王子HDの環境経営戦略は「森林化学会社へ」

記事のポイント


  1. 製紙業界のトップが、「森林化学会社」への転換を図る
  2. 森林資源を強みにバイオマスプラスチックやSAFの原料生産に挑む
  3. 王子ホールディングスは2025年を「バイオケミカル元年」と位置付けた

製紙業界のトップが、「森林化学会社」への転換を図っている。豊富な森林資源を強みに、バイオマスプラスチックやSAF(持続可能な航空燃料)向けの原料生産、半導体の材料開発に取り組む。2025年を「バイオケミカル元年」と位置付けた。(聞き手=オルタナ副編集長・池田 真隆、写真・廣瀬 真也)

鎌田 和彦(かまだ・かずひこ)・王子ホールディングス取締役 専務グループ経営委員
2013年5月、王子マネジメントオフィス株式会社入社、14年4月に王子木材緑化株式会社代表取締役社長、15年1月に王子ホールディングス株式会社グループ経営委員、15年6月に同社取締役常務グループ経営委員、22年4月に同社取締役 専務グループ経営委員、25年4月に同社代表取締役副社長執行役員に就任予定。

国内最大の社有林、経済価値は年間5500億円に

――昨年9月、国内に持つ社有林の経済価値を年間5500億円と算定しました。狙いは何ですか。

国内外で63万5千haの森林を所有していますが、今回はその内、国内に持つ18万8千haの森林を対象に経済価値を算出しました。

森林は、我々の生活に大きく影響する「公益的な価値」を持っています。CO2を吸収して酸素を供給するだけでなく、生物多様性の保全、土砂の流出防止、さらには雨水を貯え、水質を浄化させる役割もありますし、人にとっては、やすらぎを与える「保健休養」の場でもあります。

林野庁では、こうした公益的な価値を評価する算定式を公表しています。今回はその算定式を用いて、国内の社有林の経済価値を調べたところ、年間5500億円でした。

この自然資本の価値を発表した際、ステークホルダーの皆様から多く頂いた反応が、「どのようにして株価や収益につなげるのか」というものでした。

ただ、自然資本の価値を定量化したのは、財務価値につなげるためだけではありません。分かりやすい指標なので、公益的な価値を経済価値に置き換えただけであって、「原料としての森林」が持つ価値は測り知れないものです。

では、なぜ経済価値として算出したのか。当社は創業から152年の歴史がありますが、創業当初の紙の原料は使い古した衣服から取れる「ボロ布」でした。そこから、紙の旺盛な需要に応えるために、木を原料にした生産方法に変えました。

その際、森林資源を使うだけでなく、再び木を植え、育て、原料として使うことを考え、1930年代から森林の育成にも取り組むようになりました。こうした考えは、当時の社長を務めた藤原銀次郎の、「木を使うものには、木を植える義務がある」という言葉とともに、当社の理念として根付いています。

現在は、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言によって、企業に自然資本の開示を求める動きが高まっています。自然や生態系の回復を目指す「ネイチャーポジティブ」も重要な国際目標の一つです。

自然資本会計のニーズが増していますが、当社はこれらの動きが起きる以前から、脈々と受け継がれてきた理念に基づき、事業活動を展開してきました。今回、社有林の経済価値を算出した取り組みもその一環なのです。

米国を中心に、反 ESG の風潮は高まり、揺り戻しも見られますが、当社は森林とともにあることを謳ったパーパス(存在意義)の実現を目指していきます。

生態系を算定・見える化した「王子モデル」確立へ
SAF・半導体を王子グループの「次の主力事業」に
事業ポートフォリオは「聖域なき見直し」へ

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M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ副編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ副編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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