サステナ経営塾第19期上期第5回レポート

株式会社オルタナは2023年8月23日に「サステナ経営塾」19期上期第5回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。

①統合思考/統合レポーティングとは何か

時間: 10:20~11:40
講師: 室井 孝之氏(株式会社オルタナ オルタナ総研フェロー)

第1講には、オルタナ総研フェローの室井孝之氏が登壇し、「統合報告」について講義した。主な講義内容は次の通り。

・ESGが世界で広がり始めたのは、2006年。コフィ・アナン国連事務総長(当時)が国連責任投資原則(PRI)を提唱したことが契機になった。

・日本では、2014年に金融庁が「スチュワードシップ・コード」を策定し、投資家に「建設的対話」を求めるようになった(2020年改訂)。翌2015年には、東京証券取引所が「コーポレートガバナンス・コード」を策定した(2021年改訂)。

・2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名すると、日本国内でもESG投資や情報開示の流れが加速した。

・2021年の「コーポレートガバナンス・コード」の改訂では、市場区分改革、取締役会機能、人材多様性などが盛り込まれた。「価値創造プロセス」(オクトパスモデル)が重要視されるようになった。

・統合思考とは何か。室井氏は「統合思考とは、企業の価値創造プロセスにおける財務情報と非財務情報(社員力、イノベーション力など)を合わせて高めていこうとする企業経営の考え方」と説明する。

・統合報告書は、組織の戦略、ガバナンス、実績と見通しが、どのように短期・中期・長期の価値創造を生み出すかについてのコミュニケーションツールである。

・統合報告書が求められる背景には、投資家・企業の「短期志向の是正」や環境・社会問題に対する経営者の関心の高まりなどがある。

・日本で872社(2022年12月末時点)、世界70カ国以上で2500社以上が統合報告書を発行している(出典:宝印刷D&IR 研究所「統合報告書発行状況調査2022 」、VRF 「統合報告および統合フレームワークについて」)。

・非財務情報開示の統合も進む。2022年6月には、気候変動開示基準委員会(CDSB)と価値報告財団(VRF)がIFRS財団に統合された。IFRS財団の傘下にある国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2023年6月、サステナビリティ基準の最終版を公表した。

・室井氏は「統合報告書は対話のツール」と位置づけ、「マテリアリティ特定プロセスでも、外部の有識者とのヒアリングが透明性の観点で重要だ」と対話の必要性を強調した。

・統合報告書の主な非財務情報開示例として、15のキーワードを示した。 

・「パーパス」は、社会において企業が何のために存在し、事業を展開するかを示す唯一無二のものである。 

・「社長メーセッジ」は、社長が自らの言葉で語り、会社の課題と解決策が示されていることが重要だ。 

・「ダイバーシティ・エクィティ&インクルージョン」では、WIN最高スコアの資生堂、高島屋を例に、両社とも40年以上の取り組みの成果が現在の評価につながっていること。「エクィティ」は、「#Me Too」や「Black Lives Matter」など米国で社会問題が露呈し、不平等な社会構造的格差の顕在化が背景にあると説明した。 

②サステナ経営検定3級試験の過去問演習と解説

時間: 13:00~14:20
講師: 木村 則昭氏(Nick’s Chain代表/株式会社オルタナ オルタナ総研フェロー)

第1講には、Nick’s Chain代表でオルタナ総研フェローの木村則昭氏が登壇し、サステナ経営検定3級試験の過去問演習と解説を行った。

「CSRリテラシーの基本」理解を目的とするサステナ経営検定3級は、前回の第16回までの実施で受験者1万人を超えた。

木村氏は受験に向けては、テキストの3度通読を推奨し、特に頻出の「ISO26000」の7つの原則と7つの中核主題は覚えておく必要があると述べた。

解説後、サステナビリティを学ぶ人にとって今後重要なポイントとして、①SDGsと2030年以降の新たなアジェンダ、②カーボン・ニュートラル、③ネイチャー・ポジティブ、④人権、⑤サーキュラー・エコノミーの5つを俯瞰した。

③ワークショップ: 上期総まとめ・疑問点の洗い出し

時間: 14:35~15:55
講師: 森 摂(株式会社オルタナ 代表取締役/オルタナ編集長)

サステナ経営塾第19期上期第5回の第3講ではワークショップを行った。第1回からこれまでの講義に関しての学びや疑問点を出し合った。ワークショップで出たQ&Aは下記の通り。

【Q&A】

Q,欧州向けのビジネスを展開しているが、欧州ではCSRDなどの規制を相次いで導入している。欧州のサステナ関連情報をどのように情報収集したらよいのか悩んでいる。

A, 日々の情報収集としておすすめなのがグーグルニュースでのキーワード設定。「Sustainability」「circular economy」「CSRD」「human rights」など関連のキーワードを設定しておけば情報が集まる。

Q,自社のサイトやサステナビリティレポートでネガティブ情報をどこまで取り扱えばよいか。

A,「うちの会社は100点満点」と言っても、社員も含めて素直に受け止める人は少ない。ネガティブ情報を出すことはマイナスではない。できていることだけでなく、できていないことも開示することで、信頼を得られる。できていないものに関しては、補足として現在の状況を説明する。

Q,社内浸透ではトップダウンが大事だとされているが、各社員が腹落ちするのか疑問が残る。社員に腹落ちさせるために有効な施策はあるか。

A,管理職を対象に今年度から試験的に取り組みだした。対象となる社員はSDGsの17目標から2つ選び、それらの目標達成に貢献できるよう自らの業務範囲で個人目標を設定する。達成度合いによって、給与に反映する仕組みだ。(大手生活用品メーカー)

キリンホールディングスは2022年に「CSVコミットメント」を策定した。経営理念をもとに定めた「CSVパーパス」を実現するため、中長期的な視点で各事業に求めるKPIを数値化したものだ。「環境」「コミュニティ」「健康」「酒類メーカーとしての責任」の4領域で、グループ内の事業会社や部門ごとに中長期目標を数値化した。個人目標として落とし込む社員もいる。

スターバックス コーヒー ジャパンは2020年から店舗で働く社員の評価指標にサステナビリティを追加した。これまでは、パートナー(社員)、カスタマー(顧客)、ビジネスの3項目で設定した目標をもとに人事評価を行っていた。

カルビーは2019年に「全員活躍」「圧倒的当事者意識」を掲げ、社員に求める価値観「Calbee 5 values」(自発/利他/対話/好奇心/挑戦)を定めた。同社が重要視する5つの価値観の中には、サステナビリティ要素が強い「利他」もある。全社員は5つの価値観をもとに目標を定める。達成度合いを基本給に反映する。

システムインテグレーターのインテリジェントウェイブは、サステナビリティ活動に取り組む社員に「次のチャンス」を与える。実際のインセンティブではないが、沖縄にあるサテライトオフィスで1週間働ける権利や中東への海外出張など、キャリアの開拓につながる機会を提供する。この出張でのレポート提出は不要にしている。

日立製作所は2021年7月に京都大学経営管理大学院の砂川(いさがわ)伸幸教授と共同研究プロジェクトを立ち上げ、非・未財務と財務の関係分析を行った。共同研究の結果、日立製作所はESGの取り組みが売上高や株価など業績の向上につながっていることを学術的に証明した。

ブリヂストンでは統合報告書などで「マテリアリティ」という言葉を使うことをやめた。マテリアリティではなく、重要課題と表現した。投資家向けの専門用語は社内に伝わりづらいため、重要課題とした。

Q,サステナビリティを推進するために、してはいけない施策は。

A,よくあることが、社長が変わることで、これまでの方向性がガラリと変わってしまうことだ。社長が変わっても、これまで行ってきた重要施策は継承して、増幅することが重要である。一度宣言したパーパスやサステナビリティに関するビジョンは相当な理由がない限り変えてはいけない。

Q,国内企業は社会に対してインパクトを与えているが、欧州や米国と比べて国際社会での存在感が劣る。国際社会で影響力を持つにはどうしたらよいか。

A,その業界でトップランナーにならないといけない。欧州や米国の動向を見過ぎている傾向にある。国際的なプレゼンスを高めるなら、世界の一番手として取り組みを行うべきだ。

④企業事例: ユニリーバのサステナビリティへの取り組み

時間: 16:10~17:30
講師: 岩﨑 有里子氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社 ヘッド オブ コミュニケーション)

第4講には、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスのヘッド オブ コミュニケーションの岩﨑有里子氏が登壇し、「ユニリーバのサステナビリティへの取り組み」をテーマに講義した。主な講義内容は次の通り。

・1884年の創業時から「清潔さを暮らしの『あたりまえ』に」というパーパスを持ち、社会課題に合わせて現在は「サステナビリティを暮らしの『あたりまえ』に」と再定義した。

・ポール・ポールマン氏がCEOだった2010年にビジネスとサステナビリティを両立する成長戦略「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を策定。20年末までに、13億人の衛生やウェルビーイングを改善、自社工場からでるGHG75%削減などを実現した。

・この戦略はビジネスにおいても、成長加速や信頼強化、コスト削減、リスク低減などの好影響をもたらした。

・新たな成長戦略として2021年に「ユニリーバ・コンパス」を導入。「パーパスを持つ企業は存続する」「パーパスを持つブランドは成長する」「パーパスを持つ人々は成功する」の3つの信念を持つ。

・日本ではユニリーバ・コンパスに基づいて、再生可能エネルギーへの100%切替、RSPO認証原料などの持続可能な調達、社外パートナーとの協働を推進。物流効率化のための新取引制度は導入2年間で950tのCO₂削減を実現した。

・プラスチック対策は25年までにグローバル全体で、「非再生プラ使用量50%削減」「使用プラの25%を再生プラに」「プラパッケージを100%再使用・再生・堆肥化可能に」「販売量よりも多くのプラパッケージの回収・再生を支援」などを目標に掲げる。

・消費者との協働で「UMILE(ユーマイル)プログラム」を実施。ユニリーバの詰め替え製品の購入や使用済み空容器の回収、様々なSDGsアクションに協力することでポイントを獲得し、エコグッズをもらえたり、寄付、LINEポイントへの変換ができる。113万人超が登録する。

・UMILEは「ビジネスとパーパスを両立」させることを目標とし、異業種を含めた企業や自治体との協働による「相乗効果」での影響力拡大を目指し、サステナビリティを共通言語にした新しいビジネス機会の創出を目指す。

・パーパスは人材育成の核にもなっていて、日本では「パーパス・ワークショップ」などの浸透施策を行う。

・岩﨑氏はパーパスを社内に浸透させるコツとして「カギは働き方にある」とし「自分らしく働くことができ、心理的安全性が確保された環境がボトムアップの提案やアクションにもつながっている」と指摘した。

susbuin

サステナ経営塾

株式会社オルタナは2011年にサステナビリティ・CSRを学ぶ「CSR部員塾」を発足しました。その後、「サステナビリティ部員塾」に改称し、2023年度から「サステナ経営塾」として新たにスタートします。2011年以来、これまで延べ約600社800人の方に受講していただきました。上期はサステナビリティ/ESG初任者向けに基本的な知識を伝授します。下期はサステナビリティ/ESG実務担当者として必要な実践的知識やノウハウを伝授します。サステナ経営塾公式HPはこちら

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