「ジェンダード・イノベーション」で性差を活かして事業創出

記事のポイント


  1. ジェンダード・イノベーションは05年に米教授が提唱し広がりを見せた
  2. 睡眠薬やシートベルトなどで概念を取り入れた商品開発も
  3. 専門家は「ジェンダーだけでなく様々な差異を考慮する入口だ」と指摘する

「ジェンダード・イノベーション」という言葉が広がっている。この言葉は「性差を考慮した革新」と訳される。2005年に米スタンフォード大学教授が提唱し、その後、EUから資金提供を受けて広がった。この概念を取り入れた事例として代表的なのが、睡眠薬やシートベルトだ。専門家は「ジェンダーだけでなく様々な差異を考慮する入口だ」と指摘する。(オルタナ編集部・萩原 哲郎)

ジェンダード・イノベーションは性差だけでなく、様々な差異を考慮する入口に

■睡眠薬やシートベルト、「男性基準」の開発で弊害も

国内で「ジェンダード・イノベーション」に対する研究やビジネスへの取り入れが進んでいる。

「ジェンダード・イノベーション」は、2005年に米スタンフォード大のロンダ・シービンガー教授が提唱した概念だ。国内では、同教授がジェンダード・イノベーションについて16年に九州大学で講演するなどし、22年にお茶の水女子大学が「ジェンダード・イノベーション研究所」を設立した。

「性差を考慮した革新」とも訳される「ジェンダード・イノベーション」は、学術研究とともに、ビジネスにおいても取り入れられてきた考え方だ。代表的なのが睡眠薬やシートベルトだ。

三重大学名誉教授で、東海ジェンダー研究所の小川眞里子理事は「睡眠薬は当初、治験を男性だけで済ませてきて、服用の基準もこの治験をもって作られてきた」と解説する。

男性基準で製薬されてきたために、「女性が服用すると朝になっても眠気がおさまらず、運転して事故などが起きていた」という。

シートベルトも開発当初は「性差に無頓着」だった。シートベルトは1960年代に実装されてきた。実用化前に衝突試験を行う際に使われる人形は「男性」をイメージしていた。

■EUなど研究資金の提供をきっかけに広がる

こういった男性中心の視点から、性差に考慮して製品開発などを行う「ジェンダード・イノベーション」が広がったのは、2010年代だ。特に大きかったのがEUが資金提供を行い、睡眠薬やシートベルトなどをまとめた事例集だ。

EUは「Gendered innovations」と題した事例集を2013年に初めて公表。その後、2020年には第二弾となる「Gendered innovations2」を公開した。

世界の研究状況は、欧州が先行している。ビジネスへの落とし込みも進む。日本は欧州に遅れ気味だが、すでにお茶の水女子大学の研究所と富士通などが提携する。小川理事は「市場に新たな需要が生まれるきっかけとなる」と話す。

■肌の色など様々な差異を考慮する入口に

小川理事は「ジェンダード・イノベーションは、男女の性差にとどまらず、様々な差異を考慮した技術革新に向けた入口になる」と指摘する。

たとえば、新型コロナ禍のなかで需要が高まった、皮膚を通して血液中の酸素の状態を見るパルスオキシメーターは、「黒人などが測定すると不正確な数値が出る」(小川理事)。メラニン色素が数値に影響し、不正確な数値が出てしまう。

顔認証も、トランスジェンダーが性自認に合わせていくために外見や身体を変える移行期には「認証が不正確になる」という。

小川理事は「ジェンダーにとどまらず、障がいの有無や年齢の老若など様々な差異の要素を取り入れることでイノベーションが生まれる」と話した。

hagiwara-alterna

萩原 哲郎(オルタナ編集部)

2014年から不動産業界専門新聞の記者職に従事。2022年オルタナ編集部に。

執筆記事一覧
キーワード: #ジェンダー/DE&I

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..