ライオンが「字幕付きCM」に完全移行、なぜ字幕が必要か

記事のポイント


  1. ライオンは国内で放映されるテレビCMのすべてを日本語字幕付きに完全移行した
  2. テレビ番組の9割以上に字幕表示がされる一方、CMでの字幕表示は推計1.02%にとどまっていた
  3. 広告主の積極的な姿勢は、字幕表示の普及を後押ししそうだ

ライオンは1月、国内で放映されるテレビCMのすべてを日本語字幕付きに完全移行した。テレビ番組の9割以上に字幕表示がされる一方で、テレビCMでの字幕表示は推計1.02%にとどまっていた(2021年6月時点、字幕付きCM普及推進協議会)。こうした広告主の積極的な姿勢は、字幕表示の普及を後押ししそうだ。(オルタナ副編集長=吉田広子)

字幕が入った「キレイキレイ 薬用泡ハンドソープ」(ライオン)のCM

CMを音声なしで見てみると、内容を理解するのは意外と難しい。CMは、映像に加え、ナレーションなどの音声で、商品の特徴やメッセージを伝えていることが多いからだ。

字幕付きテレビCMとは、CM中に流れる音声を文字情報にして表示するCMだ。放送本編に付くテロップとは異なり、リモコンの字幕ボタンを押すことで、字幕が表示されるようになる。

字幕の表示は、耳が聞こえない人や聞こえにくい人にとって、内容を理解する手助けになる。日本補聴器工業会の調査報告書「Japan Trak 2022」によると、難聴者が国民に占める割合は、11.6%(国内推計約1460万人)に上る。

ほかにも、病院の待合室やサウナ室といった音を大きく出せない場所で、テレビ視聴を補助する手段としても利用されている。

すべての放送局・放送枠で受け入れ可能に

字幕付きテレビCMの放送は2010年に始まった。だが、放送局の受け入れ体制の課題や、字幕付きCMを制作する広告主・広告会社が少ないことから、なかなか普及してこなかった。

そこで、2014年、民放連、日本広告業協会、日本アドバタイザーズ協会の3団体から成る字幕付きCM普及推進協議会が発足し、字幕付きCMの普及に取り組んだ。

2021年10月にようやくすべての放送局(全国ネットワーク系列地上民放テレビ99局と系列BS5局)で字幕付きCMを受け入れる体制が整った。2022年10月には、すべての放送枠(ネットタイム枠・ローカルタイム枠・スポット枠)で放映できるようになった。

そうしたなか、ライオンが字幕付きCMに完全移行した。同社は2010年11月、国内で初めて全国ネット番組での字幕付きCMのトライアル放映を開始。2013年には、複数番組で字幕付きCMの放映を進めた。公式YouTubeチャンネル「ライオン公式チャンネル」では、字幕CMのカテゴリーを設定し、現在放映中の字幕付きCMを公開している。

ライオンで宣伝部を経て、サステナビリティ推進部長を務める小和田みどりさんによると、「『ドラマには字幕があるのに、なぜテレビCMに字幕がついていないのか』という問い合わせが寄せられることもあった」という。

小和田さんは「これまで字幕付きCMを用意しても、それを放映する体制などに課題があった。ようやく完全移行できたので、情報格差がないように今後もメッセージを届けていきたい」と語る。

コミュニケーションバリアの解消に取り組むNPO法人インフォメーションギャップバスター理事長の伊藤芳浩さんは、「2022年5月に情報アクセシビリティ法が施行され、民間企業には、障がい者の情報アクセス・コミュニケーション向上の責務(努力義務)が求められている。今回、ライオンが日本語字幕付きCMに完全移行したことは、その潮流にも沿った対応であり、高く評価したい」と話した。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #ビジネスと人権

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