リクシル社長、「極端な需要家」に応えることが差別化に

記事のポイント


  1. リクシルは10ドル以下のトイレなど社会課題の解決を起点に製品を企画する
  2. アウトサイド・イン(社会課題起点のビジネス創出)の考えを取り入れる
  3. 瀬戸欣哉社長は、「極端な需要家に応えることが差別化になる」と言い切る

サステナ経営には、アウトサイド・イン(社会課題起点のビジネス創出)の考えが重要だ。住宅設備大手リクシルでは10ドル以下のトイレや低炭素型のアルミ形材など環境・社会課題の解決を起点に製品を企画する。瀬戸欣哉社長兼CEOは、「極端な需要家に応えることが差別化につながる。新しい社会ニーズをつかむ」と言い切る。(聞き手=オルタナ副編集長・池田 真隆) 

瀬戸欣哉(せと・きんや)・LIXIL社長兼CEO:
1983年、住友商事に入社。その後、MonotaRO を創 業し、工場用間接資材のインターネット販売事業で国内 市場をリードする企業へと成長させた。国内外で10 社以 上を起業した経験を有する。2016年にLIXILの社長兼CEOに就任。

――2021年にパーパスと3つのビヘイビアを策定しました。どのような思いを込めましたか。

リクシルの成り立ちを考えると、トステム、INAX、アメリカンスタンダード、グローエなど複数のブランドを有する会社を一つに統合してできた組織体です。

そのため、アイデンティティを策定するには、みんなの心を一つにすることが重要でした。売上高や業界シェアトップを目指すというものでは、みんなの気持ちは一つにできません。いい会社になるためには、売上高や利益追求以外の何かもう一つの目標が欠かせないと感じていました。

ステークホルダーの誰もが共感できるものにしようと思い、パーパスを「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」と定めました。3つのビヘイビアは、「正しいことをする」「敬意を持って働く」「実験し、学ぶ」です。

約5万5千人いる社員は異なるバックグラウンドを持ち、それぞれが多様な文化を持っています。文化は明文化されていないので、理解しづらいものです。だから、文化を理解しようとしても難しいので、明文化できないものは守る必要がないと考えたのです。

その変わり、一つになれる目標を作りました。3つのビヘイビアは一目で分かるものにしました。特異なものではなく、誰にとっても普遍的で分かるものにすれば、結果的には求心力になり、会社を一つにします。

「良い暮らし」はトイレから始まる

――2013年からバングラデシュで簡易式トイレ「SATO」を展開しています。この社会的事業もパーパスと直結しているのですね。

どんな人でも「より良い暮らし」を求めています。それを実現できるように、世界中の人に製品を提供していくことをパーパスに打ち出しました。

トイレは、より良い暮らしの出発点でもあります。安全で衛生的なトイレを設置することは、より健康的な暮らしにつながるはずです。

リクシルがほかの住宅設備メーカーと一線を画す証として、パーパスに込めた「世界中の誰もが」という言葉に重点を置いたことです。

安全なトイレを利用できない人は世界に約35億人います。そして、世界で5歳以下の子どもが命を落とす最大の要因が下痢です。不衛生な水と劣悪な衛生環境が起因する疾患によって、一日に1000人が亡くなっているのです。

安全なトイレがない地域では屋外排泄をするしかありません。排泄物によって地下水や川の水が汚れて、その水で手洗いしたりすることで、子どもが下痢になってしまいます。   

リクシルの「SATO」

リクシルはSATOというソリューションを持っていたので、この課題の解決に取り組むことを決めました。SATOはシンプルな構造ですが、カウンターウェイト式の弁が開閉し、この弁が蓋の役割を果たし、悪臭や病原菌の媒介となる虫の進入を防ぎます。

バングラデシュで2013年からこの活動を始め、SATOを販売するだけでなく、現地のNGOなどと組んで衛生改善の啓発にも取り組んでいます。

すでに政府は屋外排泄もなくなったと公表しています。一定の成果を挙げられたと考えています。

――SATOは安価な価格帯が特徴ですが、バングラデシュでは19年に事業単体での黒字化を達成したものの、その後、コロナなどの影響を受けるなど、安定的な収益を確保するには課題があるではないでしょうか。それでもこの事業を続ける意義をどう考えますか。

45カ国でこの事業を継続していることが、リクシルを一つにしています。リクシルは世界のトイレメーカーの中で、唯一数ドルのトイレを販売しています。数ドルなので、百万台売っても、百万ドル程度にしかなりません。

それでも続けるのは、それなりの意味があるからです。環境や社会の課題に対して、真剣に向き合うという社内外への意思表示でもあります。

それだけではなく、製品の開発段階で差別化を常に考えています。SATOのような簡易式トイレだけでなく、リサイクルアルミ100%を使った低炭素型のアルミ形材「プレミアル」などです。

低炭素型のアルミ形材「プレミアル」

環境や社会課題の解決につながる製品の売上高を2030年には、全体の半分を占めるようになりたいと考えています。

そうすると、そのインパクトそのものが、差別化につながり、社会から選ばれるようになります。会社としては利益が上がり続け、持続可能な経営に直結します。

バングラデシュでもこういった考えのもと事業を続けています。

――社会課題起点で事業を考える、「アウトサイド・イン」の視点で製品を企画しているのですね。

私は社内で、エクストリームユーザー向けのマーケティングを強化するよう指示しています。エクストリームユーザーとは、「極端な需要」という意味です。

つまり、極端な需要に応えることで、誰にとっても使いやすい製品になるという考え方です。この考え方は、社会ニーズを見出すアウトサイド・インと同様だと思います。

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M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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