CSRと社会起業家が、資本主義を進化させる――田坂広志 オルタナティブ文明論 第6回

田坂広志(多摩大学大学院教授、シンクタンク・ソフィアバンク代表、社会起業家フォーラム代表)

 

第4回と第5回では、ウェブ革命が、「ボランタリー経済」を復活させ、次いで、ボランタリー経済とマネタリー経済が融合した「新たな経済原理」を誕生させていくことを述べた。

この新たな経済原理は、「ハイブリッド経済」(融合経済)と呼ぶべきものであるが、では、それは、ウェブの世界にだけ生まれているものか。

そうではない。このハイブリッド経済への動きは、実は、現実の世界でも起こっている。

いま、現実の経済や経営の分野でも、マネタリー経済がボランタリー経済を取り込むという動きと、ボランタリー経済がマネタリー経済を取り込むという動きの両極の動きが生まれており、二つの経済の相互浸透と融合が起こっている。

では、マネタリー経済の側から生まれている動きとは、何か。

「CSR」(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)である。

これは、米国のエンロン事件やワールドコム事件など、世界中で企業の不祥事が相次ぐなか、営利企業に対して法令遵守や企業倫理を求める世論が強まったことから生まれてきた動きである。

しかし、当初、企業に「社会的責任」を問うことから始まったこの動きは、自然な流れとして、さらに企業に「社会貢献」を求める動きへと深化してきた。

その結果、現在では、多くの営利企業が、様々な社会貢献事業に取り組み、積極的に行動するようになってきている。

これは、ある意味で、マネタリー経済(営利事業)が、ボランタリー経済(社会貢献事業)を取り入れていく動きと言える。

では、ボランタリー経済の側から生まれている動きとは、何か。「社会起業家」(Social Entrepreneur)である。

社会起業家とは、様々な社会的問題を解決するために、起業家的手法を用いて「社会的事業」(Social Business)を立ち上げ、その事業そのものから利益を生み出すことによって、社会貢献の活動を継続していく人材のことである。

これは、従来の「NPO」(非営利組織)や「NGO」(非政府組織)などが、主に政府の補助金や財団からの寄付金などによって活動していたため、それらの補助金や寄付金が打ち切られると活動の継続が困難になってしまうという問題を解決するべく生まれた動きであるが、これは、ある意味で、ボランタリー経済(社会貢献事業)が、マネタリー経済(営利事業)を取り入れていく動きに他ならない。

このように、いま、ウェブの世界だけでなく、現実の世界においても、CSRや社会起業家という動きとともに、ボランタリー経済とマネタリー経済の融合が起こっており、その結果、ハイブリッド経済と呼ぶべき新たな経済原理が誕生しつつある。

では、ウェブ革命、CSR、社会起業家などの潮流が生み出しつつある、この新たな経済原理は、これから何をもたらすのか。端的に述べよう。「資本主義の進化」が起こる。

すなわち、これまでマネタリー経済に立脚してきた「資本主義」のパラダイムが、根本から変わっていく。そして、これからの時代には、ボランタリー経済を包摂し、ハイブリッド経済を基盤とする、全く新たなパラダイムの資本主義が生まれてくる。

では、そのとき、日本における資本主義に、何が起こるのか。

次回、そのことを語ろう。

*本記事は、2009年2月発行のオルタナ12号から転載しています。

Profile
たさか・ひろし 74年、東京大学卒業。81年、同大学院修了。工学博士。87年、米国バテル記念研究所客員研究員。90年、日本総合研究所の設立に参画。取締役を務める。00年、多摩大学大学院教授に就任。同年シンクタンク・ソフィアバンクを設立。代表に就任。
tasaka@sophiabank.co.jp www.sophiabank.co.jp

「ボランタリー経済」と「ハイブリッド経済」について詳しく知りたい方は、
著者の『未来を予見する「五つの法則」』(光文社)を。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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