イカリ消毒: 特定外来種を防除し、本来の生態系を取り戻す

記事のポイント


  1. アルゼンチンアリなど生物多様性を脅かす特定外来生物の侵略が懸念される
  2. 有害生物防除のパイオニアであるイカリ消毒は専門的知見を生かした防除対策を進める
  3. 特定外来生物を防除することで地域本来の生態系を再生させたい考えだ

アルゼンチンアリやヒアリといった生物多様性を脅かす特定外来生物や、デング熱を媒介するカ(蚊)の分布が日本で広がっている。有害生物防除のパイオニアであるイカリ消毒(東京・渋谷)は、専門的知見やノウハウを生かした防除対策を進める。特定外来生物を防除することで、地域本来の生態系を再生させたい考えだ。感染症予防にも貢献する。

増加する「侵略的外来種」に危機感高まる

日本の「特定外来生物」に指定されたアルゼンチンアリ

「すべての外来種が悪いわけではない。しかし、侵略的外来種が増えると、在来種を駆逐するだけではなく、人間の身体や暮らし、農林水産業に深刻な悪影響をおよぼす。侵略的外来種を防除することで、本来の生態系を取り戻したい」

こう危機感を示すのは、イカリ消毒技術研究所の富岡康浩研究員だ。イカリ消毒は、2010年代から、環境省や自治体、企業からの依頼を受けて、アルゼンチンアリやヒアリといった侵略的外来種の防除対策に取り組んでいる。

侵略的外来種とは、地域の自然環境に影響を与え、生物多様性を脅かすおそれのある外来種だ。中でも、日本政府は、生態系や人の生命・身体、農林水産業などに被害を与える生物を「特定外来生物」と指定し、「外来生物法」(2005年施行)に基づき、規制や防除対策を進める。

しかし、人間活動のグローバル化が進む中、防除対策は一筋縄ではいかない。アルゼンチンアリは、1993年頃に日本へ侵入したといわれ、すでに複数の自治体での定着が確認されている。また、2023年に入り、愛媛県や埼玉県でも初めて生息が確認された。

南米原産で強い毒を持つヒアリは、暖かい気候を好む。米ノースカロライナ州立大学の研究者は、気候変動に伴う気温の上昇が、ヒアリの生息域を急速に広げていると指摘した。

イカリ消毒で防除対策を率いる富岡研究員は、「侵略的外来種は、コンテナや荷物に付着して、短期間であちこちに移動する。確立された調査方法もなく、見つけること自体が難しい。繁殖力が高く、駆除したと思っても、再発する場合も少なくない」と語る。

11カ所で「根絶」に成功、在来のアリも復活

イカリ消毒で防除対策を率いる富岡康浩・技術研究所研究員

イカリ消毒が初めてアルゼンチンアリの「根絶」に成功したのは、2016年のことだ。同社は2014年に横浜市から委託を受け、アルゼンチンアリの防除を始めた。

アルゼンチンアリは攻撃的な性質で、在来のアリ類を駆逐してしまうため、生態系への影響が深刻だ。農作物に被害を与えたり、屋内に侵入して人間をかんだりすることもある。

イカリ消毒は、横浜市の防除対策として、ベイト剤(殺虫成分入りのエサ)を設置し、殺虫剤を散布した。その後、徐々にベイト剤の量を減らしていった。2015年4月から2017年3月までに実施した捕獲調査で、アルゼンチンアリの数が9回連続でゼロになり、「根絶」を達成した。

アルゼンチンアリを根絶したことで、在来のアリ類が復活し始めたという。在来のアリ類の数は、2014年に14種578頭だったところ、2016年には23種918頭に増加。生物多様性が回復したとみられる。

「ベイト剤だけで防除が困難な場合、限定的に殺虫剤の広域散布を行うことが、アルゼンチンアリの防除を成功させるうえで重要だ。液剤散布には否定的な意見もあるが、効果的に使うことで、殺虫剤の総使用量を減らし、環境への影響を必要最低限に抑えられる」(富岡研究員)

アルゼンチンアリを防除する様子

同社は防除対策に伴う環境負荷を低減させるために、生分解性のあるハイドロジェルタイプのベイト剤の開発も進める。これにより、ベイト剤のプラスチック容器を削減するほか、回収する手間を省く。

イカリ消毒はこれまで、静岡県や京都府など各地でアルゼンチンアリの防除対策を手掛け、11カ所で地域根絶に成功した。最近では、富岡研究員が都内の建設現場に運ばれる予定だった土壌からアルゼンチンアリを発見し、土の移動に伴う拡散を防いだ。

富岡研究員は、「拡散を未然に防げて本当に良かった。やはり『侵略的外来種がいる』という前提に立って、モノの移動を考えなければいけない」と力を込める。

富岡研究員は子どものころから、昆虫や生き物が好きだったという。「虫採りをしていると、環境の変化に敏感になる。いまの子どもたちにも、虫採りを楽しんで、自然に関心をもってほしい」と話した。

デング熱が世界最速で拡大、日本への影響も

デング熱は蚊が媒介するウイルス性の熱性・発疹性疾患。世界各地で感染が広がっている

イカリ消毒の外来生物防除に関する専門的知見やノウハウは、デング熱の予防・対策にも生かされている。

デング熱は、ネッタイシマカやヒトスジシマカなどのカ(蚊)が媒介するウイルス感染症だ。SDGs(持続可能な開発目標)では、デング熱は「顧みられない熱帯病」(NTDs)の一つとして、制圧が目指されている。

だが、世界保健機関(WHO)の推計では、世界人口の約半数がデング熱の危険にさらされ、毎年1億―4億人が感染するなど、事態は深刻だ。WHOは2023年7月、「世界最速でデング熱が加速し、世界的大流行の恐れがある」と警告した。地球温暖化がデング熱を媒介する蚊に有利に働くことも原因の一つとされる。

デング熱は、アフリカや東南・南アジアなど熱帯・亜熱帯地域で流行する感染症だが、最近では、日本でも2012年以降、年間 200 以上の輸入症例(※1)が報告されている(ただし、2014年および2020年以降を除く)。

2014年8月には、日本で約70年ぶりに国内感染事例(※2)が発生。都内の公園が感染地となり、最終的に162 例が報告された。2019年にも、デング熱患者の国内感染事例が確認された。

こうした感染症を防ぐため、イカリ消毒は東京都ペストコントロール協会の一員として東京都の感染症媒介蚊サーベイランスや、国立感染症研究所などと連携したデング熱媒介蚊の駆除訓練などに積極的にかかわっている。

イカリ消毒の小西正彦執行役員CSR推進部長は、「私たちは、本業を通じて、人々の命や健康を守っていくという使命がある。それが企業理念である『美しい街づくり』につながる。気候変動は、生物多様性の損失や感染症リスクの増大にも影響を与えている。人々の安全安心な生活やサステナブルな社会の実現に貢献していきたい」と語った。

※1 輸入症例:海外渡航で感染し国内で発症すること
※2 国内感染事例:海外渡航歴がなく、国内で感染すること

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yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #生物多様性

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