少子化対策の前に、「ジェンダーギャップ」の解消を

記事のポイント


  1. 日本では少子化に歯止めがかからない状態が続いている
  2. キャリア形成や所得が優先され、結婚・出産・育児が後回しになる
  3. 社会の価値観を多様化し、行き止まりのない社会の構造が必要だ

日本の少子化に歯止めがかからない。岸田政権でも社会経済基盤の存立に関わる問題として取り組みを進めている。とはいえ、旧来の日本特有の家族観や、明治以来の社会構造を維持したままでは、異次元の少子化対策とはならない。日本社会の構造改革や、社会の多様化した価値観にまで踏み込まなければ、真の解決にはほど遠いだろう。(CSRストラテジスト 松田 雅一)

1980年に約600万世帯だった日本の共働き世帯は、2014年には約1100万世帯に増えた。同様に、1100万世帯だった専業主婦世帯は、687万世帯に減った(厚生労働省調べ)。https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000118655.pdf

そもそも、日本の社会構造をたどれば、家長主義の戸籍制度や、社会保障としての年金制度は明治時代に確立された。「男性が外で働き、女性は家庭を守る」のが前提だった。この40年でその前提は崩れ、これだけ共働きが増えたのに、社会制度は変わらないままだ。

男女雇用機会の均等や、男女共同参画の旗は振りつつも、社会構造上は男尊女卑のジェンダーギャップを「仕方が無い」と容認する風土は、今も変わらない。それは、入試や就職活動における男女の格差、選択的夫婦別姓に対する抵抗など、そこかしこに現れる。

G7広島サミット間近の今、政府・与党は大慌てでLGBTQへの理解促進法案を論議しようとするが、昭和の時代感覚から脱却できていないままでは、無理がある。

少子化対策については、そもそも、結婚・出産・育児における精神的・肉体的な負担は、通常、男性よりも圧倒的に女性にかかるものである。にもかかわらず、男性中心に設計された日本の社会構造は、今も形を変えずにいる。

共働き世帯が増えたのは、生活水準の向上のためであり、労働力人口としての女性の社会進出を促してきたことも背景にあるだろう。これにより、女性の間で「結婚・出産・育児」をしたいという価値観がかなり後退したのは想像に難くない。

自民党の「こども・若者」輝く未来創造本部が作成した「次元の異なる少子化対策」への挑戦に向けて(論点整理)では、次のように分析している。

「若者は、学びやキャリア形成と結婚・出産・育児を同じ時期に求められ、かつ所得も低く将来の成長の見通しがない。その中でまず稼ぐことを考え、キャリア向上やさらなる学びを求め、結果として結婚・出産・育児が後回しになり、少子化に歯止めがかからない」

その上で、各所からの提言を踏まえ、育児インターンや出世払い奨学金、経済的支援、ウェルビーイング重視の教育やDX化によるプッシュ型サービスなど、斬新さをアピールするネーミングの支援・施策が並ぶ。

こうした状況の中では、女性のライフプランにおいて、必ず結婚・出産・育児があることを前提とはせず、「自らが明るい未来を創造できたその先に(結婚)・出産・育児も創造できる」社会構造が必要ではないだろうか。

要は、少子化対策の前に、ジェンダーギャップを解消する社会構造の実現が優先されるべきである。

そして、少子化に歯止めをかけるには、出産・育児が社会経済基盤の存立に欠かせない価値があることを正しく評価して、評価が精神的・経済的に還元されるような、よりシンプルな仕掛けを考えなければ、早期に少子化を反転させることは困難だと考える。

上述の通り、(結婚)に( )を付けたのは、あえて夫婦のあり様を問わず、選択的夫婦別姓はもちろん、シングルマザーもたくましく生きていける仕組みを意味する。

令和時代の社会の価値観はそれほどに多様化していない。結婚して夫婦で出産・育児を迎えることが幸せと感じる価値観もあれば、結婚はしないが子供が欲しい、一生シングルで良いと考えても良い。どの道を進もうとも、行き止まりのない社会の構造が必要だ。

alternathethis

オルタナ ・テシス

テシスとは英語で「論文」「小論文」の意味です。オルタナ創刊以来の精神である「オルタナティブ」(もう一つの選択肢)という価値観に沿った投稿を皆さまから広く募ります。

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キーワード: #ビジネスと人権

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