海外でカーボンニュートラル宣言を見直す企業が相次ぐ

■連載「曲がり角のカーボンニュートラル」(4)

記事のポイント


  1. 自社の「カーボンニュートラル宣言」を見直す企業が海外で相次ぐ
  2. 背景には「グリーンウォッシュ」への消費者の反発や訴訟がある
  3. カーボンクレジットを買ってオフセットする手法にも懐疑的な見方がある

ウォルマートやネスレなど海外企業の間で、自社のカーボンニュートラル宣言の中身を見直す企業が相次ぐ。その背景には、環境にやさしいと見せかける「グリーンウォッシュ」に対する消費者の反発や、安直なカーボンオフセットを疑問視する声がある。安易なカーボンニュートラルは、コンプライアンスやレピュテーションリスクを招きかねない。(オルタナ編集部・北村佳代子)

カーボンオフセットを止めた英イージージェット航空

■「企業がカーボンニュートラルを主張する時代は終わった」

「企業がカーボンニュートラルを主張する時代は終わった」。国際環境NGOカーボン・マーケット・ウォッチ(CMW)のジル・デュフラスヌ政策担当官は、英ガーディアンの記事(7月10日付け)でこう表明した。

CMWは2023年5月、ベルギーの消費者機関の委託を受け、同国内のスーパーで販売される15の「カーボンニュートラル」商品を調査した。

その結果は衝撃的だった。「信頼できる主張をしている製品はゼロだった」という。同NGOは「カーボンニュートラルの主張は、企業が環境汚染を平然と続けながらも自社を環境意識の高いイメージと見せるための、まやかしのマーケティング戦略になった」と指摘する。

■英国やEUが「ウォッシュ取り締まり」を強化

企業が掲げる「カーボンニュートラル」に対しては、グリーンウォッシュへの懸念から、EU(欧州連合)や英国、オーストラリア、韓国などで監督機関による取り締まりの強化が進む。

英国は、2021年9月に競争・市場庁が、「グリーンクレームコード(環境配慮の主張に関する指針)」を作成したほか、欧州委員会も2023年3月に、環境配慮の主張に関して、科学的根拠に基づく立証と外部検証を義務付ける「グリーンクレーム指令案」を発表した。(参考記事: https://www.alterna.co.jp/67412/

韓国は2023年2月、グリーンウォッシュで消費者を欺いた企業に最高300万ウォン(約33万円)の罰金を科す法案を発表した。オーストラリアでも、競争・消費者委員会(ACCC)が7月、グリーンウォッシュからの消費者保護を目的に、環境・サステナビリティの主張に関する新ガイダンス案を公表した。

こうした動きの中で、自社商品に対する「カーボンニュートラル」の主張を取り下げる企業も出てきた。

■消えた「カーボンニュートラルバーガー」

英国やオランダで自然派ファストフードチェーンを展開するレオン社は、2021年1月、「カーボンニュートラルハンバーガー&フライドポテト」を売り出し、メニュー上にカーボンフットプリント(商品のライフサイクル全体での排出量)を表示して販売した。

これに対し、複数の専門家が、同社の活用するオフセット・スキームを含め、その主張の信頼性を疑問視した。

レオン社と同社に協力するクライメートパートナーズ社は当初、「ハンバーガーとフライドポテトにかかる排出量を測定・削減し、オフセットしている」と反論した。

しかし、レオン社の広報担当者は英メディア・フットプリント社に対し、「2023年4月から段階的にカーボンニュートラルの主張を止めていく」と回答し、同社ホームページから、「カーボンニュートラルハンバーガー&フライドポテト」の文言は消えた。

映画や番組などメディア作品の制作過程での排出量の削減等に対し、認証を発行する英団体・アルバートも、「カーボンニュートラル」の文言のついたロゴの使用を止めた。

2023年5月30日以降、これまでの「カーボンニュートラル・サステナブルプロダクション」のロゴを廃止し、「アルバート・サーティファイド(公認)・プロダクション」に切り替わる。ロゴは変更するものの、これまでの認証発行のプロセスに変更はないという。

■「キットカット」「ペリエ」などでカーボンニュートラル目標取り下げ

■カーボンオフセット宣言を止める企業が相次ぐ

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北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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