負荷の高い動物性のタンパク質や乳製品、精製度の高い油や砂糖などは、ゼロにはしなくても良いが控えめにという方法です。

近代人の食事は、世界中で平均化しています。本当はたくさんの食べ物があるのに、世界の75%のエネルギーは12種類の野菜と5種類の動物性食品で賄われています。食の多様性がないということは、農産物の単一化を進め、生物多様性の損失につながります。

プラネタリーヘルスダイエットの実践は、難しいことはありません。具沢山のお味噌汁をつくれば、「一汁一菜」で十分なのです。

――「一汁三菜」でなく、「一汁一菜」で良いというのは、気が楽になりますね。サラヤは、地球や健康をテーマにビジネスを展開してきました。共感する点があれば教えてください。

サラヤは1952年の創業以来、SDGsができるずっと前から、サステナビリティ(持続可能性)を追求したビジネスをされてきました。

特に、自然派甘味料「ラカントS」は人と地球の健康を体現する商品だと思います。

私は内科医として、糖尿病患者が増えていることを危惧していますが、ラカントSはカロリーや糖質がゼロで、血糖値やインスリン分泌に影響しません。しかも化学合成の甘味成分を使用せず、漢方にも用いられるウリ科の植物「羅漢果(ラカンカ)」を使って、自然な甘味料を開発しました。

甘さというのは人間にとって根源的な味覚の一つです。そのため、甘さを控えた食事は味気なく、満足感が失われてしまいます。そういった点でも生活の質を落とすことなく、健康を維持するための食事を楽しむことができるというのは大切な要素だと思います。

さらに原料となるラカンカは、中国桂林地区で、契約農家で管理栽培されていて安心に対して徹底してこだわるだけでなく、かつて観光資源のみが産業であった桂林地区に、新たな産業を興したことはSDGs的でもあります。

「ヤシノミ洗剤」や「ハッピーエレファント」シリーズも、人の健康や地球の健康に貢献する商品です。誰でも取り入れられる日常的な商品でも、一貫してサステナビリティに取り組んでいる企業姿勢が素晴らしいと感じています。

(PR)サラヤ

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

執筆記事一覧
キーワード: #生物多様性

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..