問われる「無料動物園」、野生動物は見世物なのか

【連載】アニマルウェルフェアのリスクとチャンス(13)

2017年に通報をもらって以来、改善をお願いしていた、館山市城山公園のニホンザルの飼育環境が改善された。長い時間がかかったが、館山市はアニマルウェルフェアの問題をないがしろにせず、正面から向き合ってくれた。(認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事=岡田 千尋)

今回改善したニホンザルのランちゃんは1993年生まれでもう寿命が近い。いつからここに閉じ込められているのかははっきりしなかったが、少なくとも20年以上、地面もない、四方八方を太い鉄の棒で囲われた1.5畳程度の檻の中で過ごした。

丸太1本と、粗末な板があり、その板の上で眠っていた。檻の扉はこれまでに一度、壊れかけたときに開いただけで、ずっと閉じられていた。糞は檻の下に落ちてくるし、檻自体が小さいため、ほうきで下を掃くだけで掃除は終わるというものだった。

昨年、隣りにあったクジャクバトを収容していた檻を利用してエリアを広げ、地面を歩けるようにし、渡木を多数取り付け、あらたに小屋とはしごをつけ、高いところに登れるようにし、ランちゃんはようやくまともに動くことができるようになった。

館山市に対して、心を痛めた多くの人が意見を届け、改善に至った。

改善する施設がほとんどない中で、館山市の対応を高く評価したい。

改善された二ホンザルの飼育環境

日本に多い取り残された猿の檻

現在、日本には、第二次世界大戦後の貧しい時代に、無料の娯楽として広まった無料動物園に囲われたままの動物たちがいる。その多くが粗末な檻の中で過ごしている。私達動物保護団体にはこういった施設についての通報がよく寄せられる。多くは「ネグレクトされている動物がいる」といったもので、特に外国人からの通報が多い。

赤ちゃんの頃の動物はかわいらしく、動物園の多くは人気者の赤ちゃんを得たいと考える。そのため、過去の娯楽といえる無料動物園のようなところでも、なかなか終りを迎えることができない。最後に残る動物は、長生きする動物だ。その多くが、ニホンザルやタイワンザルなどのマカクザルである。

マカクザルは、群れを作る動物ではあるが、新規の動物を群れの仲間として受け入れることが基本的にない動物だ。特に逃げ場のない檻や囲いの中では、新しく入った猿は殺される可能性が高い。そのため、他の動物園に譲渡したり販売したりということができないのだ。

譲渡できるケースがあるとすれば、個人経営の福祉の劣った施設やその猿を別の利用方法にと考える施設だ。そうして公園の片隅に忘れられたように残された猿たちは、一日1~2回、飼育員が餌を与え、コンクリートの床の掃除をしに来る時間以外、変化のない毎日を送る。

館山市城山公園も同様だったが、なんとか死ぬ前に改善が間に合った。

だが、改善に至らないまま、死んでいった猿もいる。

厚木市飯山白山森林公園にあった無料動物園だ。2004年に改善を申し入れたが、私達市民団体にも力がなく、改善されないまま、2018年に最後の1頭が死に、今はもう檻の形跡もなくなっている。

衝撃的だったのは、2020年に厚木市に電話をしたときには、この猿たちの存在すら知らなかったことだった。そのくらい存在感のないものになっていた。なのに、最後までそこで動物たちは苦しむことになるのだ。とくに、最後の1頭は地獄を味わっただろう。恐怖、孤独、不安、絶望、退屈・・・猿の感情は、人間とさして変わらない。みなさんも想像がつくのではないだろうか。

檻に閉じ込められた二ホンザル

野生種の動物を見世物にすることは持続可能ではない

動物を安易に飼育してはならないし、生きた動物を飼育する施設をこれ以上増やしてはいけない。また、すでにある施設は、これ以上、動物を繁殖させてはいけない。なぜなら、その動物の長い一生の責任を、絶対に取れないからだ。

その施設の飼育員は齢を取り、辞めていくだろう。その施設のオーナーもこの世を去る時が来るし経営が悪化すれば施設も動物も手放すだろう。でも、動物は生きているのだから、終わりたくても終わらせることはできないし、譲渡先の施設がその動物を大切にする補償は一つもないのだ。

中高年世代は、動物園を「なくなると寂しい」「子どもたちに見せたい」「懐かしい」などと言って、維持したがる。しかしそれは次の世代への負の遺産になる。

野生種の動物は、人の飼育下ではストレスに晒された状態に居続けることになる。人目にさらされるというストレスにも弱い。そのような進化をしていないからだ。そのため、適正なアニマルウェルフェアを担保するのはほぼ不可能だ。

人と近い場所にいる飼育下の動物たちは人獣共通感染症の発生源にもなりうる。猿などの飼育に危険が伴う特定動物であれば、人への危害にもつながる。

また、動物を囲い、支配する姿を見せ続けることは、環境教育が必要なこれからの時代には合わない感覚を培う。自然とは、そこに住む動物も含めて成り立つものだ。野生種の動物を飼育し見せ物にすることは、自然や環境保全を学ぶこととは全く異質なものだ。

もはや多くの日本の人々は野生動物との付き合い方がわからなくなっており、檻の中にいない動物を怖がり、近くにいる動物を殺処分してしまう自治体が多い。

こういった問題に気がついた人は多くなっており、不適切な施設には市民の批判が集まるようになってきている。

日本でも、野生種の動物を見世物にすることを、考え直す時代が来ている。

chihirookada

岡田 千尋(NPO法人アニマルライツセンター代表理事/オルタナ客員論説委員)

NPO法人アニマルライツセンター代表理事・日本エシカル推進協議会理事。2001年からアニマルライツセンターで調査、戦略立案などを担い、2003年から代表理事を務める。主に畜産動物のアニマルウェルフェア向上や動物性の食品や動物性の衣類素材の削減、ヴィーガンやエシカル消費の普及に取り組んでいる。【連載】アニマルウェルフェアのリスクとチャンス

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..