記事のポイント
- サラヤが障がい者アートのレンタル事業の立ち上げを支援した
- オフィスなどに作品を貸し出し、利用料の一部をアーティストに還元する
- 「障がい者アートが世に出る機会をつくり、可能性を広げたい」とする
サラヤが立ち上げを支援した障がい者アートのレンタル事業「art bridge(アート・ブリッジ)」が2023年12月にスタートした。オフィスや店舗、病院などに作品を貸し出し、利用料の一部をアーティストに還元する。廣岡竜也・サラヤ広報宣伝統括部統括部長は「障がい者アートが世に出る機会をつくり、可能性を広げたい」と語る。
――なぜサラヤが障がい者アートのレンタル事業を始めることになったのですか。
2年ほど前に関西・大阪21世紀協会(大阪市)から当社社長の更家悠介に相談があったことがきっかけでした。同協会は、産官学と連携して、文化を通じて都市の活性化を目指そうという組織です。
そこで、芸術や文化の支援事業の相談を受けたのですが、サラヤの事業との関連が見つからなかったのです。例えば、アーティストや落語家などの発表会の提案があったのですが、それでは影響が限定的ですし、サラヤが支援する意義を感じられませんでした。
協会とともに検討していくなかで、この事業でサラヤは、利益を得るわけではないので、必ずしもビジネスの枠に当てはめず、社会課題の解決に取り組んできた企業として、何ができるかを検討することにしました。
「企業」「アート」「社会貢献」の掛け合わせを考えたときに、「障がい者アート」というキーワードが見えてきました。障がいがあるアーティストは、いわゆる一般的なアーティストよりも、世の中に出ていくハードルは高いです。
こうした障がいがあるアーティストの活動を支援することは意義があるし、サラヤにもできることがあるはずだと考えました。
方法としては、展覧会も考えられたのですが、アートの場合、買うまでのハードルはとても高いです。障がい者アートであれば、「どんな芸術的価値があるのか」という見方をされてしまいます。「展覧会を開いて終わり」にならないように検討を続けました。
■レンタル事業で継続的な収入に
――ほかの事業と同様に、どうすれば持続可能な形で、障がい者アートを支援できるかを考えられたのですね。
サラヤの社会貢献活動の根底には「持続可能性」があります。アーティストにとっても、消費者にとっても良い関係性を築きたい。そこで、着目したのが協会から提案のあったレンタル事業でした。
これなら、何十万円もかけて購入するよりもハードルがぐっと下がります。アーティストにとっても、継続的な収入になります。
――「art bridge(アート・ブリッジ)」は、どのようなサービスですか。
1作品あたり年間税込6万6千円(月額5500円)で貸し出し、利用料の一部(25%)をアーティストに還元します。会員になって頂き、希望のコースを選んでもらうと、絵が送られてきます。
作品名や作家名と共にアート・ブリッジの説明が記載されたキャプションが届くので、一緒に飾ってもらえれば、目的をもったアートだということが伝わると思います。
現代美術のアートマーケットにおいて評価を得ている、力のあるアーティスト11人からスタートしました。現在、23作品を用意していますが、今後増やしていく予定です。やはりアートとしての価値を見極めるには、専門家の知見が必要ですから、絵の選定にあたってはアートコンサルティング会社Office N(オフィス・エヌ、大阪市)の協力を得ました。
絵の選び方が分からない人も多いと思います。そうした方向けに「おまかせコース」も用意しました。オフィス・エヌが、設置場所に合わせて作品をすすめてくれます。
大阪限定ではありますが、アート・ブリッジ事務局のオフィスで貸し出し作品の現物を見てもらって、空間に合う絵を選んでもらうこともできます。
■多様な才能を社会に発信する
――オフィスや公共施設のエントランス、店舗、病院など、業態を問わずにさまざまな事業者が導入できそうですね。
緻密な絵やモノトーン、数字を書き綴ったもの、抽象的なものなど、魅力的な作品ばかりです。季節やテーマ、場所に合わせて、作品を変えて頂くこともできますし、複数の作品を飾ることもできます。
SDGs(持続可能な開発目標)に貢献したくても、何をしたら良いか分からない企業にとって、一つのきっかけになることを願っています。
――障がい者の支援という意味では、障がい者を雇用するという方法もあると思います。なぜ障がい者アートの貸し出し事業なのでしょうか。
当社は、積極的に障がい者雇用に取り組み、法定雇用率を満たしていますが、障がいの特性や程度によって、働きたくても働けない人がいます。企業が求める労働ができず、雇用のチャンスがつかめなくても、とても良い絵を描く人がいるのです。人にはそれぞれの才能があります。
サラヤの社会貢献活動では「『施し』ではなく『機会』を」をテーマにしていますから、障がいがあるアーティストにも良いチャンスを提供したいという思いがありました。
一般的なアーティストであれば、自分で活動したり、交渉したりできますが、どうしても障がいがあると、世に出るためのハードルが高くなってしまいます。障がいがあるアーティストの作品を取り扱うギャラリーも、そう多くありません。
才能を発見してもらうための間口を広げたい。それが今回のプロジェクトに込めた思いです。
――利用者も、障がい者アートを支援するプロジェクトの一員ですね。
作品を借りて飾ってくれる人がいるからこそ、作品に触れる人の数が増え、アーティストの可能性が広がります。
サラヤは協会の事業の立ち上げ支援を行いました。運営はオフィス・エヌが行います。サラヤに収益は入りません。
サラヤのノウハウや知見を活かして、持続可能なビジネスモデルを構築することが、私たちの役割でした。サラヤとしては、アーティストと企業がつながるきっかけをつくり、良い循環のハブになれたらと思っています。