記事のポイント
- 衆議院で可決した「GX脱炭素電源法案」が5月10日、参議院で審議入り
- 法案は原発を再エネと並ぶ「脱炭素電源」と位置付け、推進を図る
- 原発は脱炭素に貢献せず、事故リスクも高まると廃案を求める声が上がる
「GX脱炭素電源法案」が5月10日、参議院で審議入りした。同法案は5つの法案をまとめた「束ね法案」で、原発の推進を強く意図した内容となっている。政府は、気候変動対策とエネルギー安定供給の両立には原発が必要だという。しかし、環境NGOからは「原発は脱炭素に貢献しない」、「斜陽化した原子力産業を救済・延命させるだけの法案」など、廃案を求める声が大きい。(オルタナ副編集長・長濱慎)
■「再エネも原発も脱炭素という目的は同じ」か
GX脱炭素電源法案は4月27日に衆議院で可決し、5月10日に参議院で審議入りした。同法は1)原子力基本法、2)原子炉等規制法、3)電気事業法、4)再処理法、5)再エネ特措法を一つにまとめた「束ね法案」で、5つのうち再エネ特措法を除く4つが原発に関係するものだ。
「ロシアのウクライナ侵攻にともない、歴史上初の世界エネルギー危機に直面する中、エネルギーの安定供給と気候変動問題への対応(脱炭素)の両立が喫緊の課題となっている」
岸田文雄首相は5月10日の参議院本会議でこう語った上で、省エネや再エネと並ぶ選択肢として原発の必要性を強調した。
立憲民主党・田島麻衣子議員の「多岐にわたる法案を束ねるのは適切なのか。再エネと原発についての法案は個別に提出し直すべきでは」という質問に対しては「電源の脱炭素化という目的は共通で、条文も相互に関連するので問題ない」と答えた。
しかし、原発は脱炭素に貢献しないどころか妨害する恐れさえあるという批判は少なくない。
■原発がなくても日本のCO2排出量は減少
参院本会議に先立つ5月9日、国会前で環境NGOや市民が抗議行動を行なった。「気候ネットワーク」の森山拓也さんは「東電福島第一原発の事故以降は再エネ・省エネが普及し、原発がなくても日本のCO2排出量は減り続けている」と指摘し、こう続けた。
「再エネに投資するのと同じ金額を原発に投じても、数分の一のCO2削減効果しかないとする研究結果もある。気候危機回避に重要な期間となる2030年までの取り組みで必要なのは、次世代革新炉などの新技術ではなく、今すでにある再エネ・省エネ技術を急速に拡大することだ」
抗議行動には、福島原発事故でいまだに避難生活を強いられている人々を含む約120人が参加。「5月5日に最大震度6強を観測した石川県珠洲市も、かつて原発誘致の計画があった(※)。福島の反省が不十分なまま、地震が頻発する日本で原発を続けるのか」など、怒りの声が相次いだ。
※「珠洲原子力発電所」(北陸、中部、関西電力)の建設計画が、住民運動などによって2003年に凍結
■60年を超える老朽化原発を運転するリスク
国際環境NGO「FoE ジャパン」は、法案について大きく5つの問題点を上げる。
1)束ね法案のうち「原子力基本法」や「原子炉等規制法」の改正案策定を主導したのは、本来の所管である内閣府や原子力規制委員会(環境省)ではなく、原発推進に積極的な経済産業省だった。
2)「国の責務」を詳細に書き込み、原子力産業を手厚く支援している。本来、原子力事業者が自らの責任で行うべき内容を国が肩代わりすることになり、モラルハザードを生む。
3)「原子炉等規制法」に定めた運転期間上限の規定(原則40年)を、正当な理由もなく削除しようとしている。
4)運転期間の認可に関する規定が「原子炉等規制法」から「電気事業法」に移る。これにともない、運転期間延長の許認可を原子力規制委員会に代わって経産省が行うとになり、福島事故を教訓にした「規制と推進の分離」が形骸化する。
5)これまで「原則40年、1回に限り20年延長=最大60年」としていた運転期間が撤廃され、60年を超えた運転が可能になる。行政処分などで運転を停止した期間も、運転期間に上積みできる。
世界的にも60年を超えた原発の運転は例がなく、運転データも存在しない。しかし何十年も運転を続ければ、設計自体が古くなることに加えて、中性子を浴び続けた原子炉圧力容器をはじめ各部の劣化が進むのは確実だ。運転停止の間も経年劣化は進み、事故のリスクは増大する。
FoE ジャパンの満田夏花(みつた・かんな)事務局長は、こう話す。
「原子力産業との結び付きが強い政治家は、脱炭素を口実に原発を延命させたいのだろう。ウクライナ戦争も追い風になったと考えているのかもしれないが、これほど重大な法案をこんな拙速に決めて良いのか。参議院で必ず廃案にしなければならない」