原発60年超は「規制の虜」、「第二の福島事故も」と専門家

記事のポイント


  1. 原発の運転期間を実質「60年超」とすることを認める法案が国会で審議入り
  2. 政府は運転期間の延長を認める法律の所管を、規制庁から経産省に移す
  3. 専門家は「規制の虜(とりこ)だ」と批判し、事故が起きる可能性を指摘

原発の運転期間を事実上「60年超」とすることを認めるGX脱炭素電源法案が衆議院で審議入りした。福島事故以来、原発の運転期間は原子力規制庁が所管する法律で「原則40年、最長60年」と定めていた。政府は運転期間の延長を認める法律の所管を、規制側から利用側の経産省に移すことを狙うが、専門家は規制側が被規制側に支配される「規制の虜(とりこ)だ」と批判し、第二の福島事故が起きる可能性もあると指摘した。(オルタナS編集長=池田 真隆)

2月28日に閣議決定した「GX脱炭素電源法案」は、原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の5つの改正案をまとめた「束ね法案」だ。5つある法案のうち、再エネ特措法以外の4つは原子力政策に関わる。

その中でも、原子力政策の基本方針を示した原子力基本法(1955年制定)は、原子力利用に関する「憲法」だ。衆議院で審議中の同法案では、原子力基本法に「国の責務」を新設し、「立地地域住民への理解促進」「地域振興」「人材育成」「産業基盤の維持」「研究開発の推進」「事業環境整備」——を国が支援していくことを明記した。

再生可能エネルギーの推進を図る再エネ特措法において、国が支援する施策は「研究開発の推進」のみだ。さらに、原子力を安全に利用していくための国の方針として下記の文章を新たに盛り込む。

「電気事業に係る制度の抜本的な改革が実施された状況においても、原子力事業者が原子力施設の安全性を確保するために必要な投資を行うことその他の安定的にその事業を行うことができる事業環境を整備するための施策」(第二条の三-三)

「抜本的な改革」が実施されても、国が原子力産業を手厚く支援していくことを強調した。その上で、福島事故後の2012年に原子炉等規制法が原発の運転期間を原則40年と定めた規定を削除する。

運転期間の規定については、原子力規制庁が所管していた原子炉等規制法から経産省が所管する電気事業法に移す。原発を推進する立場の経産相の認可で原発の運転期間の延長を決めることができるようになる。政府は「利用側の政策として整理した」と説明する。

運転を始めてから30年が経過した場合、10年ごとに劣化状況を確認し、原子力規制委員会の認可を受ける必要があるとした。原発推進側の経産省が決めた運転期間内で、原子力規制委員会に安全性の確認を求める形にする。

電気事業法の改正案では、「関連法令の制定・変更への対応」「行政処分」「行政指導」「裁判所による仮処分命令」「その他事業者が予見しがたい事由」で運転を停止した期間については「運転期間」に上積みできるようにした。

こうすることで実質上、60年超の運転が経産相の認可でできるようになる。ただし、運転期間が60年を超える原発は現時点で世界にはない。

「安全神話」をもとに作られ、第二の福島事故の可能性も

原子力政策を大幅に変える同法案について、衆議院経済産業委員会が4月14日に開いた参考人質疑として意見陳述を行った龍谷大学政策学部の大島堅一教授は、「原子力基本法の改正案では、電気事業に関する制度の抜本的な改革が実施された状況においても国が支援すると明記した。電気事業者の肩代わりを国がすることになるので、モラルハザードが起きる」と批判する。

運転期間の延長を所管する法律を経産省に移すことについては、「規制の虜(とりこ)を生み出す」と指摘した。規制の虜とは、規制側が規制される側に支配される状況を指す。

福島第一原発事故の検証を行った国会の事故調査委員会(黒川清委員長)は、事故が起きた根本的原因として、「監視・監督側の機能が正常に働いていなかった」と報告書でまとめた。自然災害ではなく、「規制の虜」に大きな原因があるとしたのだ。

大島教授は、今回の改正案で、新たな規制の虜を生み出すとし、「第二の福島事故が起きる可能性もある」と話す。

改正案では、事故が起きた後の責任の明確化を避けており、安全対策すれば事故が起きないという安全神話をもとに作られた傾向があると言う。

「原発は建設すると処理費を含めて国が支援する。廃炉費用を含めるとその費用は天文学的な金額になる。その負担は将来世代にも及ぶ。原発の『永続化法』でもあるGX脱炭素電源法案は廃案にすべきだ」と強調した。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #脱炭素

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