座談会「組織戦略としてのウェルビーイング」

■雑誌オルタナ84号第一特集「ウェルビーイング 分断の時代こそ」
座談会「組織戦略としてのウェルビーイング」

ヒトの心と体の健康を意味する「ウェルビーイング」(WB)を、官民のさまざまな組織が取り込む動きが急速に広がってきた。環境省も「第六次環境基本計画」でWBを「解決すべき環境・経済・社会の諸課題」の一つに位置付けた。WBは社会や組織への効果やアプローチ手法が不明確である一方で、一部ではSDGs後継候補としても注目される。(聞き手=オルタナ創刊編集長・森 摂、輪番編集長・吉田広子、池田真隆、北村佳代子、撮影=高橋慎一)

左から小西聖子・武蔵野大学学長、磯貝友紀・アーネスト代表、前野隆司・武蔵野大学教授、大倉紀彰・環境省環境保健部企画課長、ファシリテーターの森摂

プロフィール(五十音順)
■磯貝友紀(いそがい・ゆき)氏
合同会社アースネスト代表。民間企業や世界銀行、外資系コンサルティングファーム、投資ファンドなどで「儲かるサステナビリティ」を推進。25年10月から現職。

■大倉紀彰(おおくら・のりあき)氏
環境省環境保健部企画課長。1998年に環境庁(当時)に入庁。京都議定書関連交渉や地球温暖化対策推進法などの改正に携わったほか、第六次環境基本計画の策定などを担当。2025年7月から現職。

■小西聖子(こにし・たかこ)氏
武蔵野大学学長。精神科医、公認心理士、臨床心理士として豊富な臨床経験を持つ。25年4月に武蔵野大学学長に就任。内閣府女性に対する暴力に関する専門調査会会長や内閣府男女共同参画会議議員を務める。

■前野隆司(まえの・たかし)氏
武蔵野大学ウェルビーイング学部ウェルビーイング学科教授。キャノンに勤務後、慶應義塾大学理工学部機械工学科教授、慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長を経て、2024年4月から現職。

■ファシリテーター:森摂(もり・せつ)
オルタナ代表取締役兼オルタナ創刊編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998‐2001年ロサンゼルス支局長。06年9月、オルタナを設立。その後2025年まで編集長。

■力による支配に対抗するあり方を

――この数年、トランプ米大統領を筆頭に ESGやDEI(多様性・公正性・包摂性)に対する反発や、「行き過ぎ」と批判される場面も増えました。こうしたなかで、いまウェルビーイングにどのように向き合うべきでしょうか。

前野:ウェルビーイングとは、身体的、精神的、社会的に「良好な状態」であることを指す概念です。ただし、ウェルビーイングを人間の幸せや健康に限定するのではなく、地球全体が良い状態であること、つまり「プラネタリー・ウェルビーイング」まで視野に入れる必要があります。

私が所属する武蔵野大学ウェルビーイング学部でも、心理学を基盤としながら、経営学や環境学などと連携し、分野横断的に研究を進めています。それを組織や社会の設計にどう応用できるのかを探っています。

いま世界には閉塞感があります。同時に「多様化の時代」にも入っています。自らの利益のみを追求する動きがある一方で、平和で持続可能な社会を築こうとする潮流もある。

だからこそ、ウェルビーイングを世界の共通言語として、「より良い状態をつくる」というポジティブなビジョンを掲げることが重要なのではないでしょうか。

――武蔵野大学は2024年春にウェルビーイング学部を設置し、26年春には大学院でウェルビーイング研究科を創設します。その狙いも含めて、いまなぜウェルビーイングなのでしょうか。

小西学長は男女共同参画の推進にも取り組んできた

小西:武蔵野大学は、仏教精神を基盤とし、ブランドステートメントに「世界の幸せをカタチにする。」を掲げています。この「幸せ」とは、ウェルビーイングそのものです。仏教の根底にあるのは、「生きとし生けるもの」すべてが、それぞれのカタチで幸せであることを願う思想です。

ウェルビーイング研究とは大学にとっては願いの実践にほかなりません。そしてウェルビーイングを考える機会は、社会人にも開かれるべきです。大学院設置は、その大きな一歩です。

私は精神科医として長年、犯罪被害者支援に携わってきました。支援の現場で痛感するのは、「『むき出しのパワー』は暴力である」ということです。家庭でも、企業でも、社会でも、力が一方的に行使されるとき、人の尊厳は損なわれます。

いま世界では、パワーポリティクス(力による政治)が顕在化し、強い危機感を抱いています。しかし、それが一定の影響力を持っていることも事実です。だからこそ、力による支配とは異なる社会のあり方を提示していきたいと考えています。

(この続きは)
■なぜ環境省はWBを最上位の目的としたか
■個々の幸せが対立する時代に
■大衆の貧困化が社会を不安定に
■利他的な人は幸福である
■幸せな人は創造性が高い
■親の幸福度が次世代に影響
■停滞から脱する有効な手段に

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yoshida

吉田 広子(オルタナ輪番編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。2025年4月から現職。執筆記事一覧

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キーワード: #オルタナ84号

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