入管法改正案の「立法事実」に疑義、難民審査に「偏り」も

記事のポイント


  1. 入管法改正案の「立法事実」が揺らいでいる
  2. 特定の参与員に難民審査が集中して割り当てられていることが分かった
  3. 1件あたり6分で審査したと推計されるが、適切な審査が行われているのか

参議院法務委員会で審議されている入管法改正案の「立法事実」が揺らいでいる。「難民をほとんど見つけることができない」と発言した柳瀬房子・難民審査参与員(難民を助ける会名誉会長)は、全体の25%を占める1231件(2022年)もの審査を処理していたことが分かった。勤務日数は32日(従事時間は1日4時間程度)であることから、1件あたり6分で審査したと推計される。(オルタナ副編集長=吉田広子)

難民審査、1日40件は可能なのか

難民審査参与員は、法務大臣に指名された非常勤の国家公務員だ。出入国在留管理庁の難民認定審査で不認定とされ、不服を申し立てた外国人に対し、3人1班で審査を行う。法務省は、「法務大臣は参与員の提出した意見を尊重して、審査請求に対する裁決を行う」としている。

5月16日現在、弁護士や大学教授など111人が難民審査参与員を務めている。

柳瀬房子・難民審査参与員は、2021年4月21日の衆議院法務委員会に参考人として出席した際、「難民をほとんど見つけることができない」と説明した。入管庁はこの発言を法改正の根拠としている。

ところが、柳瀬氏は、2022年の全体処理数4740件に対して1231件(勤務日数32日)、2021年の全体処理数6741件に対して1378件(勤務日数34日)もの審査を担当していたことが分かった。2023年5月25日に開かれた参議院法務委員会で、入管庁が明らかにした。

入管庁は、「1期日の従事時間は4時間程度」と説明していることから、単純計算で、1件あたりの処理時間は6分と推計できる。

柳瀬氏と同様に、浅川晃広・難民審査参与員(元名古屋大学大学院国際開発研究科講師)も年1000件の審査を担当したという。5月25日の参議院法務委員会の参考人質疑で明かした。

一方、全国難民弁護団連絡会議(全難連)が参与員を務める弁護士10人にアンケート調査したところ、審査件数は年平均36.3件だった。27倍の差があり、難民審査に偏りがあるのは明らかだ。

全難連の渡邉彰悟代表(弁護士、難民審査参与員)は「2021~2022年の参与員は110人ほどいたことを踏まえれば、柳瀬氏、浅川氏の担当件数は異常な数値だ」と指摘する。

「出身国情報はほとんど見ない」の衝撃

さらに、参与員による難民審査の進め方も問題視されている。

参考人として法務委員会に出席した浅川氏は「これまで(10年間)担当した約3900件のうち、難民と認める意見を書いたのは1件だけ。これまで、そこまで判断を迷ったことはない」と発言した。

さらに「入管庁から提供された書類の最後の方に、出身国情報がある。しかし、出身国情報に当てはめなくても、申請者の個別事情だけで判断できることがほとんどだ」と明言した。

これに対し、浅川氏と同日に参考人として出席した渡邉氏は、後日開いた記者会見で「客観的な情報をまとめた出身国情報は、難民審査をするうえで、重要な書類だ。それを参与員が参照しないのはありえない。公正な判断ができるはずがない」と強調した。

実際に、難民と認めなかった国の処分に対し、取り消しを求める訴訟(難民不認定処分取消訴訟)が起きているが、2023年だけですでに3件の勝訴判決が出ている。つまり、入管庁が難民審査で難民と認めなくても、裁判では難民と認められた事例が複数ある。

加えて、渡邉氏によると、参与員による「難民認定すべき」との判断を覆す「逆転不認定」も発生しているという。2013年から2015年の3年間で、29件のうち13件が不認定とされた。

全難連は、「認容(認定)意見を少なからず出していたところ、配点される案件数が減っていった参与員の例もある。難民不服審査事務をつかさどる入管庁により、極めて恣意的な事件配点がなされていることが明らかとなった。難民不服審査手続の不適正・不公正な運用が長年にわたって続けられてきたことが強く疑われる」と声明を発表した。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #ビジネスと人権

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