多様な価値が生まれる「お庭のエコロジー」

■小林光のエコめがね(19)

記憶では、都留重人先生の言葉だが、かつて先生は、「日本の経済成長の仕方を批判して、庭をつぶして台所を作る愚」と評した。台所が作り出す食べ物よりも、庭からは、もっと多様な、価値あるものが生まれる、という喩で、栄養、すなわち金銭にのみスティックする社会を批判したのであろう。

台所と庭を秤に掛ける発想は、建て詰まった住宅地ばかりになった今日では、なかなか想像が難しいし、私個人としても、料理の創作は文化であるし、食事の団欒はとても意義が高いので、台所を見下さなくても、と思う。

がしかし、台所は人間にのみ奉仕するものである。他方、庭は、人間だけでなく多くの生物に貢献し、自然界での健全な物質循環を少しでも維持していく方向で役割を果たす貴重な存在である。無用に見えるが用がある、と言える。喩でなく、物理的な庭を大事にしよう。

東京・世田谷区では、「小さな森」という制度を持っていて、個人所有の庭などで自然に配慮する形で維持管理している所を認定し、そのような民地の自然の維持を横展開していくべく、庭の一般公開などでの啓発を図っている。

私の世田谷本宅に隣接する土地にある拙経営のエコ賃貸「羽根木テラスBIO」の前庭は、100平方メートルの狭い空間だが、多摩丘陵辺りの里地を模範とした植生にしてあって、そのゆえをもって、小さな森にかねてより登録されている。この庭の一般公開が、区のトラスト協会のお手伝いで、去る5月19日に行われた。

自宅の「小さな森」を公開し、いらして下さった区民に説明する筆者
自宅の「小さな森」を公開し、いらして下さった区民に説明する筆者
hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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キーワード: #生物多様性#脱炭素

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