高千穂産の原木シイタケを世界へ、ビーガン需要で期待高まる

記事のポイント


  1. 高千穂にある杉本商店の干しシイタケが国内外で人気だ
  2. 同社は地域の農家が生産した干しシイタケをすべて現金で買い取ってきた
  3. 世界的なビーガン需要に商機を見い出し、世界21カ国に輸出する

秋から春にかけて「雲海」と呼ばれる霧に包まれる高千穂町

高千穂郷の干しシイタケ専門問屋・杉本商店(宮崎県高千穂町)は1954年の創業以来、無農薬の原木露地栽培にこだわり、地域の農家が生産した干しシイタケをすべて現金で買い取ってきた。国内の市場が縮小傾向にあるなか、世界的なビーガン需要に商機を見い出し、世界21カ国に輸出する。(オルタナ副編集長=吉田広子)

杉本商店の杉本知英社長

無農薬で循環型の原木シイタケ、海外バイヤーが支持

杉本商店の干しシイタケを一口食べると、凝縮されたうま味と歯ごたえに驚く。肉のようなジューシーさがあり、海外のビーガン市場で支持されているのも納得だ。同社は2017年に海外販売を開始し、現在では売り上げの10%(4000万円)を海外販売が占めるという。

「米国や欧州のアマゾンには『ドライド・シイタケ(干しシイタケ)』というカテゴリーがあり、海外でも受け入れられている。しかし、流通しているのは、中国で菌床栽培された安価なもの。そこに商機があると考えた」

こう話すのは、杉本商店の杉本知英社長だ。同社がある高千穂町は、秋から春にかけて「雲海」と呼ばれる霧に包まれる中山間地だ。適度な湿気があるこの地域では、伝統的にクヌギの原木を使ったシイタケの露地栽培が行われてきた。農薬や化学肥料も使わない。

高千穂で栽培されている原木シイタケ

原木となるクヌギは、伐採しても切り株から新芽が生えてくる。そこから15年かけてクヌギが生長し、再びシイタケ栽培用に伐採される。循環型の栽培方法だ。

「海外の展示会では、価格の前に『誰がどんなところで作っているのか』を聞いてくる。自然のなかで栽培された原木シイタケの写真を見せると、一様に驚く。バイヤーは『驚き』と『感動』で購入を決める。私たちの生産のストーリーが評価されることを実感した」(杉本社長)

米ロサンゼルスにあるアメリカンキュイジーヌのシェフは、試食してすぐに取り扱いを決め、3日後にはお金を振り込んできたという。宗教などの理由で、ベジタリアンが多いインドの試食会でも、カレーに混ぜた干しシイタケが好評だった。

オーストラリアのレストランでは、粉砕した干しシイタケを餃子のタネに使った「ビーガン餃子」を提供。2月末にドバイの日本国総領事館で開いた試食会では、ミシュラン1つ星を獲得したフレンチのシェフが、干しシイタケを使ったビーガン料理をふるまった。

「シェフは、常に良い食材を探している。日本を含め、世界中でプラントベースフード(植物原料食品)の需要が高まっている。肉や魚に似せた植物性食品が増えているが、干しシイタケには、自然の『うま味』と『弾力』がある。ビーガンや健康志向の人々の期待に応えられるはずだ」(杉本社長)

「シイタケ栽培で子どもを大学まで行かせた」

一つひとつ丁寧に栽培、収穫される

杉本商店は、約680軒の農家が持ち込んだ干しシイタケをすべて現金で買い取っている。しかし、干しシイタケが一番売れるのは12月だが、昨シーズンは大手百貨店での売り上げが落ち込んだ。おせちを食べない人が増えていることが影響している。

同社が海外展開に力を入れるのは、国内市場が縮小していくなか、生産者の生活や地域の経済を守るためでもある。

「創業した祖父の代から、現金での買い取りを続けてきた。入学準備など、お金が入用になる時期には、行列ができることもある。『シイタケ栽培で子どもを大学まで行かせられた』という人もいる。生産者やその家族を思うと、干しシイタケの需要が減ったからといって、買い取りを断るわけにはいかない。仕入れたシイタケを安くは卸せない」

杉本社長は「買い続ける」覚悟を決めた。

一方、高齢化と人口減少による担い手不足も深刻だ。原木の伐採も高齢者には大きな負担だ。そこで、同社は種駒メーカーと連携し、原木を農家に提供することにした。

さらに、「仕事」を求めていた近隣の福祉施設には、原木に種駒を打ち込む作業や干しシイタケをパウダーにする加工作業などを委託し、障がいがある人たちの所得向上にも貢献する。

「買い続けるには、『販路の開拓』と『担い手づくり』を同時に進める必要がある。事業で意識しているのは『誰かの役に立っているのか』。干しシイタケを世界で販売している話をすると、生産者もうれしそうにしてくれる。『当社がないと困る』存在でありたい」(杉本社長)

海外の展示会で干しシイタケをふるまう杉本社長

杉本社長は2022年、従業員の「幸福度向上」プロジェクトを立ち上げた。2016年に専務に就任して以来、給与体系を全国水準に引き上げ、働きやすい制度を整えてきた。しかし、社内の幸福度調査では及第点に満たなかったという。

そこで、大学教授の協力を得ながら、従業員自らが「幸せ」を指標化し、それを向上させるためのアクションプランを作成した。現在、情報共有の仕組みを見直したり、コミュニケーション不足を解消したりするなど、プランに沿って取り組みを進めている最中だ。

「高千穂のような地方で、人を採用するのは難しい。いま働いている人を大事にしたかった。一方的に押し付けるのではなく、みんなで指標や仕組みをつくることが大切だと実感している。従業員の満足度が高いと、経常利益率が高いという研究結果もある」(杉本社長)

杉本商店が販売する干しシイタケ。肉厚でジューシーなうまみが広がる

この1月、杉本商店に米コーヒーブランドから、取り引きのオファーがあった。米国では、コーヒーにキノコの成分を加えた「マッシュルームコーヒー」が一大ブームで、同社のシイタケパウダーを使いたいという話だ。

「海外で成功すれば、『逆輸入』のような形で、日本でも干しシイタケが再注目される。原木栽培は、菌床栽培に比べて、コストも労力もかかるが、私たちの干しシイタケには、ほかには真似できない価値がある。これからも、生産者や地域を守れるように、持続可能なビジネスを続けていきたい」(杉本社長)

杉本商店「SUGIMOTO SHIITAKE(スギモトシイタケ)」は、オルタナとCSR経営者フォーラムが共催する「サステナブル・セレクショ2022」の三つ星に選ばれました。「サステナブル・セレクション2023」のエントリーは4月10日に開始します。ぜひご応募ください。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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