日本の強みを「SDGsコミュニケーション」に活用するには

記事のポイント


  1. カンヌライオンズではSDGsに関連した作品が目立つ
  2. 日本の受賞作品も同様で、特に日本が持つ「強み」を生かした
  3. 日本の強みを広告手法にどう取り入れるべきか考察する

世界最大規模の広告祭「カンヌライオンズ」の受賞作品には、今後のSDGsに関するコミュニケーションについて生かせるアイデアが数多く存在している。日本の受賞作品を見ても、廃棄する貝殻からヘルメットを開発した取り組みやGDP(国内総生産)を補う指標として、ウェルビーイングを加味した指標「GDW(国内総充実)」の開発など、ユニークだ。SDGsコミュニケーションに活かせる日本の強みについて考える。(伊藤 恵・サステナビリティ・プランナー)

廃棄する貝殻をアップサイクルした「SHELLMET」

「守るのは、頭と地球。」がコンセプトのSHELLMET。これまで水産廃棄物だったホタテの貝殻が原料だ。毎年4万トンもの貝殻が、近年では地上保管されていたため環境への影響など社会問題化していた。

この問題にアプローチするために企業や大学と協力して100%リサイクル素材のヘルメットを開発。新品のプラスチックを100%利用するよりも約36%のCO2が削減される。

このような環境への取り組みだけでなくSHELLMETは貝殻のような美しいシルエットのデザインも高く評価され、デザイン部門でゴールドを受賞している。

この貝殻特有のリブ構造は見た目だけでなく、高い機能性を兼ね備えており通常のヘルメットよりも強度が30%高い。5色展開のユニバーサルなデザインで、2025年大阪万博の公式防災ヘルメットにも採用された。

細部まで緻密に計算された高いデザイン性や機能性を実現させる日本のクラフト力は、これまでも世界の広告賞で高く評価されてきた。このクラフト力は、さまざまなSDGsコミュニケーションでも有用な日本の強みといえるだろう。

首相が認めた公式指標「国内総充実」

従来のGDP(Gross Domestic Product=国内総生産)を補う指標として、心身の健康や幸福を指す「ウェルビーイング」を加味した指標、GDW(Gross Domestic Well-being=国内総充実)の開発が進む。

公益財団法人ウェルビーイング・フォー・プラネット・アースと参画企業が立ち上げた「ウェルビーイング・イニシアチブ」が主導で、GDWをもとにしたウェルビーイング経営の推進、政府提言などを行っている。

物質的な豊かさだけでなく豊かさの質を測定するのが大きな特徴で、「幸福度」や「生活満足度」など単一指標では捉えることが難しかったものを9つの幸福指標で調査し、四半期ごとに発表していく。

GDWは日本の首相から公式指標と認められ今後ますます拡大していくことが期待されている。この施策はビジネスの在り方を変革する独創的な取り組みを評価する「クリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション」部門で金賞などを受賞した。

海外の施策では、政府への提言や実際に法改正まで至ったものなどダイナミズムを感じる事例が多くあったが、日本でこういった政府を巻き込んだ事例はいままで多くはなかった。

日本でもGDWのように大手企業や国と足並みを揃えて社会課題に取り組めるようになったことを示す好事例であるといえる。

イノベーションは先人の知恵にあり「PASSIVE COOKING」

イタリアの食品メーカーBarillaの施策。世界的にエネルギー価格が高騰しているいま、イタリア人がこよなく愛するパスタを扱う同社は、エネルギーを節約しながらパスタを茹でる手法を世の中に広めていった。

この「PASSIVE COOKING」とは、パスタを2分間だけ茹で、そのあとはディバイスツールを使いながら余熱で茹でていくというものだ。

実はこの調理法自体は19世紀半ばからあったもので、エネルギーの節約やCO2削減の観点から改めて昔の調理法にテクノロジーを掛け合わせて、現代に復活させた。

Barillaによると従来の方法と比較して最大80%の炭素排出量を削減できるという。「PASSIVE COOKING」はインフルエンサーと有名シェフによる拡散や、ディバイスツール自体をオープンソースにすることで、多くの人に広まっていった。

この作品は「イノベーション部門」でブロンズなどを受賞している。過去の資産に現代のテクノロジーを掛け合わせてイノベーションをつくるというのは、日本でもおおいに活かせる視点だ。

「もったいない」という思想。当時世界トップクラスの経済成長を誇りながら、循環型社会を形成していた江戸時代。日本にも、今の時代に活かせるSDGsの先人の知恵がたくさん眠っているのではないだろうか。

次回も引き続きカンヌライオンズの受賞作の中から、これからのSDGsコミュニケーションのヒントになるアイデアを紹介していく。

*9月4日 下記につきましては誤りがありましたので、お詫びして訂正いたします。
誤: この作品はイノベーション性が評価さて、ブロンズなどを受賞している。(文末から8行目)
正: この作品は「イノベーション部門」でブロンズなどを受賞している。

itomegumi

伊藤 恵(サステナビリティ・プランナー)

東急エージェンシー SDGsプランニング・ユニットPOZI サステナビリティ・プランナー/コピーライター 広告会社で企業のブランディングや広告制作に携わるとともに、サステナビリティ・プランナーとしてSDGsのソリューションを企業に提案。TCC新人賞、ACC賞、日経SDGsアイデアコンペティション supported by Cannes Lionsブロンズ受賞。執筆記事一覧

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