味の素、花王、三菱地所がサステナ・リンク債、メリットは

記事のポイント


  1. 味の素、花王、三菱地所など「サステナビリティ・リンク・ボンド」を発行へ
  2. 「サステナ・リンク債」は目標を設定し、達成できないとペナルティがある
  3. 発行企業のメリットとしては調達資金を柔軟に活用できることなどが挙がる

「サステナビリティ・リンク・ボンド」の発行が相次いでいる。5月には味の素や花王、三菱地所などが発行することを発表した。「サステナビリティ・リンク・ボンド」はKPIに従って、具体的な数字目標を定めたSPTを設定する。このSPTが達成できなければ、ペナルティを科す。発行企業のメリットとしては、グリーンボンドやソーシャルボンドなどのESG債と比べて、調達資金を柔軟に活用できることなどがある。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之、オルタナ編集部・萩原 哲郎)

サステナビリティ・リンク・ボンドの発行が相次いでいる

■サステナ・リンク債の発行が相次ぐ

国内でサステナビリティ・リンク・ボンドの発行が相次ぐ。

味の素は総額300億円発行する。サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs:サステナビリティ・リンク・ボンドの発行条件を決定する発行体の経営戦略に基づく目標)は次の2つである。

1つが、スコープ1、2の2030年度におけるGHG排出量50%削減(基準年度である2018年度比)に整合する目標、2つめがスコープ3の2030年度におけるGHG排出量原単位24%削減(基準年度である2018年度比)に整合する目標だ。

いずれかのSPTが未達成の場合、排出権(CO2削減価値をクレジット・証書化したもの)を社債発行額の0.1%相当額の10分の5を購入する。

取引制度の規制等の変更等で排出権購入が実施できない場合は、環境保全活動や社会的な課題解決への寄与を目的とする公益社団法人・公益財団法人・国際機関・自治体認定NPO法人・地方自治体等に寄付する。

花王は250億円発行する。SPTは26年度までにスコープ1+2のCO2排出量を39%削減(17年度比)。未達成の場合には、SPTが未達成と判定された直後に到来する利払日の翌日から償還日まで利率が0.1%増加する。

22年7月に続き2回目の発行となる三菱地所は総額600億円を調達する。味の素同様、年限は5年と10年になる。SPTsは5年債券が「25年度に再エネ由来の電力比率100%達成」、10年債券が「30年度にスコープ1,2の合計を70%以上、スコープ3を50%以上削減(基準年は19年度)」としている。

SPTsが未達成であった場合には、償還日までに寄付あるいは「我が国の制度上認められた、もしくは国際的な認証機関に認められたボランタリー・クレジット等の購入」を行うとしている。

■味の素は第三者機関から高い評価

今回、初の発行となった味の素は、第三者機関からも高い評価を得た。

サステイナリティクスから取得した「セカンドパーティ・オピニオン」では、スコープ1、2についてはSBTiの1.5℃シナリオに整合していることから4段階評価の最上位。スコープ3については、SBTiの2℃より十分低いシナリオに整合していることから4段階評価の上から2番目の評価を受けた。

主な削減策は、スコープ1・2については、省エネルギー活動やGHG 発生の少ない燃料への転換、バイオマスや太陽光等の再生可能エネルギー利用、エネルギー使用量を削減するプロセスの導入を進める。

スコープ3については、次にあげる様々な施策を進める。

1.GHG 排出削減に貢献する「バイオサイクル」(アミノ抽出後の栄養豊富な副産物(コプロ)を肥料や飼料としてほぼ100%活用する循環型アミノ酸発酵プロセス)の導入
2.アンモニアのオンサイト生産(外部調達から必要な場所での生産)に移行
3.再生可能エネルギーへのシフト(「RE100」に参画済)
4.飼料用アミノ酸による、家畜由来のGHG排出削減

サステナ・リンク債は脱炭素時代の資金調達の手段として注目される。

■「サステナ・リンク債」を発行するメリットは

国内でサステナビリティ・リンク・ボンドを初めて発行したのは、20年10月に発行したヒューリックで、発行額は100億円だった。その後、各社の発行は相次いでいて、22年の発行は16件の2940億円となった。23年は5月末までで約1200億円となっている。

企業がサステナ・リンク債を発行するメリットは何か。SMBC日興証券の浅野達シニアESGアナリストは次のように話す。

「一般論として、発行体はSPTs達成と未達時のペナルティを約束する代わりに、資金充当先を限定する必要が無い。そのため、資金使途を限定するタイプのESG債と比べ柔軟に調達資金を活用することが可能だ。同時に発行体全体の取り組みとして持続可能性へのコミットメントを掲げることができる点が挙げられる」

企業にとって環境課題へのコミットメントを掲げながら柔軟な資金を調達できるため、今後も資金調達手段として活用頻度は増えていきそうだ。

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萩原 哲郎(オルタナ編集部)

2014年から不動産業界専門新聞の記者職に従事。2022年オルタナ編集部に。

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キーワード: #ESG投資

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