サステナ経営塾第19期上期第4回レポート

株式会社オルタナは2023年7月12日に「サステナ経営塾」19期上期第4回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。

ビジネスと人権: 「サプライチェーンのリスク」

時間: 10:20~11:40
講師: 下田屋 毅氏(Sustainavision Ltd. 代表取締役/株式会社オルタナ オルタナ総研フェロー)

第1講には、Sustainavision Ltd.代表取締役の下田屋毅氏(オルタナ総研フェロー)が登壇し、「ビジネスと人権: 『サプライチェーンのリスク』」をテーマに講義した。
主な講義内容は次の通り。

・人権尊重の取り組みは、企業の市場競争力を高める。

・「世界人権宣言」の第一条で、人権について次のように説明されている。「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない」

・人権侵害の影響を受けやすいグループとして、「高齢者」「女性」「障がい者」「移民労働者」「先住民族」「子どもと若者」「宗教・民族のマイノリティー」などが挙げられ、企業のサプライチェーン上に弱い立場として存在している。

・人権のアプローチでは、企業のサプライチェーン上で人権侵害の「影響を受けている人」「ライツホルダー(権利保持者)」に注目する必要がある。企業はこれら自社のサプライチェーン上の「声を上げられない人」を認識して、企業が与える人権侵害のリスクを特定していかなければならない。

・重大な人権侵害の過去の事例として、世界最悪の化学工場事故といわれるインドのボパール化学工場事故がある。1984年、殺虫剤の有毒ガスが近隣のスラムに流出。一晩で2000人以上、最終的には1万5000人から2万5000人が死亡した。

・2012年11月、バングラデシュの衣料品工場(タズリーンファッションズ社)で火災が発生。ウォルマートは、危険性を認識し、このタズリーン・ファッションズ社に発注していなかったが、クリスマス商戦に向けて生産を増強する必要があり、ウォルマートのサプライヤーがタズリーン社に再委託してしまっていた。

・2013年には、バングラデシュの首都ダッカ近郊にある5階建ての商業ビルに3階建て増しをして8階建てとした衣料品工場が入ったビル「ラナ・プラザ」でビルの崩壊事故が発生。強制労働、低賃金、過重労働を強いる状況下で働かされていた若い女性労働者を中心に死者1134人、負傷者2500人以上を出した、衣料品工場における最悪の事故となった。 

・人権侵害のリスクが高い身近な食品として、「パーム油」「カカオ」「コーヒー」「サトウキビ」「バナナ」「大豆」があり、それら人権侵害のリスクを回避する方法の1つとしてRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証のように、持続可能性を示す認証制度もある。

・「現代奴隷制」は、世界中で起きている。国際労働機関(ILO)とウォーク・フリー財団のレポート(2022年公表)によると、現代奴隷制の定義は「強制労働」と「強制結婚」からなっている。全世界で4960万人が現代奴隷制の下で働かされ、そのうち強制労働の被害者は2760万人に上ると推定される。 

・2021年6月発行のILOとユニセフのレポートによると、世界で1億6000万人の子ども(10分の1)が児童労働に従事しているとされる。児童労働は未熟練で資格を持たない労働者を創出し、児童の将来的な技能向上、将来の経済的・社会的発展を脅かす。

・現代奴隷制は通常隠れており、発見が難しい。企業は「サプライチェーン上に現代奴隷制があるかもしれない」という意識を持たなければならない。

・米国国務省の人身取引報告書では、日本の外国人技能実習生制度は、現代奴隷制だと指摘されてきた。日本における実習実施機関である工場の労働環境には問題がなくても、外国人労働者が母国において技能実習制度を利用する際に仲介したブローカーに対して借金を背負うなど、現代奴隷制の仕組みのなかにいる場合もある。

・人権デューディリジェンスは必須となってきたが、企業は全て人権侵害のリスクに対して完璧に対応できるわけではない。人権影響評価を行った上でサプライチェーン上の人権侵害のリスクを特定し、企業が取り組みをするための優先順位をつけて進めてほしい。

企業事例: 日本マクドナルドのサステナ経営戦略

時間: 13:00~14:20
講師: 岩井 正人氏(日本マクドナルド株式会社 コミュニケーション&CR本部 サステナビリティ&ESG部 顧問)

第2講には、日本マクドナルドコミュニケーション&CR本部、サステナビリティ/渉外担当の岩井正人氏が登壇し、「日本マクドナルドのサステナ経営戦略」をテーマに講義した。
主な講義内容は次の通り。

・SDGs17の目標のなかで、飢餓ゼロや気候変動対策、パートナーシップなど6つの目標を優先的に取り組む。

・企業にとっての重要課題であるマテリアリティを決めた際に、ストーリーとして考えたことに特徴がある。

・6つの目標のなかで「パートナーシップ」積極的に、100を超える国・地域、4万店舗のネットワークを活用して紙ストローや木製カトラリーの導入も。

・岩井氏「お客さまとの協力も」、バーガーのサイズの多様化やコーヒーにつけるミルクやシュガーも必要な量を提供する。

・気候変動対策は「国内3000店舗あるなかでCO₂フリー店舗は126店舗」だとし、さらに力をいれていくことが必要だとした。

・2022年の食品リサイクルは65%だった。フライ油は鳥のエサの加工品としてほぼ100%リサイクルする。

・全世界で初めてハッピーセットのおもちゃをリサイクルしてトレイにしている。5年間で約1500万個を回収した。

③宿題発表: 自社のアウトサイドイン&パーパス表現①

時間: 14:35~15:55
講師: 森 摂(株式会社オルタナ 代表取締役/オルタナ編集長)

第3講では、受講生が事前に提出した「自社のアウトサイド・イン&パーパス表現」について意見交換を行った。概要は以下の通り。

・受講生は自社のアウトサイド・イン戦略とパーパスについてプレゼンし、意見交換を行った。

・パーパスとは、「生み出した理由、または何のために存在するか」という意味を指す。「存在意義」と訳すことが多い。
・米ハーバード・ビジネス・レビューのオンライン版「あなたの会社のパーパスは、ビジョンでもミッションでもバリューでもない」(2015年9月3日付け。筆者はグラハム・ケニー氏)では、「パーパス」「ビジョン」「ミッション」「バリュー」の違いをこう書いた。
・ビジョン:組織(企業)が「何年か後にこうありたい」という姿。通常、経営層によって、日々の業務より長期のスパンの中で、明確で覚えやすい方法で思考するために書かれることが多い。
・ミッション:その組織(企業)のビジネスが今どこにあり、どこを目指しているのかを書くもの。経営層や社員に対して、よりフォーカスされた姿を明示することが目的。
・バリュー:望ましい企業文化。社員の行動規範としても機能している。
・パーパス:社員やスタッフが良い仕事ができるように、組織が顧客(企業の場合)や、学生(学校の場合)や、患者(病院の場合)の生活にどんな(良い)インパクトを与えられるのかを‪明確に表現するもの。

・ピーター・ドラッカーは著書『マネジメント』で、「企業の目的(パーパス)はそれぞれの企業の外にある」「企業の目的(パーパス)は、顧客を創造することにある」と述べた。

・この考えを、SDGアウトサイド・イン戦略に落とし込むと、「企業の『存在意義』は、市場の外(社会)にいる未来顧客を顧客に変えること(顧客創造)」——となる。

・パーパスを考える際の論点は4つある。
1:自分の/私たちの会社は何のために社会に存在しているのか。⇒私たちの企業が無くなったら、社会は困るか
2:「企業の目的は利益を出すことである」と教えていないか。⇒「利益や売上ばかり考える人はなぜ失敗してしまうのか」(ダイヤモンド社、著:紺野登+目的工学研究所)
3:パーパスは日本的経営で受け継がれてきた伝統でもあった⇒「先義後利」(大丸の家訓)「たらいの水」(二宮尊徳)
4:パーパスは「人的資本経営」のツール⇒パーパスはプライドを育てる=不祥事の防止「マイ・パーパス」を社員に作ってもらう企業も

・受講生はグループに分かれ、考えてきた自社のアウトサイド・イン戦略/パーパス表現をプレゼンした。

生物多様性の世界最新動向とTNFD

時間: 16:10~17:30
講師: 道家 哲平氏(国際自然保護連合日本委員会 事務局長)

第4講では、国際自然保護連合日本委員会の事務局長である道家哲平氏が登壇し、「生物多様性の世界最新動向とTNFD」をテーマに講義した。
主な講義内容は次の通り。

・生物多様性条約(2020)によると、森林減少の面積は2000年に比べて33%抑えられてはいるが、未だに世界中で森林減少は進んでいる。自然界では、ニホンウナギやアワビ、マツタケなど、日本経済に深く関わる生物が絶滅危惧種に指定された。

・世界経済フォーラムは、自然資源の減少が44兆ドル(6051兆円)もの経済損失を招くと報告した。

・2022年12月に採択された「昆明・モントリオール生物多様性世界枠組み」(GBF)は、生物多様性の損失を止め、使う以上に自然資源を回復させる「ネイチャーポジティブ」を目指す。陸と海それぞれの30%以上を保全地域とする「30 by 30」など、23の目標を立てた。

・23の目標のうち、GBFのターゲット15にあたるのが「ビジネスによる影響評価・情報公開の促進」である。2023年9月に正式発表されるTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が情報開示のフレームワークとして活用されていく予定だ。

・TNFDの開示構成では、企業において密接に関連する生物多様性の分野や範囲を自社で選択し、その部分のみを開示する点や影響がある場所を特定する点に特徴がある。

・自然リスクの評価にはLEAP(Locate、Evaluate、Assess、Prepare)のアプローチ方法が推奨されており、まずは自社とそのサプライチェーンが一番関連する自然資源は何であるかを洗い出す必要がある。

・2023年9月には、TNFDのフレームワークの最終版が発表される予定で、今後、生物多様性に関する情報開示が義務化する可能性が高い。

・道家哲平氏は、「企業は今、変化の著しい社会で生き残るためにダイバーシティを推進している。自然界も同様に、多様な種がいることが変化に強い生態系を形成し、ひいては私たちの社会基盤を強化することにもつながる」と話した。

susbuin

サステナ経営塾

株式会社オルタナは2011年にサステナビリティ・CSRを学ぶ「CSR部員塾」を発足しました。その後、「サステナビリティ部員塾」に改称し、2023年度から「サステナ経営塾」として新たにスタートします。2011年以来、これまで延べ約600社800人の方に受講していただきました。上期はサステナビリティ/ESG初任者向けに基本的な知識を伝授します。下期はサステナビリティ/ESG実務担当者として必要な実践的知識やノウハウを伝授します。サステナ経営塾公式HPはこちら

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