記事のポイント
- スターバックスは、リユースを促進するため「部活」を立ち上げた
- 今年5月末から始めた「タンブラー部」という活動だ
- パートナーと顧客が共感し、楽しみながら取り組むことを重視する
スターバックス コーヒー ジャパンは、リユースを促進するため「部活」を立ち上げた。今年5月末から始めた「タンブラー部」という活動だ。環境に配慮した飲用スタイルへの移行を目指す同社は、「押し付ける」ことはしない。パートナー(従業員)と顧客が共感し、楽しみながら取り組むことを重視する。(オルタナS編集長=池田 真隆)
店舗でマイタンブラーを使えば使うほど、「ベアリスタ」が成長する。ベアリスタとはクマの「ベアー」と「バリスタ」を掛け合わせて作った造語だ。ユーザーはリユースに取り組むことで、ベアリスタの成長を楽しみ、その結果、廃棄物削減にも貢献する。
これがスターバックス コーヒー ジャパンが5月末から日本で始めた「タンブラー部」の活動だ。スターバックスはグローバル全体で、資源を利用するだけでなく地球に還元する「リソースポジティブカンパニー」を目指す。2030年までにCO2排出量、水使用量、廃棄物量を50%削減するという3大目標を掲げる。
タンブラー部はそのための一つの施策としてリユース促進を狙った「参加型プロジェクト」だ。学生時代の部活のように仲間とともに楽しくマイタンブラーの利用を促す。
タンブラー部には、無料で参加でき、誰でも「部員」になることができる。店舗でのマイタンブラーの利用を促進する企画なので、同社以外のタンブラーも利用できる。
同社の公式モバイルアプリでは、マイタンブラーの利用回数に応じてベアリスタが成長する会員向けのコンテンツがある。
店舗でマイタンブラーを利用するごとにポイントが付与され、ベアリスタがポイントに応じて成長する仕組みだ。
部員数は非公開だが、活動を始めて1カ月間での部員全員でのマイタンブラー利用回数は、全国約1800店舗で124万1655回を記録した。
マイタンブラーの利用回数を部員同士で競わすことはしない。部員一人ひとりが自分のペースで取り組むことが重要だと考えた。
■手書きのメッセージが「共感」誘う
スターバックスでは環境配慮型の飲用スタイルへの移行に取り組むが、そのために最重要視したのが「共感」だ。
同社のサステナビリティ&資材購買部エシカルソーシング・サステナビリティチームに所属する田中冴子氏は、「店舗で働くパートナーも楽しめることがポイント。パートナーがワクワクするから周囲に伝えたくなる。だから巻き込める」と話した。
サステナビリティを推進するドライブは、「パートナーの共感とオーナーシップ」と説明した。全国の店舗で働く約5万人のパートナーは、タンブラー部の「応援マネージャー」として活動を盛り上げる。
盛り上げ方はパートナーに任されている。店舗に飾る「コミュニティボード」には、各店舗一律の宣伝文句ではなく、パートナー自らが考えた言葉が手書きで並ぶ。
接客時にベアリスタの成長について、顧客と会話が生まれる。コミュニケーションの促進にも一役買っているのだ。
■賞賛や認め合い、「企業文化は戦略に勝る」
顧客のマイタンブラーの利用回数が、人事考課に影響するわけではない。それなのに、各店舗のパートナーがマイタンブラーの利用を自発的に促すのはなぜか。
店舗のストアマネージャー(店長)として勤務した経験を持つ田中氏は、「面接でスターバックスのミッション&バリューズやへの共感や自分ゴト化できるかどうかをしっかりと話を聞いているから」と話した。
採用時から同社のミッション&バリューズに共感し、共にに成長していきたい人物かを丁寧に確認するという。採用後も各店舗のストアマネージャーがミッションを自分の言葉で言語化して、店舗で働くパートナーに数時間伝える教育機会もある。
賞賛の文化も、エンゲージメントを上げる。パートナー同士で対話を繰り返し、認め合い、賞賛を送り合う。そのような組織文化は、心理的安全性を保つ。
田中氏は、「先輩方が家族のように私自身を大事にしてくれたから、私も一緒に働くパートナーを、家族のように大事大切にしたいと思えた」と言い切った。
マネジメントの父であるピーター・ドラッカーは「企業文化は戦略に勝る(Culture eats strategy for breakfast)」という言葉を残した。戦略もさることながら、この組織文化がスタバの最大の強みだ。