社労士事務所が浅草に「コミュニティカフェ」を開いたワケ

記事のポイント


  1. 東京・浅草の社労士事務所が地元にコミュニティカフェを開いて3年目となった
  2. 食材は生産者から直接仕入れ、「顔が見える経済」を実践する
  3. 人間性尊重経営の試みで、組織力を上げる

東京・浅草に本社を置く社労士事務所、人事・労務(東京・台東、矢萩大輔社長)が、地元にコミュニティカフェを開いて3年目となった。カフェは全員ボランタリーで運営しており、食材は生産者から直接仕入れ、「顔が見える経済」の創造に取り組む。カフェを通して人や自然との繋がりを実感し、働く人の人間性を引き出す試みは、同社の本業にも役立つという。(オルタナ編集部・下村つぐみ)

(右)パートナー行政書士 矢尾板初美さん、(左)ウェルファイな職場アンバサダー 白川くるみさん

人事・労務は、社会保険労務士や行政書士、キャリアコンサルタントなど、多様な職種が集い、企業の組織づくりを支援する会社だ。

「農ははたらくの原点」という考えから、903シティファーム推進協議会を設立。2020年には、「農と食でローカルとつながる、地域がつながる」をコンセプトに、浅草にコミュニティカフェ「田心カフェ」を開いた。

なぜ本業とは一見異なるコミュニティカフェを開いたのか。当時、立ち上げに携わった同社の矢尾板初美さん(行政書士)は、「普段からはたらく場づくりの支援をする中で『はたらく豊かさ』を探究してきた。楽しくはたらくことの原点は、自然とのつながり、そして、人とのつながりに重きがおかれる農業にみることができる」という。

同カフェでは、地域の無農薬野菜を販売したり、それらの野菜を使った食事を提供したりする。食材は生産者から直接仕入れ、「顔が見える経済」の創造に取り組む。

店頭には、コーヒーやサイダーなどの飲料や、食パン、納豆も並ぶ。いずれもカフェのコンセプトに賛同し、提供してもらったものばかりだ。

カフェは、軒先で子どもたちと野菜を栽培したり、中学生の職場体験をしたりして、教育の場としても活用する。「よみがえれ!浅草田圃プロジェクト」では、地域の神社の場を借りて、子どもたちとコメづくりを行う。子どもたちに自然との触れ合いや生産から流通・販売まで一貫して働くことを体感してもらうのが狙いだ。

この取り組みは、文部科学省の令和4年度青少年の体験活動推進企業表彰で文部科学大臣賞に選ばれた。

矢尾板さんは「お金や会社など外部に依存しながら生きていく社会に対し、ここに来れば、自然や人とのつながりを通して、誰もが自分自身の原点に立ち返れる。自らの人間性を取り戻すきっかけとなるような場を目指し活動している」と話す。

同社が目指す人間性を尊重した「ES経営」を実現するうえでも、役立っているという。

人事・労務が提唱する「TJ(田心循環)指数」とは

浅草は下町文化が根付いており、地域コミュニティのつながりが強い。同社の考えに賛同した多くの人たちがカフェの運営を支えている。浅草寺に代々ネギを奉納するネギ問屋の「葱善」は、いつも同カフェの商品企画に助言をしてくれる。

同社はこのような農と食を通じた、地域に向けた取り組みで得られた変化を、「TJ(田心循環)指数」で示している。

浅草で子どもたちが野菜栽培し、緑が増えたことで、虫の数が2020年比で10倍に増えたデータもある。

入社2年目の白川くるみさんは、学生時代から「田心カフェ」のボランティアに携わり、それがきっかけで入社した一人だ。白川さんは入社後もカフェの運営に携わり、今では地域の方と道で声をかけ合うような関係を築いている。

白川さんは、「カフェに携わる前は、仕事と生活は別物だった。でも、カフェで地域の方と話す機会が増え、自分が地域の人の生活に密接に関わっていることを実感し、仕事の意義を捉えられるようになった」とうれしそうに話した。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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