ザ・キャピトルホテル東急が目指す持続可能な美食とは

記事のポイント


  1. ザ・キャピトルホテル東急が美食イベント「サステナブル テーブル」を開催
  2. SDGsに資する取り組みを発信してサステナブルな食を普及・促進する
  3. 美食や素材へのこだわりにサステナビリティが加わって、新たな発見も

ザ・キャピトルホテル東急が、計4回にわたる美食イベント「サステナブル テーブル」を開催した。食材や調理法などの「食」を中心に、SDGsに資する取り組みを対外的に発信することで、サステナブルな「食」の普及・促進を図ることが目的だ。同ホテルの曽我部総料理長は、「ラグジュアリーホテルとして追求してきた美食や素材へのこだわりに、サステナビリティという物差しが加わることで、新たに見えてきた世界がある」という。(北村佳代子)

下田屋氏(左)、曽我部シェフ(中央)、杉浦シェフ(右)

ザ・キャピトルホテル東急は2月18日、食で地球の未来を拓く持続可能な美食探求イベント「サステナブル テーブル」の最終章を開催した。これまでの3回は、「プラントベースフード」「食品ロス」「サステナブルシーフード&ベターミート」をテーマにした食材を使用したコース料理を提供してきたが、集大成となる最終章は「ウェルビーイング」がテーマだ。

「ウェルビーイング」とは、厚生労働省の定義によると、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する。SDGsのゴール3「すべての人に健康と福祉を」にも直結する、現代社会に必要不可欠な概念だ。

ガストロノミー(美食)に腕を振るったのは、同ホテルの曽我部俊典総料理長兼副総支配人と、ONODERA GROUPエグゼクティブシェフの杉浦仁志氏だ。杉浦氏は、日本サステイナブル・レストラン協会のプロジェクト・アドバイザー・シェフを兼務する。

イベントでは、それぞれの料理を担当したシェフが1品ずつ食材や調理法についてプレゼンテーションを行った。

■「ウェルビーイング」と「サステナビブル」を目指した美食とは

アミューズ 「海藻と魚介のクリスタルタルト」(右手前)、「鶏胸肉とトマトとアボカドのクリスタルタルト」(左手前)、「からだに優しいモッツアレラボール」(右手奥)、「べジブロスと甘草のスープ」(左手奥)

最初に饗されたアミューズでは、食べる順序が身体に与える影響を意識した食材がテーブルを彩った。糖質の低いものを先に食べることで、血糖値の上昇やインシュリンの分泌を抑えられることから、水溶性食物繊維の海藻や、低糖質の鶏胸肉、発酵発芽玄米や薬膳素材が並んだ。

「ウェルビーイング」と「サステナビリティ」の追求は、食材だけにとどまらない。

冷前菜 「ボーンチャイナに載せたボナース野菜の菜園仕立て」

冷前菜では、曽我部シェフが、菜園に見立てた盛り付けを載せたお皿の上で、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実践を表現した。

このボーンチャイナ食器を提供するのは陶磁器メーカーのニッコー(石川県白山市)だ。同社は、生産過程で欠けや割れなどによって廃棄せざるを得なくなった規格外のボーンチャイナ食器を、肥料として活用するリサイクル技術を確立した。

ボーンチャイナの原材料のボーンアッシュは、農作物の生育に必要なリン酸三カルシウムを多く含む。同社が商品化した肥料「BONEARTH(ボナース)」は昨年、農林水産省に認定された。

曽我部シェフは、ベターミートを使って、この「ボナース」を使った野菜畑に新芽が芽吹く様子を表現し、右手には、実際に「ボナース」で育てた野菜たちを添えた。

トリュフ料理 「トリュフエッグとキノコのバリエーション 菊芋のソース」

メインの魚料理と肉料理の合間には、杉浦シェフ考案による菊芋を使ったトリュフ料理が提供された。菊芋は、腸内環境をよくし、善玉菌のエサとなる「イヌリン」を多く含む。

「ウェルビーイングの身体的・精神的・社会的な健康のうち、自分自身でコントロールができるのは身体的な部分だ」。杉浦シェフは、身体に取り入れる食材の大切さを力説する。

杉浦シェフは、アンチエイジング・認知症予防の名医とともに、数々の認知症予防レシピを手がける。軽度認知障害(MCI)のある人も、食事、運動、睡眠を改善することで、16~41%の割合で健康な状態に回復できるという。

■「サステナブル」の物差しで美食を見つめ直す

ザ・キャピトルホテル東急では、「サステナブル テーブル」イベントの開催に先駆けて、社内でサステナビリティに関する勉強会を実施している。

「食材の中には、トレーサビリティが取れないもの、森林破壊や児童労働・強制労働に加担したもの、遺伝子組み換えや化学農薬を使用したものなど、いろいろある。飲食店は自らが使用する食材が、こうした社会・環境課題に加担していないかどうか、まず意識を高めることが重要だ」。日本サステイナブル・レストラン協会の下田屋毅代表理事はトークセッションでこう述べた。

「その上で、提供する食事がおいしいだけでなく、健康や栄養に配慮されているか。フードロスの削減や、水・エネルギーなどの効率的な使用に努めているか。そこで働く人たちが幸せに働いているか。これらすべてを理解しながら進めることがサステナブルな食につながる」(下田屋氏)

「当ホテルではまだ、3階のオールデイ・ダイニング『ORIGAMI』しか、サステイナブル・レストラン協会に加盟していない。食のサステナビリティについてはもっと学ばなければならない」と曽我部シェフは言う。

「5つ星ホテルとして、これまで素材には相当こだわってきた。しかし、レーティング評価の全250項目をチェックすると、これまで全く意識してこなかった視点があることに気づいた」(曽我部シェフ)

ザ・キャピトルホテル東急ではこれまで、披露宴ではパンを温め直して提供していた。温め直すことでパンのクオリティが下がるため、余った場合はすべて廃棄していたという。

「温め直さなければ、冷めてもおいしい状態でパンをお客様にお持ち帰りいただける」。曽我部シェフはそう判断し、披露宴でのパンの温め直しをやめた。その代わり、余ったパンはすべて袋に詰めて列席者にお持ち帰りいただくように変更した。

「飲食店は、生産者と消費者のハブ的存在だ。一人ひとりの消費者が、サステナビリティに配慮した飲食店を選ぶことが、そこにつながる農家やサプライヤーへのサポートとなる」と下田屋氏はまとめた。

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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