米で「垂直農業」相次ぐ、グーグルも屋内に導入

記事のポイント


  1. 建物内の高さを生かして垂直に作付けする「垂直農業」が米国で話題だ
  2. 作物に最適な環境をアルゴリズムで再現し、天候の影響を受けない
  3. 農薬を使わず、水の利用量を最大で95%削減。米グーグル本社も導入した

自然と対峙する農業とは真逆の「農業」が米国で話題だ。垂直に作付けする「垂直農業」だ。作物に最適な環境をアルゴリズムで再現し、天候の影響を受けず一年中栽培できる。農薬を使わず、水の利用量を最大で95%削減した。米グーグル本社はこのシステムを取り入れ、採れたての野菜を社員食堂で提供する。(オルタナS編集長=池田 真隆)

垂直農業は屋内の高さを生かして作物を栽培する

米国を中心に「垂直農業」に注目が集まる。米調査会社アイディーテックエックスが2,022年6月に発行した垂直農業の市場規模を調査したレポート「垂直農法 2022─2032」によると、同業界は21年に過去最高となる10億ドル(約1400億円、23年6月時)を調達した。

米コンサル会社モルドールインテリジェンスは、2022年から2027年までの垂直農業市場のCAGR(年平均成長率)を11.2%と予測した。

垂直農業に注目する投資家の多くは、「食糧生産に革命を起こす技術だ」と期待する(「垂直農法 2022 ─2032」)。

その根拠の一つは、生産地から消費者まで運ぶ「フードマイレージ」を実質的になくすことができるからだ。建物内で栽培することで、採れたての野菜を移動距離が「実質ゼロ」のままで提供できる。パンデミックや地政学的なリスクによって起きるサプライチェーンの混乱を防げるのだ。

垂直農業には、2000年代から企業が取り組みだしていたが、広がらなかった。その理由は過剰なランニングコストにあった。

監視担当者の人件費や、システムの維持費などが掛かり、事業として成立するには農産物の価格が高価になりがちだった。

しかし近年、この課題を「自動化」によって解消した「アグリテック」と呼ばれるスタートアップが台頭してきた。

その筆頭が、米ニュージャージー州に拠点を構えるAero Farms(エアロファームズ)だ。2004年創業の同社は屋内垂直農業にいち早く目を付け、独自の栽培システムを構築した。

水の利用量を95%も削減へ

同社の特徴は従来型の畑作農業と比べて水の利用量を最大で95%削減した点にある。同社の水耕栽培では、植えた作物の根に溶液を噴射する仕組みだ。

一般的な水耕栽培は根を溶液に浸すが、これにより水の利用量を大幅に抑えた。土壌をほとんど使わないので、農薬も使わない。このシステムで栽培できる野菜や果物は550種類を超える。

自社工場で栽培した作物を地元のスーパーマーケットに卸すだけでなく、グーグルやアメリカンエキスプレスは自社に同システムを導入した。社員に新鮮な野菜を提供する。

同社は2021年、穀物メジャーのカーギルと提携した。カカオ豆の持続可能な生産手法について共同研究を行う。

カカオの木に適した環境を調べ、屋内で再現することを狙う。将来的に、屋内でのカカオ栽培に取り組む考えだ。

同社のデビッド・ローゼンバーグCEOは、「カカオの成長を最適化することは、世界により広いプラスの影響をもたらすはずだ」と強調した。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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