この報告書の発表会でUNDP人間開発報告書室長のペドロ・コンセイソン氏は「まるで人新世で人間が自然に戦争仕掛けているようだ。いろんなリスクが束になって襲ってきており、地球はかつてない危機に見舞われている。人間だけでなくすべての生物に危害が加えあられ、危険なレベルの悪影響を受けている」と危機感をあらわにした。
一方で、新型コロナや気候変動は開発が遅れている側や女性など弱者に被害をもたらし、不平等、不均衡を拡大しているとして、「地球への圧力、負荷を低減するメカニズムが必要だ」との考えを述べた。
新型コロナは今も猛威をふるっているが、地球温暖化については、遅ればせながら、温暖化ガス排出実質ゼロを目指す動きが世界に広がっている。先行して欧州連合(EU)が2050年のカーボンニュートラルを打ち出せば、昨年9月に中国が60年の実現を、また、日本も50年達成を目指す方針を公表、韓国、米国もこれに追随している。残された時間は少ないがまだ間に合う、いかに地球に悪影響を与えないシステムを作り上げるか、国連と世界の知恵が問われていると言えそうだ。
■オーブンは大丈夫か?
発表会で外務種の吉田綾地球規模課題総括課長が、経済・社会開発に触れて語った言葉が印象的に残った。
「これまではパイの大きさ、パイの分配の仕方ばかりを問題にしてきたが、今やパンを焼くオーブンそのものは大丈夫なのか?と問う時代になった」。まさにその通りである。 (完)
◆原田勝広:オルタナ論説委員。日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。明治学院大学教授に就任後の専門は国連、CSR, ESG・SDGs論。2018年より現職。著書は『CSR優良企業への挑戦』など多数。