オルタナ総研統合報告書レビュー(24): ブリヂストン

記事のポイント


  1. ブリヂストングループはビジネスモデルに貢献する知財マネジメントを重要視
  2. バリューチェーン全体をスコープ
  3. 「知財活動の実践事例」として「鉱山ソリューション」を紹介

ブリヂストングループは「2030年実現したい姿」として「ビジネスモデルに貢献する知財マネジメント」を掲げました。タイヤを使い込むとどの様な現象が起きるのかについての知財と、AI(人工知能)を含むデジタル技術を掛け合わせて実現したビジネスモデルとして鉱山車両用タイヤが紹介されています。(オルタナ総研フェロー=室井孝之)

ブリヂストン統合報告書2023

ブリヂストングループは、知財戦略を積極的に活用している企業として知られています。

同グループは2022年8月、2030年に実現したい姿を描き、その道筋とする「2030年長期戦略アスピレーション(実現したい姿)」を発表しました。

その中で「知的財産を可視化、活用する管理手法により、確からしさの高いビジネスモデルの構築に直接貢献する知財マネジメントに取り組み、攻めと守りの両面から事業の競争優位性を高めるサポートを行っている」と知財マネジメントが経営戦略に組み込まれていることが示されています。

攻めでは、「社会価値・企業価値へ転換する『知財ミックス』コンセプトによる知財の利活用の加速」を、守りでは、「知財の可視化によるリスク検知と対応能力の強化」と述べられています。

同グループは以下の3つの方針で知財マネジメントの深化を図っています。

  1. 企画・開発・製造から物流・販売・リサイクルに至るバリューチェーン全体をスコープとした知財活用マネジメントを行う
  2. バリューチェーン全体に分布するナレッジ・ノウハウ・特許など様々な知財が組み合わさって社会価値・企業価値に転換されるかたまり・群を知財ミックスによるモジュールとし 、知財群を利活用する
  3. 開発・製造のみならず、物流や販売サービスの現場との日常的なコミュニケーションによって暗黙知を事業価値に繋がる形式知へ転換し、知財ミックスを設計構築していく活動を行う

統合報告書では、「知財活動の実践事例」として「鉱山ソリューション」が紹介されています。

車両重量260t、積載重量370tの鉱山車両では、総重量を6本のタイヤで支えるため、1本あたり100tもの荷重がかかります。

一度の車両の稼働でより多くの鉱石を積載し、より速く運搬して車両運搬効率を向上させることが、生産性向上のための重要な課題になっています。

鉱山車両用タイヤは、数千件レベルの特許群、ナレッジ・ノウハウ群によって基盤が形成され、その基盤の上に耐久・摩耗予測等の特許群と、それを支える秘匿知財群から成る応用層があり、更に生産性・安全性・リサイクル等でソリューション全体を束ねる事業モデルの3層構造で知財ミックスが構築されています。

鉱山車両用タイヤの例からも、知財部門はビジネスモデルのプロデューサーであり、どの知財がどのように働いているのかを可視化し、自分たちの強みを分析することがIPランドスケープの要諦と考えます。

次の統合報告書では、タイヤを使い込むとどの様な現象が起きるのかについての知財と、AI(人工知能)を含むデジタル技術を掛け合わせて実現したビジネスモデルを更に紹介されてはいかがでしょうか。

muroi

室井 孝之 (オルタナ総研フェロー)

42年勤務したアミノ酸・食品メーカーでは、CSR・人事・労務・総務・監査・物流・広報・法人運営などに従事。CSRでは、組織浸透、DJSIなどのESG投資指標や東北復興応援を担当した。2014年、日本食品業界初のダウ・ジョーンズ・ワールド・インデックス選定時にはプロジェクト・リーダーを務めた。2017年12月から現職。オルタナ総研では、サステナビリティ全般のコンサルティングを担当。オルタナ・オンラインへの提稿にも努めている。執筆記事一覧

執筆記事一覧
キーワード: #サステナビリティ

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..