「生物多様性が高い方が地域は栄える」を実践するために

記事のポイント


  1. 環境と共生できる地域を目指す八ヶ岳西麓の3市町村が学習会を公開
  2. 東京大学先端科学技術研究センターの森章教授が講演を行った
  3. 水田耕作地の生物多様性を高めた方が、稲の収量5%増加したとの研究結果を発表した

■小林光のエコめがね(26)■

八ヶ岳西麓の3市町村(茅野市、富士見町、原村)は、かつての野立て太陽光発電所の立地反対の住民運動を踏まえ、メガソーラーを介してでない、新しい形の、環境と共生できる地域の具体化を目指している。このため、3首長が、自ら参加する学習会を住民に公開しつつ重ねて、地域の新しい形を模索中だ。この模索を、東京大学先端科学技術研究センターでもお手伝いをすることにして、そのための参加の形を、東大側も模索しつつある(今後の検討を踏まえ、包括連携協定を3月に結ぶことを計画している)。

東京大学先端科学技術研究センターの森章教授

この学習会の1月末開催のものに、私と、東京大学先端科学技術研究センターで生物多様性を研究している森章教授が加わりレクチャーを行い、3首長とのパネルディスカッションを催した。

そのディスカッションを通じては、特に、地域に広がる森林の価値をどのように脱炭素や活性化、そしてマネタイズにつなげていくかに、首長さん方が強い関心を寄せていることをひしひしと感じた。

環境経済学の立場の私や、生態学の森さんがそれぞれに強調したのは、多様な主体が多様な価値を発見して、それぞれの能力や資源を交換し合って互いの満足を高めるような生き生きとした地域の仕掛けづくりである。

私としては、森教授のご意見がとてもありがたかった。それは、生態学の計量的な知見が、私の日ごろの直感をしっかりとサポートしてくれたからである。

一つの計量的な知見(Gurr et al. 2016 Nature Plants)は、このようなものだ。

縦軸は典型的な稲作害虫の生息密度を示す

上のグラフの縦軸は、典型的な稲作害虫の生息密度を示す。水田周辺に敢えて各種の植物(花蜜を作るもの)を植えこんだケース(Intervention)において、害虫密度が減っていき、通常の水田耕作(Control)では、害虫密度が増えていく。

これは、水田周辺の植栽植物に誘引された捕食者による生物防除(ペストコントロール)の効果を示すものであって、お陰で、稲の収量も、下のグラフのように、水田耕作地の生物多様性を高めた方が5%増加した、とのことである。これは、殺虫剤の使用削減などの効果もあって、収益としては7.5%の増加に相当する。

水田耕作地の生物多様性を高めた方が、稲の収量が5%増加した

私は、人間の社会でも、多様性の利益に関し、同じような因果関係やその結果の現象が見られるのではと思う。今回の学習会のテーマは、地域に存する森林資源の価値の顕在化であったため、森教授の講演は、参加者の気持ちに結構刺さったように感じた。

実際、茅野市内の民有林だけでその材積は278万立方メートルあり、ほとんど手つかずで増加していて、実にもったいない。しかし、例えば、中には、キノコや山菜採り、昆虫採集などを自由にさせてくれる森もある。多様な人々が多様な価値を見つけ出せるようにする工夫は十分可能なように私にも思えた学習会であった。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

執筆記事一覧
キーワード: #生物多様性

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..